産婦人科医・種部恭子の「女性のカラダ、生き方、時々ドラマ。」08

日本の女性は、やせすぎている。産婦人科医が警鐘を鳴らす大問題

2020年東京五輪に向けて、アスリートの活躍に期待が集まります。女子の金メダルラッシュが期待されるレスリングや柔道は日本のお家芸ですが、階級制ですので厳しい減量が強いられます。また、新体操、体操などの採点競技も食事制限をしている選手が多く、摂食障害や無月経、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などの弊害が出やすいと言われています。産婦人科医の種部恭子先生は「アスリートだけではなく、ダイエットをしている一般の女性にとっても深刻な問題です」と警鐘を鳴らします。

●産婦人科医・種部恭子の「女性のカラダ、生き方、時々ドラマ。」08

 2010年バンクーバー、14年ソチと2大会連続で冬季五輪に出場したフィギュアスケートの鈴木明子さんは現役時代、摂食障害に苦しみました。競技生活の後半は復活し、活躍しましたが、体重は一時32キロまで落ちたことがあったそうです。肥満度を表すBMI (ボディマス指数:体重を身長の2乗で割った比率)は18.5から25までが正常範囲内とされています。身長160センチの鈴木さんなら、体重は47.36キロ以上必要です。

 高い芸術性と身体能力、美しさが求められるフィギュアスケートは、過酷な競技です。摂食障害に苦しむ選手は、病気をひた隠しにする傾向にあり、減量が原因とされる体調不良や故障によって早々に引退する実力選手は少なくありません。過度な食事制限はその後の人生に暗い影を落とすこともあります。

 体重の増加が審美的に影響することを気にして食事を制限すると、パフォーマンスは落ち、思ったような結果が得られないことがあります。そうすると選手本人はさらに追い詰められ、体重増加を恐れて適切な判断ができないまま食事を制限し、練習を続けてしまうのです。ここからは、アスリートだけでなく、一般の女性にも共通する問題として、無理な減量に伴うさまざまな弊害についてお話ししましょう。

 摂食障害には、食事を極端に減らしたり偏ったものだけに制限したりする「神経性やせ症」と、極端に大量に食べてしまう「神経性過食症」があります。神経性やせ症の場合は体重減少により月経が来なくなり、体力の低下により日常生活に支障を来すことがあります。過食症の場合は、食べ過ぎたことを後悔して自分で嘔吐したり、下剤や利尿剤、浣腸などを使って強引に体重を減らそうとしたりすることがあります。

 過食・嘔吐をすることで心のバランスを取っているため、学校や仕事に行けなくなることもあります。やせ症も過食症も、適正体重であるにもかかわらず、「太っている」と思い込んでしまう「認知の歪み」があり、自分の力だけで治すことは難しいものです。

常に結果を求められる重圧から引き起こされる

 うちのクリニックを受診する女の子の中には、思春期に摂食障害になり、無月経を理由にようやく受診を決意して来院することがあります。彼女らの苦しみの原因もアスリートと同じです。よく見られるのは、親が勉強や習い事などに熱心で、「親の期待に応えたい」と頑張っている進学校の女の子のケースです。

 頑張ることで優秀な成績が得られたり、習い事などで活躍できたりしているときはよいのです。しかし、頑張っても、頑張っても、「もっと頑張りなさい」「何で100点取れないの」などと言われたり、頑張っているつもりでも「愛されていない」「期待に応えられていない」と思い込んでしまったりすると、女の子は追い詰められ、居場所や心が落ち着く方法を探し始めます。

 そのひとつが、やせることや食べること。一過性の充足で傷ついた自分を維持するうちに、体型への認知の歪みや体重への強いこだわり、満腹や満足が分からなくなるなど、自分を失っていきます。完璧を求められ、それに応えようと頑張っているのに「期待に応えられない自分」に対して肯定感がわかず、さらに自分を追い込んでしまうのです。

日本の「標準」は健康レベルから離れている

 そもそも、日本の女性は、やせすぎています。GDPが同じくらいの国と比較すると、圧倒的にやせすぎの女性が多いのです。海外でショッピングすると、日本人の服のサイズがいかに小さいか分かります。欧米人より身長が低いことを考慮しても、細すぎます。

 文化的に形成される体型の「標準」が、健康なレベルにセットされていない。人が生涯自分の足で立って生きるために必要な筋骨格系は、10~20代前半に出来上がります。この年齢で筋肉や骨の貯金ができていないと、女性の場合は閉経後にあっという間に運動器の機能低下を来します。若いうちによく食べて、運動して、骨と筋肉を作っておくことは、将来の自分への投資です。

 欧州では「ファッション業界が、痩身への憧れをあおっている」とし、政府や医学会はBMIが低すぎるモデルをショーや広告に起用しないよう、ショーの主催者やメーカーに呼びかけているそうです。ファッションの中心地であるフランスでは、極端にやせているモデルの活動を禁止する法律が施行されているとか。この法律により、モデルはBMIが低すぎず、健康体であることを証明する医師の診断書を提出するよう義務付けられています。

「そのままの自分」を、好きになって

 過度なダイエットにより引き起こされる症状は貧血、肌荒れ、脱毛などさまざまですが、深刻な症状の一つに無月経があります。体脂肪が15%を下回ると女性ホルモンの分泌が抑制され、10%以下では卵巣機能が停止してしまうからです。ほとんどの場合、体重が戻れば月経は戻ってきますが、摂食障害があると月経はなかなか戻りません。

 とくに、長期にわたって低体重でいることで骨量が獲得できないと将来、骨折しやすくなります。エストロゲン(卵胞ホルモン)を補うことが必要になりますが、体重をある程度は戻さなければ、その治療もできません。

 無月経になると、そもそも妊娠することは難しくなりますが、痩せ過ぎの状態で妊娠したとしても、影響は次世代に及びます。ある研究によると、低い栄養状態で妊娠すると、胎児は栄養不足を「過酷な状況」と認識して、特殊な代謝経路が確立されることがわかっています。生まれた後も、その代謝経路は維持され、肥満の傾向が強くなり、高血圧・高脂血症・糖尿病などの生活習慣病を発症する確率が高いといわれています。

 摂食障害は心の問題であり、最悪の場合は命の危機にもつながります。「telling,」世代でも、自分を認められない苦しさを背負い続け、自分を変えようと気軽な気持ちでダイエットを始めたものの、気がついたら体重や体型へのこだわりが強くなり、偏食や減食が止まらなくなる危険性があります。悪いのは自分ではなく、自分を頑張らせた環境が問題だったのです。「そのままの自分」に自信を持ち、自分を好きになって生きることは、とても大事なことなんです。

(次回に続く)

構成:若林朋子

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富山市生まれ、富山医薬大医学部(現富山大医学部)卒。同大付属病院などを経て2006年から女性クリニックWe富山院長。専門は生殖医療(内分泌・不妊)、思春期・更年期、女性医療。
北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。