telling,2018傑作選

【telling,傑作選】子どもを産んでも産まなくても、自分らしく生きる

2018年telling,でご好評いただいた記事や、もう一度お伝えしたい記事をご紹介しています。 (元公開日:2018年5月11日)2年前、国内で行われたアンケートで、20代、30代の女性に「パートナーの有無は別として、あなたは『子どもが欲しい』と思いますか?」と聞いたところ、4人に1人が「子どもは欲しくない」と答えていました。「欲しくない」という回答を深掘りしてみると、必ずしも「子どもが苦手」という人ばかりではないのです。背景にはどんな思いがあるのでしょうか。産婦人科医の種部恭子先生とともに、「産めない」「産まない」という声にも耳を傾けてみたいと思います。

●産婦人科医・種部恭子の「女性のカラダ、生き方、時々ドラマ。」04

子どもを産んでも産まなくても、自分らしく生きるために。

私は産婦人科医ですから、「産みたいのに、産めない」という人と向き合い、不妊治療を支援してきました。だから、産むことだけを推奨しているように見られているかもしれません。しかし、「産まない」ことも人生の選択の一つだと思っています。

「産めない」を受け入れ、さっぱりした表情で「卒業」

不妊治療の末、「産めない」という現実を受け入れなければならない人もいます。時には、「子どもを持つ・持たないは、個人の価値を決めるものではありません。自分と社会のために生きましょう」と、強い言葉で励ますこともある。そうすると、家制度や「孫の顔が見たい」などという親の重圧から解放され、さっぱりとした表情で「卒業」していかれます。

最初から「産まない」という選択をする人もいます。結婚や子を持つ選択はせず、必要と思う仕事に取り組んでいる女性は、どの職種でも一定数、いることでしょう。「男性に負けないように」と頑張っている人も、少なくないのではないでしょうか。しかし、それでは心も体も参ってしまう気がします。女性だからこそ感じる改善点など、肌感覚を働かせた気づきを、それぞれの道で生かしてほしいと思います。

問題は「産みたいのに、産む環境が整わないから、産めない」という人が少なくないことです。アンケートによると、「2人以上欲しいけれど1人が限界」または「欲しいけれど諦める」と回答している人たちの「産めない理由」はいずれも、「経済的に厳しい」がトップです。キャリアアップを図ることで収入は増えるはずですが、子育ての負担は大きくなる。収入増か、子育てか・・・・・・という葛藤を、女性の側だけが1人で背負っているのではないでしょうか。

みんな、「これじゃあ、産めない」と思っている!?

子育て中で少し仕事をセーブして働いている「ゆるキャリ」の方に話を聞くと、「家事・育児・仕事…こんなに大変なのに、夫も職場も理解してくれない」と不満をこぼします。

仕事を重点的に頑張っている「バリキャリ」の女性たちは、「何で私が、子育て中の人のフォローばかりしなければいけないの。自分だって産みたい」と思っています。でも、職場で不満は言いにくい。

仕事にやりがいを持ち、ちょっと後ろめたい思いで子育てをショートカットしつつこなしているスーパーウーマンは、「『子育て中だから、キャリアはひと休み』と戦力外通告されることが不本意」と感じたり・・・・・・。

それぞれに、悩みがあります。なかなか本音を言えない。多様な立場の女性がいる職場で、それぞれの立ち位置に不満を抱えながら仕事をしていると、快く「お互いさま」とは思えません。しかし、皆が心の底で思っているのは、「これじゃあ、産めない」ということではないでしょうか。2人目、3人目を望む人も含め、「産みたい」という気持ちにブレーキがかかるのですから、日本の少子化は進んでしまうわけですよね。

育児や介護などのために、ゆるキャリとバリキャリを行ったり来たりする人もいます。1人の人生においても、組織の中でも、「産む」「(今は)産まない(も含め)」双方の生き方を尊重したいものです。

医学部に進んだころは生涯、独身でいるつもりでした

実は私自身、医学部に進んだころは生涯、独身でいるつもりでした。研修医だったころには、上司がいなくなったのを見計らって、術後の患者さんから「あなただけに言うんだけれども・・・・・・」と、パートナーとの関係、性の悩み、ずーっと昔の出産時に言われたひと言など、いろんな相談を持ちかけられました。男性医師や看護師には聞けないことを、私だけに話してくれる。まだ、女性の産婦人科医は少ない時代でした。だから「そういう声を聞くことは、自分のミッションだ」と確信しました。

その後、縁あって結婚し、出産もしましたが、私のミッションは今も変わってはいません。「telling,」世代には、すでに取り組んでいる仕事の中で、やりたいことがあるのなら、キャリアをあきらめないでほしいと願っています。

子どもができたからといって、生き方を曲げる必要はありません。子どもがいてもいなくても、男性でも女性でも、「自分にしかできないこと」「やりたいこと」を諦めるのは、もったいない気がします。

「自分にしかできないことなんて考えたこともない」「私は何もできないから・・・・・・」と思わないでください。自分が持っている不満、考えると震えるほど悔しかったり悲しかったりしたできごとの経験などは、きっと同じように感じている人がほかにいるはずです。どうしたら解決していけるのかを探しあてたら、それが “ミッション”。自分の肌で感じる感覚を大切にすれば、これから見つかるかもしれません。

子どもは社会からの預かりもので、18年間育てれば巣立っていきます。子育てはあなたの上を通り過ぎていくものですが、仕事はあなたのもの。出産経験は、女性の付加価値ではありません。

もし、追っている夢のために「今は、産まない」という選択をする人には、「存分に活躍してほしい」と願っています。もちろん、やりたいことが仕事でなく、ボランティアなどの社会貢献活動や、趣味でもいい。「産む」「産まない」にかかわらず、自分らしく生きてほしい。私は、そう思っています。

構成:若林朋子

富山市生まれ、富山医薬大医学部(現富山大医学部)卒。同大付属病院などを経て2006年から女性クリニックWe富山院長。専門は生殖医療(内分泌・不妊)、思春期・更年期、女性医療。
北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。
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