スタイリスト(38歳)

この年になったら、電撃婚もできちゃった婚も喜ばれる。

スタイリスト(38歳) 大きな買い物袋をいくつも抱え、表参道のベンチに腰かけていた彼女。「お買い物の休憩中かな」と思って声をかけてみたところ、スタイリストの仕事中で、打ち合わせまでのとき間が少し空いたところだという。

 打ち合わせに必要なアイテムを買っているところでした。こうやってたくさん袋を持ってお店に入ると、店員さんから「ものすごくたくさん買ってくださるお客さんかな」と思って、手厚く接客されてしまうことがあって、ちょっと困っちゃいますね(笑)。

オシャレなイメージがあるけど、実際は足で稼ぐ仕事です。

 スタイリストとしては、広告のお仕事が多いです。CMのコンセプトや出演される方の情報を聞いて、それに合うファッションアイテムを探してきます。

「スタイリスト」というと、おしゃれなイメージがある職業かもしれませんが、実際は足で稼ぐ仕事だし、雑務も多いです。ときに会ったことのない人に対して「なんでそこまで考えられるの!」というレベルの気遣い、たとえば「夏は、サンダルで来た方が靴を履くときのために、靴下も用意しないといけない」などの細かなことも要求されて、初めは大変でした。

 大変なのは、自分が好きなブランドに限らない、幅広い知識が求められることですね。例えば、おじいさん、おばあさん、子どもの服も知らないといけません。そういう意味で一番苦労したのは、作業服やハーネスを売る会社の広告で、作業服に合わせるタオルや靴などを探したときです。このときは実際に働かれている方を見に行って、現場のリアルな雰囲気を把握してから、アイテムを決めました。

 私が若手として働き始めたときはギャルブームだったので、よく渋谷 109に足を運んでいたのですが、このときも大変でした。ギャルは身に着けるアイテムが多いですし、モデルも素人の方が多いので、現場に不慣れなんですよね。それからギャルのアイテムは模倣品も多くて、本人もそれと知らず身に着けていることもありました。当然模倣品は使えないので、また探すんですけどね。

昔より予算が減ってきて、寂しく感じることもあります。

 20年ほどこの仕事をしているので、変化も感じます。昔に比べて、一般の人が顔を知らない人、例えばインスタグラマー等のインフルエンサーのスタイリングをすることが増えました。顔写真1枚だけ渡されて「この人の衣装決めて」と言われるので大変(笑)。検索してもあまり顔や体形が分からない人も多いんですよね。

 昔に比べて予算が減っているので、下手すると「安いものを探す人」みたいになって、そのことにばかり労力をとられちゃう。ちょっと悲しいですね。

 でも、震災のときに比べれば今は全然楽しいです。当時は仕事も減りましたし、もう、日本全体が服を買う気になっていないのが辛かったです。やはり生存に必要ないものなので……。私の仕事のモチベーションも下がっていました。

この年になったら、電撃婚もできちゃった婚も喜ばれる。

 特に結婚は焦っていないですね。焦って結婚して、離婚する方が嫌なので。子どもを産みたい願望はあるのですが、まだ生まれてもいない子どものために、自分の人生を焦るのは違うかなと。

 付き合っている相手はいるのですが、この仕事は忙しいので、子育て続けている人があまりいなくて。まあ、色々考えてもキリがないなと思います。仕事は続けたいし、なるようになるかなと。

 この年になると、結婚も出産も、逆にいつでも良くなってくる気もします。できちゃった婚でも喜ばれるし、結婚するまで何年も付き合わなくても自然だから、その方がスピーディーで気楽かも。

 もうひとつポジティブなことを聞いたことがあって。親が高齢になってから作った子どもは、落ち着いた子に育つらしいですよ。確かに年を取って精神的に安定している親に育てられたら、それが子どもにも伝わるのかもしれない。

 とにかく、先のことを色々考えて心配しても、キリがないなって思っています。

表参道にて

東京大学卒業後、大学職員となるが、「書くことを仕事にしたい」「自分の女性性への違和感を見つめたい」との思いから27歳で退職。水商売、レンタル彼女、作家のアシスタント等を経て、現在はライター・エッセイスト。
フォトグラファー。岡山県出身。東京工芸大学工学部写真工学科卒業後スタジオエビス入社、稲越功一氏に師事。2003年フリーランスに。 ライフワークとして毎日写真を撮り続ける。
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