グラデセダイ

【グラデセダイ19 / 小原ブラス】それでも結婚しない若者に全ての責任を押し付けますか

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。タレントでエッセイストとしての顔も持つ小原ブラスさん。目覚ましい技術の進歩の中で、「結婚」に関する変わらない価値観が存在することに疑問を抱きます。

●グラデセダイ19

先日、夜中の2時に関東圏で緊急地震速報が鳴ったのを覚えているだろうか。幸いにも震度4の地震だったので大きな被害はなかったがSNSでは、スマホの緊急地震速報の音にびっくりしたという投稿が飛び交った。

この緊急地震速報の音に叩き起こされた僕は、寝ぼけながら必死に「アレクサ、ストップ!アレクサ、ストップ!アレクサ、うるさい!」と連呼してしまった。

「アレクサ」とは、家にあるAIスピーカーのことだ。外出先から家に帰り「アレクサ、ただいま」と言うと「お帰りなさい、帰ってくるのを待っていましたよ」と言いながら、電気をつけ、エアコンの電源も入れてくれる。寝る前には「アレクサ、7時に起こして」「アレクサ 、電気消して」とお願いをするし、起きて「アレクサ、おはよう」と言うと、最新のニュースと今日の予定を教えてくれる文明の利器。めざましを止める時は「アレクサ 、ストップ」なのだ。

近代の科学技術は加速度的に、いや爆発的に進化しているということをよく耳にする。何万年、何十万年と続く人類の歴史の中で、ここ100年の進化はこれまでの何万年分にも匹敵すると言われている。

100年前の人々に、地震の揺れが到達する前の緊急事態の知らせにびっくりして、寝ぼけながらAIスピーカーに向かって叫ぶ若者の姿が想像できただろうか。叩き起こされて眠れなくなった夜に、ふとそんなことを考えることになった。

確かに、ここ100年の科学技術の発展が凄いということは分かるし、電車の中でほぼ全員がスマホをいじり、Bluetoothイヤホンで音楽を聴いている空間にいるとそれを感じる。
しかし、生まれてからずっとこの爆発的進化の中にいる僕達からすると、それでさえ物足りないと感じることもある。

まだ車は空を飛んでいないし、僕らは月へ旅行することもできないじゃないか。1970年の大阪万博で予想された50年後の世界が今この2020年に実現出来ているのだろうか。ここ数十年で革新的に進化しているのはインターネットやスマホなどのガジェット類ぐらい。それ以外に私たちの生活を劇的に変えた何かがあるのか。そんな風に思ってしまう。

だが、それはこの時代に慣れたことで、大きな変化を見逃しているだけなのだ。ここ最近、何万年も前から当たり前とされてきた、人類の根幹に関わる大きな変化があったように思う。それはただ、スマホが便利になったとか、ネットで買い物が出来るようになったとか、そんな次元の話ではない。ここ数十年で一番変わったのは男と女の関係そのものだ。

殆どの先進国では「近頃の若者は結婚をしようとしない。結婚しないから子供も生まれない。」ということが問題となり、国はその対策のために頭を抱えている。
「最近の若者は草食ばかり」「最近の若者は欲がない」「最近の若者は度胸がない」上の世代からよく聞くフレーズだ。

若者が結婚をしない、そんなの当たり前だ。それと技術の発展がどう関係あるのかと思うかもしれないが、大ありだ。

昔は男性は外で働き、女性は家で子育てや家事をした。仕事は体力仕事が多いため、男性が圧倒的に有利。女性が社会に出てお金を稼ぐことは非常に難しく、女性は男性と結婚しそして男性の稼ぎに頼らざるを得ない社会だった。男性も、仕事が終わって家で家事をする余裕なんてない。家に帰ってから洗濯板を使いゴシゴシと洗濯をするなんてことは現実的ではなく、パートナーの女性がいないと生活は成り立たなかった。
文化の違いによる差はあるが、基本的に何万年もの間、人間の男性は狩り(仕事)をして女性は家を守るという役割分担をしてきた。男は女に頼り、女は男に頼るという関係を維持していたのだ。

それが現代ではどうか。技術の発展と共に力仕事が減り、仕事をするのに性別は関係なくなってきている。まだ一部男女差が残っている点もあるが、女性の地位は格段に上がり、1人でお金を稼げる時代になってきた。男性も、服を放り込んでおけば洗濯をしてくれる家電もあるし、電子レンジでチンすれば何だって食べられる。
家に1人で居ても、SNSで他人と簡単に繋がれるし、月1000円程度でNetflixに加入すればドラマも見放題。それに、寂しくなったらアレクサが話し相手になってくれる。
もはや、男と女が互いに頼らなくても幸せに生きることが出来る時代になったのだ。

唯一の歯止めとなる性欲でさえ、安く手に入るようになった娯楽で発散されてしまう。スマホ一つあれば世界中の様々なジャンルの動画も見られる。これからVRの発達と共にこの分野は進化し、益々世の人の性欲を満たすことになるだろう。技術の発達とともに、結婚に興味がない若者が増えるのは当然のことなのだ。

男女が互いに頼らなければ生きていけない発展途上国とは違い、技術が発展しその恩恵を国民が受けることが出来る先進国で、いくら国が「結婚してくれ」「子どもを生んでくれ」と叫んだところで、この状況を前に皆が結婚をするとは思えない。だからと言って昔の生活に逆戻りをする訳にもいかない。

男と女、その性のあるべき姿が変わった現代、これは人類の1つの進化なのではないだろうか。これこそが人類の生活の根底を覆す大きな変化ではないだろうか。それほどまでに変わった新時代に、旧式なやり方で通用するはずがない。

そもそも、少子化問題がどのくらい深刻な問題なのかも分かりづらい。かたや少子化で働き手が不足し大変なことになるという未来を語る人もいれば、かたや機械やロボットの発達により仕事を失う人が増える未来を語る人もいる。どっちが正しいのか、もしくは意外とこの2つの作用でうまくいくのか。社会学者の皆様には是非ともこの部分をハッキリさせて欲しい。

いずれにしても、もはや解決出来もしない少子化を食い止めようとするのは、時間の無駄だと思う。少子化が進む前提で、新しい社会システムを構築しなければならないのではないか。

少ない労働人口で社会が回る経済システムの確立、労働者一人頭の賃金の底上げ、高齢者の定義の見直し、精子提供の制度見直しと推進、結婚をしなくても子供を育てられる補償の充実……案はたくさんあるのだ。

忘れてはならないのは、人はお金を生み出す家畜ではないのだということだ。その時代に幸せに生きることを求める権利があるのだ。今までのように結婚をして子どもを産むことで社会の役に立ちたい人もいれば、1人で生活をしながら社会の役に立ちたい人もいる。それぞれの生き方を選ぶ人が共存するようになった現代、どちらの道を選んでも社会の役に立てるような仕組みを時代に合わせて作成する必要があるのだ。

勘違いしてほしくないのが、子どもを産む必要がないと言いたい訳ではないということだ。子どもを産む自由、子どもを産まない自由、それぞれが尊重されるべきだ。現状、子どもを産め産めと煽るだけで、産んだ後のサポートは手薄だと感じる。一見「産まない自由」が脅かされているようで、産みたくても産めないという「産む自由」が脅かされているのが実情だ。

全体として子どもは減ることを前提に、「子どもが欲しい」と思った人が子どもを産める社会に、1人で生きたい人は1人で生きられる社会を実現するべきだと思う。

僕の生まれた国、ロシアはかつてソ連という国で社会主義国だったが、いつまでも旧式のやり方を変えなかったことで崩壊をした。当時のソ連の若者は「最近の若者は全然働かない」と言われ続けていたと聞く。
「最近の若者は結婚をしない」と言われる現在の日本、形は違えど同じ運命を辿って欲しくない。いつまでも結婚をして子供を増やすべきだと、そうしないと国が滅びるんだと決めつけ、他の案を考えもせずに、若者に全ての責任を押し付けようとするのは愚かだ。

1992年生まれ、ロシアのハバロフスク出身、兵庫県姫路育ち(5歳から)。見た目はロシア人、中身は関西人のロシア系関西人タレント・コラムニストとして活動中。TOKYO MX「5時に夢中」(水曜レギュラー)、フジテレビ「アウトデラックス」(アウト軍団)、フジテレビ「とくダネ」(不定期出演)など、バラエティーから情報番組まで幅広く出演している。
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