「望まない妊娠」から身を守るために知っておきたい緊急避妊薬の利用法

望まない妊娠は避けたいものですが、避妊に失敗するなどの「予期せぬ事態」がいつ起こるかは誰にもわかりません。いざという時に備えて知っておきたい緊急避妊薬の利用法について、近畿大学医学部産婦人科の松村謙臣教授に聞きました。

 

緊急避妊薬ってどんな薬なの?

――緊急避妊薬(emergency contraception:EC)とは、どのような薬なのでしょうか。

松村謙臣先生(以下、松村): 緊急避妊薬はモーニングアフターピルという呼び名でも知られています。緊急(emergency)という冠がついていることからも分かるように、日常的な避妊に用いる薬ではなく、あくまでも最後の砦。何らかの事情で望んでいないが妊娠をしてしまう可能性がある時に服用し、子宮内を妊娠しにくい環境にする薬です。現在、主に使われているのはレボノルゲストレルという薬剤(※商品名ノルレボ錠)。医療機関を受診して、性交後72時間以内に1錠服用します。副作用は少ないですが、悪心嘔吐や不正出血が見受けられることもあります。

――具体的にどんなときに処方されるのでしょうか。

松村: まず、避妊手段が適切かつ十分でない場合です。たとえば、
・コンドームの破損・脱落・不適切な使用
・低容量ピル(経口避妊薬)を服用し忘れた時、下痢などで十分吸収されない可能性がある時
・レイプなどの性的暴行に遭った時
・そのほか、避妊具の不適切な装着、破損、脱落
などです。

医療機関を受診しないと処方されない

――緊急避妊薬は、医療機関を受診しないと処方されないのでしょうか。

松村: オンライン診療による処方が議論されていますが、現在は基本的に産婦人科の医師の診察を受けるなど、医療機関を受診しないと処方されません。
(編集部注:5月以降、オンライン診療の指針が改定される予定。3週間後に医師受診の約束を取り付けるなど、処方の条件あり)

また、事前によく理解しておく必要があるのは、緊急避妊薬を服用しても完全に避妊できるとは限らず、成功率は80%程度だということです。服用後も、月経が予定より7日以上遅れる、あるいは通常より軽い場合には、妊娠の可能性について確認するために医療機関で検査を受ける必要があります。

――性交後、いつまでに服用すれば妊娠を防げるのでしょうか。

松村: 先ほども言ったように妊娠を100%防げるわけではありませんが、緊急避妊薬は性交後できるだけ早く服用したほうが効果があるとされています。72時間以内に内服すればいいので、必ずしも性交直後に受診する必要はありません。まずは、冷静になってください。たとえば、土曜日の22時に避妊に失敗した場合、日曜日の22時で24時間、月曜日の10時に医療機関を受診、服用した場合、性交後36時間ということになります。

――費用は、どれくらいかかるのでしょうか。

松村: 通常の病気の治療とは異なり保険適用外のため、初診料、薬剤費などを含め約20,000円かかります。

ただし、性犯罪に遭われた場合は、被害者の精神的・経済的負担の軽減を図るために緊急避妊などに要する経費(初診料、診断書料、性感染症などの検査費用、人工妊娠中絶費用などを含む)を公費で負担する制度が2006年から導入されています。現在、女性被害者のうち約2%しか医療機関を受診していないという報告がありますが、万が一そうした被害に遭われた場合は、ご自身の体を守るためにも積極的な受診をお勧めします。

性感染症などは防げないので注意が必要

――緊急避妊薬の内服以外に、望まない妊娠を防ぐ方法はあるのでしょうか。

松村: 性交後120時間以内に銅付加IUDという子宮内避妊具を子宮内に挿入するという方法もあります。ただし、出産経験がない場合は挿入が困難で、性感染症の疑いがある場合、感染を悪化させる危険性があると考えられています。海外でも実施されることはそれほど多くありません。

画像はイメージです。本文に登場する薬品とは関係ありません

――緊急避妊薬と称した薬をネット通販でも入手できるようですが、どのようなリスクがあるのでしょうか。

松村: 医師の診察を受けるよりも手軽に入手できるように思われるかもしれませんが、
・その薬が本物であるという証拠がない→妊娠する可能性がある
・どのような副作用が起こるか分からない
などのリスクがあります。緊急避妊薬は、医療機関を受診して、医師に処方してもらいましょう。

また、緊急避妊薬を使って妊娠を防げても、望まない性交による性感染症や、ウイルス感染によって引き起こされる子宮頸がんを防ぐことはできないので注意が必要です。性感染症の検査や子宮膣部、頸部(けいぶ)細胞診検査を併せて受けることをお勧めします。

●松村謙臣(まつむら・のりおみ)先生プロフィール
京都大学医学部医学科卒業。Duke University 客員研究員、京都大学大学院医学研究科医学専攻准教授などを経て、2017年から近畿大学医学部産科婦人科学教授。専門は婦人科腫瘍学。婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG)の理事などを務める。

「難しいことを分かりやすく」伝えるをモットーに医療から気軽に行けるグルメ、美容、ライフスタイルまで幅広く執筆。医学ジャーナリスト協会会員