「LGBTQ100人のカミングアウト」も4年目。YouTuberかずえちゃんが動画を通して伝えたい想い(前編)
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LGBTQの動画を配信することで傷つく人を生み出したくない
──普段は動画で発信しているかずえちゃんですが、「グラデセダイ」でコラムを連載してみていかがですか?
かずえちゃん(以下、かずえ): 母も楽しみに読んでくれているのですが、一番感じるのは、書いて伝えることの難しさ。動画なら、表情を見せられるので、たとえば、少しキツいことを言ったとしても、表情から意図が伝わります。一方、文章は受け手の感情の起伏などによっても受け取られ方が変わってしまうから、伝え方が難しくて。よかれと思って書いても、誰かを傷つけてしまう可能性もある。
ただ、文章ならではの良さもあって、書いたものを読み返して、違和感を抱くところに手を入れるという作業を繰り返していくと、すごく自分の振り返りになります。それは動画と違うところですね。
──当初は動画ではなく、ブログでの発信を考えていたとか。
かずえ: そうなんです。でも、YouTuberの友人(カズチャンネルのカズさん)に勧められ、動画配信をスタートすることに。始めた当初は、どう伝えればよいか分からず手探りでしたが、続ける中でいただいたコメントなどを見ながら「そうか、こういうことを知りたいんだな」と、柔軟に方向を変えていきました。喋るのが得意な自分には、結果として動画というツールが合っていたと思います。
──動画づくりの際に大切にしていることはありますか?
かずえ: LGBTQをテーマにした動画では、今はゲストを主役に迎えたインタビューがほとんどです。その動画はずっと残るもの。いいコメントだけが来るわけではないため、心無いコメントは削除するなど、動画に出演したためにゲストが傷つくということのないように気を配っています。動画をつくることで傷つく人を生みたくないんです。
ゲストには「良い悪い含めて、素の自分のことを話してください」と伝えています。良いことばかりじゃないということも分かっていますし、自分のリアルを話すということが重要だと思うので、そうした場をつくろうと心がけていますね。
──動画であれ、文章であれ、発信すれば、様々な反響があると思います。いいコメントばかりではない時、どう向き合っていますか?
かずえ: 心無いコメントや攻撃的なコメントに嫌だなと思うことはあります。でも、相手の顔も見えないし、あまり気にしないかな。どんなことをやっていても、叩く人は叩きますから。全員から好いてもらうことはできないと思ってやっています。
──YouTubeを仕事にする上での苦労はありますか?
かずえ: 正直あまりなくて、YouTubeをやってよかったことの方がずっと多いんです。ただ、ゲイであることをオープンにして発信活動をしているので、その影響はありますね。仲が良い友人でも、周りにゲイだと知られたくない人もいるので、一緒に歩いていて誰かとバッタリ会ったら「他人のふりをして」と言われたり、中には「もう連絡してこないで」と交流を絶たれたことも。知らない人から心無いコメントを書かれるよりも、目に見える友人との間に距離や制約ができてしまうことの方がずっとこたえました。
──どちらが悪いわけでもなく、それはつらいですね。
かずえ: かつては自分もビクビクしていた頃があるし、周りに知られてしまうのが怖いという人の気持ちはよく分かるんです。相手を責める気持ちはなく、ただ、彼らがそうやって身を守らなければならない世の中っておかしいし、そんな世の中をいろんな人が生きやすい場所へと変えていくためにも、今動画をつくっているんだと思います。
LGBTQに関心がなかった人たちが少しずつ変わり始めている
──LGBTQをテーマに発信活動を始めて3年半。世の中の風向きの変化を感じますか?
かずえ: 正直なところ、当事者にとって、カミングアウトのしやすさはあまり変わらないんじゃないでしょうか。一方で、LGBTQを題材にした映画やLGBTQを知るための企業研修、パートナーシップ制度を設ける自治体も増えて、同性婚訴訟の動きがあったり、社会が変わりつつある──少なくともこれから変わっていくかもしれない、という感じはありますね。まったく関心のなかった人が少しずつ変わり始めたということかもしれません。
──かずえちゃんが2016年に始めた「LGBTQ100人のカミングアウト」プロジェクトからも社会の変化を感じますね。
かずえ: LGBTQ当事者100人によるカミングアウト動画は、10月11日の国際カミングアウトデーに公開しようと、急に思い立って始めました。「LGBTQって身近にいるんだよ」ということを伝えるのに、100人ってインパクトがあると思ったから。途中でどうして100人にしちゃったんだろうと思うくらい、初年度に100人集めるのは大変でした。
まずは東京と大阪、故郷の福井で。人の集め方が分からなくて、TwitterとInstagram、YouTubeで呼びかけました。事例もないので、SNSでの呼びかけだけではなかなか集まらず、人づての紹介に加えて、募集ボードを手に、街頭に立ったこともありました。
──かずえちゃん自身がひとりひとりを実際に訪ねて100人。だからこそ、あれだけ観る人の心を動かす動画が生まれたんですね。
かずえ: 前例ができたおかげで、2年目以降は参加者も集まりやすくなり、年々エリアを拡大しています。今では参加希望の方からDMが来るようになりました。毎年多くの方にメッセージを伝えられる場になるように、複数回出演している方はいません。これからはもっと海外にも広げていきたいと思っています。
YouTubeは更新頻度ではなく、1本1本のクオリティが大切
──YouTubeの更新について意識していることはありますか?
かずえ: 現在、週1回のペースで動画を上げることにしているのですが、始めた頃は他のYouTuberが毎日更新しているのを見て、自分にも同じノルマを課していました。でも、動画を上げる頻度に必死になるのを感じて、無理するのをやめました。自分らしいスタイルを考えると、更新頻度よりも、1本1本のクオリティを上げることの方が大事だと感じています。
──何かを始めて、続けるのは難しいことですが、どうやってモチベーションを保っているのでしょう?
かずえ: YouTubeはあくまでツールなので、その先にある、叶えたいことを見つめるように努めています。もし大きな目的を見ずにYouTubeだけを見ていたら、しんどくて続けられないんじゃないかな。締め切りもないYouTubeをこうして続けられているのは、ツールの向こうの目的を意識しているからでしょうね。
──たくさんの方に出会うお仕事ですが、そうした出会いを通して、自分自身に変化を感じていることはありますか?
かずえ: それはもう、たくさんあります。以前は、LGBTQといっても、周囲にはゲイの友人しかいなくて、知識としてはレズビアンやトランスジェンダーの存在を知っていても、現実での接点がありませんでした。それが、動画配信を始めて、様々なセクシャリティの方をはじめ、ろう者やHIV陽性者、ダブルマイノリティの方など、いろんな方とお会いして話すことで感じたことや初めて知ったことが山ほどありました。
様々な問題を前に、一緒にどういうことができるかを考えるようになりましたし、出会いを通して視野が広がることで、いろんなことを許せるようになりました。「その人がいいなら、それでいいじゃん」って。心がより寛容に、豊かになっていくというか。
──たくさんの方と出会えたからこその発見はありますか?
かずえ: LGBTQといっても、人それぞれの個性があり、たとえば「ゲイだからこう」と、属性で一括りに語ることはできないということですね。結局、セクシャリティはその人をつくる一部分でしかないんだなと。僕自身を含め、人は誰しもマイノリティとマジョリティの部分を持っていて、一人の人間であることに変わりない。それは、いろんな方と会って気づけたことだと思います。
──国内外を旅することで感じることはありますか?
かずえ: 東京にいると、LGBTQをめぐる状況は確かに変化してきていると感じるのですが、地方などに足を運ぶと、肌身に感じる現状はずいぶん違います。たくさんの人に向けて発信するからこそ、どこを基準にするのかが重要だと考えていて、東京だけを基準にしないように気をつけています。そのためにも、いろんな場所に足を運んで、そこに暮らす人と言葉を交わし、一緒に考えることが大事。それはアドレスホッパーという暮らし方を選んだことでやりやすくなったかもしれません。
後編はこちら:YouTuberかずえちゃん「ワクワクするか、楽しいかどうか。人生はひとつひとつの選択の積み重ね」(後編)
●かずえちゃんのプロフィール
1982年福井県生まれ。高校卒業後、ウエディングプランナーとして働く。その後24歳で転職し、休暇を利用しながら色々な国へ。30歳でカナダに留学し、同性婚が認められている同国で約3年間生活。「LGBTQがもっと暮らしやすい日本にしたい」との思いを胸に、帰国後の2016年よりYouTubeで動画配信を始める。2019年3月からアドレスホッパーとして生活中。YouTubeチャンネル登録者数8.19万人(2020年2月現在)
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