アスリートビューティーアドバイザー、元モデル(30歳)

アスリートを挫折、摂食障害にもなった私だからできる仕事がある。

アスリートビューティーアドバイザー、元モデル(30歳) アスリートからモデルへ転身し、現在は“アスリートビューティーアドバイザー”としてスポーツ選手の「魅(み)せ方」やセカンドキャリアをサポートしている。立ち振る舞いが、カッコいい。そんな彼女に、聞いてみた。「身も心も、いつもシャキッとしていたいけれど、毎日は無理。どうしたらもっと前向きに過ごせるんでしょうか」。仕事へのやりがいと、悩んだ日々を彼女はストレートに語ってくれました。

 「メイクをすると、試合前にスイッチが入る」というスキージャンプの女子選手がいます。インタビューを受ける時もきちっとメイクすると、受け答えに自信が生まれます。外見を整えることで、内面が磨かれる……。そんな効果があると思います。

 それに、女性アスリートが引退してセカンドキャリアを踏み出すとき、ちゃんとメイクして、おしゃれをして新しい道を歩んでいってほしい。そんな思いで、「アスリートビューティーアドバイザー」として、現役・引退後のアスリートと関わる仕事をしています。

 「ワールドゲームズ」って知っていますか。五輪に採用されていないスポーツの国際大会です。昨年7月にポーランドでワールドゲームズが開催されたとき、競技会場を巡って選手のメイクを担当したんです。試合で敗れた選手にメイクをしていると、泣き出す方もいて。でも、晴れやかな顔で表彰式やメディア対応に臨んでくれたことは嬉しかった。アスリートの姿を見て、美しいと思いました。

アスリートとしては、成功できませんでした

 高校時代は全国大会で優勝するような強豪校のバドミントン部の一員でした。でも、選手層が厚くて、レギュラーの座をつかむことはできなくて。とはいえ、大学は体育系の学部で、入ったのはバドミントン部。今度はレギュラーになれたのに、競技はやめました。負けても悔しいと思えなかったから。燃え尽きちゃったんですね、競技の世界では……。

 その後、スカウトされてモデルになり、「ミスユニバース愛知ファイナリスト」になることができました。こんな私の経歴を生かした結果が、「アスリートビューティーアドバイザー」という仕事です。

カロリーと体重にこだわりすぎて、過食と拒食を繰り返しました

 私は、アスリートとしては成功できませんでした。「努力は必ずしも報われない」と気づいたときは悔しかった。「でも、これじゃ、嫌だ。やればできるという目標が欲しい」と思って、20歳の時に1年ごとの目標を立てたことがありました。

20歳・バンジージャンプ、21歳・富士山登山、22歳・オーロラを見に行く、23歳・ミスユニバースになる。

 オーロラまでは、実現したんです。ミスユニバースは地方予選に何度か応募して、モデル業をいったん中断した後、27歳のときにも考えました。年齢制限上、出場できる最後のチャンスでした。でも、周囲の反対にあって挑戦することをやめたのです。人生の大事な決断を人にゆだねてしまったこと、今も後悔しています。「30歳までに結婚したいな」という気持ちがあったように思います。

 そうそう、モデルになって2年ぐらい経った20代前半のころ、摂食障害になりました。「0.3キロ増えている」と所属事務所のスタッフから指摘されたのがきっかけ。カロリーと体重に過剰にこだわってしまい、過食と拒食を繰り返しました。数字ばかり気にしていたんです。周囲の反対を押し切って、一般企業に就職をせずモデルの道を選んだので、追い込まれていました。

 転機になったのは、マクロビオティックの料理教室でした。楽しく会話しながら料理を作り、味わって食べると心が満たされる気がしました。

「何歳までに結婚」「何キロやせなきゃ」「(食事は1日)何キロカロリー以下に抑えよう」。数字にこだわり、他者に自分の評価をゆだねてしまって、今思えば視野を狭めていましたね。人付き合い、食事…何をしても楽しくなくなってしまっていましたから。

仕事では挑戦しながら、成長していきたいと思っています

 できるなら、結婚して、出産して、夫婦仲良く、家族を大切にして生きていきたいと思っています。でも、結婚願望をオープンにすると、仕事のチャンスが減るんじゃないかと心配になったりもします。仕事では、挑戦しながら、成長していきたい。憧れは、ドレスデザイン中心の会社を経営する山城葉子さん。二児の母にして海外出張もこなすママ社長です。

 山城さんのような方が理想だって言うと、親から「あなたは、両立なんて無理」と言われてしまいました。そうなのかな。憧れてはだめかなあ。「準備をすればいいじゃないか」と思いますけど、難しいのかな……。一方で、先日妹が出産し、子育ての様子を間近で見ていると「近くで成長を見守りたい。側にいてあげたい」という気持ちも分かるように思います。葛藤しますね。自分が母になったら、悩むだろうなと思います。「両立」って口で言うほど、簡単ではなさそうです。

アスリートとは、存在そのものが美しく、尊い。刺激をくれる存在です。彼らと接する場に居続けながら、結婚や出産の機会も大切にしていきたいというのが、私の理想です。

富山市にて

アスリートビューティアドバイザー 花田真寿美

北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。