歯科医師(34歳)

幸せのものさしは自分の中にある。まわりが決めるものじゃない。

歯科医師(34歳) 27歳で結婚、夫の海外転勤にあわせ仕事を辞める。その後帰国し、長女を出産。専業主婦から、通信販売の仕事を始め、2017年に起業。自ら監修したオリジナルオーラルケア販売業を始める。

まだ交際数カ月。早いなと思ったけど結婚を決意

 歯科医師になるのは小学生からの夢でした。仕事が楽しくて、祝日以外は毎日働いていました。27歳の頃、つき合っていた彼氏と結婚を決めました。きっかけは東日本大震災。彼の勤める外資系企業が、震災の影響で日本支店を閉じることになったんです。「シンガポールへの転勤が決まったので、結婚してついてきてほしい」と言われました。

 シンガポールは日本の医療ライセンスを使える国なので、向こうでも働けるなと思って、仕事を辞めて、ついていくことにしました。まだ交際数カ月。早いな、とも思いましたが、そういうタイミングなのかなと思って決めました。

 ですが、夫の仕事の都合で、なんと1カ月で日本に帰ることになったんです。大きな覚悟をして決めたのに! ってそのときは少し思いましたけれど(笑)

専業主婦。そのときは社会と断絶している気がして苦しかった

 日本に戻って長女を出産。濁流にのみ込まれたかのような急な変化でした。長女が9カ月の時に復職。久々に働ける! ワクワクしていましたが、長女が熱性けいれんを起こしてしまって。

 熱性けいれんって、繰り返すと重症になる病気なんです。つきっきりで娘の様子をみていたいなと思って、結局、3、4カ月働いて、悩んだ末に辞めることにしました。

 この頃が一番苦しかったですね。可愛い娘、安心できる家、仕事に一生懸命な夫。すべてに感謝しているのに、私の心はなぜか満たされていない。社会と断絶されているような感じがしたんです。

 外で働いている夫がうらやましく思えたこともありました。小学校から大学まで男女は平等だと教わってきたし、それを疑ったことはありませんでした。だけど、子どもを産んでから初めて、男性と女性の仕事に向き合える機会の多さという点では不公平なこともあるんじゃないか、と感じるようになりました。

 私なりの形で社会と接点を持とうと、子ども服の個人輸入をするネットショップを始めました。海外には可愛くて安い子ども服がたくさんあるのですが、自分の子どもの分だけじゃなく、まとめて買ったらたくさんの方に喜んでいただけるし、関税や送料の点からもお得になるのではないかしら、と思ったのがきっかけです。

時短勤務か、パートか、起業か――

 子どもの就寝後、商品の写真を撮ったり、メールの返信をしたり、購入していただいた商品を発送をしたりする日々を送りました。月商は多いときで500万円くらい。しかし、1年半くらい続けたところで、歯科医師という本来のスキルを生かせることをしたいと思うようになりました。

 ただ、その後第2子である長男も産まれて、産前のように外で働くのはやっぱり難しいなと。時短勤務か、パートか、起業か――。子どもたちとの時間も確保するために、自宅でできて、スキルを生かせる方法、と考えると自然と起業することは視野に入っていました。歯科医師であり、母親である私だからこそ生み出せるオーラルケアの製品をつくることに決めました。

 マッサージやネイルには、子どもを預けないとなかなか行けませんが、歯磨きは毎日家ですること。その歯磨きの時間を義務ではなくもっと良いものにしたいって思ったんです。

 自宅で手軽に歯のホワイトニングを叶える製品をつくろうと、配合成分や使用後の効果にもとことんこだわり、歯科医師として胸を張っておすすめできる製品に仕上げました。

 パッケージも、まるでお気に入りのコスメのように、持っているだけで気分が上がる洗練された大人向けのデザインにしたいと――。より多くの方に手に取っていただけるよう、まわりのママ友の意見を参考にしながら時間をかけて形にしました。

 2017年6月に発売してから、好評をいただいて、自由が丘と丸の内の一部セレクトショップ、歯科クリニックや施設のアメニティなどで採用していただいています。今後も取り扱い店舗は拡大予定です。今では2人のスタッフに恵まれるまでになりました。

働く母親の姿を見せるのも、子どもにとっては良いことなのかな

 幸せのものさしは、自分の中にあるんですよね。まわりがきめるものじゃない。これは最近特に強く感じることです。そういう意味で、私にとって、幸せになるためには「仕事」という軸が大切なものだったんです。

 今、私、本当に幸せなんですよ。子どもにも幸せオーラは伝わるよう、「ママ楽しそうだね」と言われることも増えました。今朝も出かけるときに「ママの取材がうまくいくように、お守りだよ」と娘が手づくりのネックレスをくれました。

 商品パッケージに使用している色と同じ水色のひもを、どこで見つけてきてくれたんでしょうか。とてもうれしかったです。娘は「ママの仕事をお手伝いするためにパソコンの勉強をしたい」と言ってくれることもあります。

 「いい母親」って、習い事をいっぱいさせて、つきっきりで子育てをして……と考えていた数年前の私。でも、最近は働く母親の姿を見せることも、子どもにとってはいいことなのかなって思うようになりました。

 今の幸せも、つらかったことやもがいた時期があったからこそ。いいことも悪いこともそこから学ぶことを大切にしながら、私らしく歩んでいけたらと思っています。

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20~30代の女性の多様な生き方、価値観を伝え、これからの生き方をともに考えるメディアを目指しています。
フォトグラファー。岡山県出身。東京工芸大学工学部写真工学科卒業後スタジオエビス入社、稲越功一氏に師事。2003年フリーランスに。 ライフワークとして毎日写真を撮り続ける。