PMS(月経前症候群)のつらい症状、我慢するのをやめてみない?

身体の不調に加え、いらだちや不安などの精神症状に悩まされることもあるPMS。ひどい場合は日常生活もままならず、仕事もうまくいかなくなってしまいます。近畿大学東洋医学研究所の産婦人科医で「女性漢方外来」などを開設した武田卓(たけだ・たかし)教授にお話を伺いました。

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――月経前のつらい症状について、PMS(premenstrual syndrome:月経前症候群)やPMDD(premenstrual dysphoric disorder:月経前不快気分障害)という言葉をよく聞くようになりました。でも、そもそもどういう意味で、両者の違いは何なのでしょうか?

武田教授(以下、武田): PMSは、月経の1~2週間前から不快な症状が現れ、月経開始後数日で症状はなくなります。

症状は150種類以上あると考えられていて、まさに百人百様です。手足のむくみや腹部のはり、乳房の痛みなどの身体症状を感じる人もいれば、うつ気分、イライラ感、眠気、だるさなどの精神症状を訴える人もおり、これらの症状が重なって出現します。また、過食や偏食(チョコレート等、特定のものばかり欲しくなる)になる人も多いです。

精神症状が強く社会生活が困難なレベルだとPMDDに

武田: PMSのなかでも精神症状が強く、社会生活が困難な場合はPMDDと診断されるのですが、イライラ感や突発的な怒り、不安によって対人関係に摩擦が生じやすくなり、ひどい場合は職場や学校、家庭生活に支障が出ることもあるので注意が必要です。

PMSは中学や高校の健康教育でもほとんど取り上げられないため、まだ社会に十分認知されておらず、治療をせずに我慢して抱え込んでしまう人も多いのが現状です。しかし、こうした状況を放置することは大きな社会的損失です。身体症状、精神症状、いずれも日常生活に支障がある場合、専門の病院での治療を考えたほうが良いでしょう。

――PMSやPMDDの治療法には、どんなものがあるのでしょうか。

武田: 薬による治療をする前に、カウンセリングや生活指導を行うのですが、本人にいつ、どんな症状が現れるのか知っておいてもらうため、症状日記をつけてもらいます。すると、いつ頃調子が悪くなるのか分かるので、その時に大事な用事を入れないようにするのです。

また、規則正しい生活をして、バランスの取れた食事をするよう生活習慣を見直すことも大事です。運動を定期的にすると気分転換にもなるんですよ。少し前まではコーヒーを飲まないほうがいいと言われていたのですが、最近の研究では、コーヒーを飲んでも差し支えないとされています。

こうしたことをしてもつらい症状が続くようであれば、薬を使って治療します。軽症であれば、対症療法や精神安定剤、利尿剤や鎮痛剤、漢方薬を症状に合わせて使います。重症の方の場合は、抗うつ薬や低用量ピルを用いるのですが、ピルはドロスピレノン含有製剤(商品名:ヤーズ)というものを使用します。PMS・PMDDと月経痛は合併することが多いのですが、ピルは月経痛を和らげる効果も得られます。

――先生は2012年、近畿大学東洋医学研究所長に就任されたのを機に、「女性漢方外来」を開設した実績をお持ちですね。漢方薬は、どのように治療に使われているのでしょうか。

武田: 漢方薬は心と体の全体に働きかける薬です。PMSの症状の緩和や、根本的な原因である瘀血(おけつ=血のめぐりの滞り)を改善する働きも期待できます。副作用も少なくて使用しやすいです。

症状や体質に合わせて当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)や加味逍遙散(かみしょうようさん)、抑肝散(よくかんさん)などを使います。ピルを使ってもイライラ感が残る時に、抑肝散を少量使ったり、抗うつ薬でむかつきが出る場合には六君子湯(りっくんしとう)を使ったりと、西洋薬と組み合わせて使うこともできます。

甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)という漢方薬は、突然涙があふれてハラハラ泣けてくる、カーっとして感情が高ぶる、強烈にイライラするなどという症状の人に使うことがあります。

これを飲んだ人は、『まるで体が溶けるみたい』だと言います。リラックスできるのでしょうね。あまり熟れていない若い小麦が入っているのですが、これに含まれるマグネシウムが作用しているのではないかと思われます。即効性があるので、お守りのように持っておくといいです。

――いろいろな治療法があることがよく分かりました。PMSやPMDDで悩んでいる人は、治療を受けてみる価値がありそうですね。

武田: PMSもPMDDも合わせると、日本人の成人女性のうち約180万人が未治療と考えられています。我慢せずに、産婦人科や精神科の医師に相談することをおすすめします。

また、近畿大学東洋医学研究所では、厚生労働省の研究助成でエクオールという活性型イソフラボンを用いた臨床試験も実施しています。採血などは必要なく、簡単な試験です。興味のあるかたは、参加していただくのもいいかもしれません。参加方法の詳細は研究所のホームページに掲載しています。

武田卓・近畿大学東洋医学研究所所長
  • ●武田卓(たけだ・たかし)教授のプロフィール
    1987年、大阪大学医学部を卒業。同大医学部産婦人科助教や東北大学医学部先進漢方治療医学准教授などを歴任。2012年、近畿大学東洋医学研究所所長・教授に就任したのを機に「女性漢方外来」「冷え症外来」を開設。東北大学医学部産婦人科客員教授兼任
「難しいことを分かりやすく」伝えるをモットーに医療から気軽に行けるグルメ、美容、ライフスタイルまで幅広く執筆。医学ジャーナリスト協会会員
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