YouTuberかずえちゃん「ワクワクするか、楽しいかどうか。人生はひとつひとつの選択の積み重ね」(後編)

「グラデセダイ」にコラムを連載中のかずえちゃんは、人気YouTuber。セクシャリティを隠さないオープンリーゲイとして、LGBTQをテーマにした動画配信や講演などの発信活動をしながら、国内外を旅し、現在は家を持たないアドレスホッパー生活を送っています。後編では、アドレスホッパー生活について、2020年にやっておきたいことについて語っていただきました。

アドレスホッパー生活2年目。不安よりもワクワクしかない

──19年3月からスタートしたアドレスホッパー生活、実践してみていかがですか?

かずえちゃん(以下、かずえ): 最初は「あえて家を持たない、なんてありえる?」なんて思っていました。でも、東京に住まいを借りていた頃、撮影などで半分くらいは不在にしていて。試しにやってみたら、意外とできてしまったという感覚です。住民票は実家に置き、宅配便はコンビニ受け取りなどを活用。郵便物は頻繁には届かないし、急なやりとりはメールやSNSなどで事足りています。

滞在先は撮影や講演などの予定を軸に決めて、1か所には短くて3日ほど、できれば1週間は滞在するようにしています。Twitterで呼びかけて、追加撮影をしたり、ごはんに行ったり、地元の方と交流を持つことが多いですね。

──アドレスホッパーのメリットとデメリットは何でしょう?

かずえ: メリットはたくさんあります。毎日新鮮でワクワクできること、出会いが増えたこと、結果的に東京で部屋を借りていた時よりも安く済んでいること、そして時間を有効活用できるようになったこと。滞在先はカプセルホテルを含む宿が多いので、家でだらだらしていた時間がなくなり、TVも見ないし、自炊もしなくなった分、新しい時間が生まれました。デメリットは、自炊しなくなったために、野菜が不足しがちなことくらい(笑)。

──家がないという不安はありませんか?

かずえ: 不安はないですね。もともと、あまり先の予定までは決めずに、臨機応変に動きたいタイプ。暇が苦手で、空いた時間があれば、やることをつくっていくのが好きです。ただ、アドレスホッパーを意地でも続けようなんて気持ちは一切ありません。今のライフスタイルにたまたま合っていただけで、たとえば、これからパートナーができたら、どこかに定住するかもしれないし、それでいいと思っています。

──アドレスホッパー生活で分かった、意外といらなかったものとは?

かずえ: いっぱいあります。ものを減らしていくと、何が必要なのか見えてきて。持ちすぎていると分からなくなりますが、本当に必要なものって案外少ない。持ち物だけじゃなく、人の断捨離も必要だなと。誰との関係を大切にしていきたいのか、向き合えるようになりました。

迷って足踏みをするより、やってみたら意外とできることのほうが多い

──これまでを振り返って、30歳という節目の年に思い切ってカナダへ留学したことが大きな転機になったそうですね。

かずえ: 僕の場合は、年齢を意識したというより、ワーキングホリデーの期限だっただけなのですが、期限があったから飛び出せたところはありますね。昔から旅が好きで、いつか海外で暮らしてみたいという想いを抱いたまま29歳になり、当時の仕事がとても好きだったので、仕事を辞めてまで行くべきか悩みましたが、今しかないと思い切って旅立ちました。

同性婚が認められたカナダで、周囲にゲイだと隠さない生活をスタートし、帰国後は「LGBTQがもっと暮らしやすい日本にしたい」と今の活動を始めました。もしカナダに行っていなければ、YouTubeを始めることもなかっただろうし、24歳の頃に恋人を家族に紹介しようと決意しなければ、カミングアウトすることもなかったでしょう。そう思うと、人生はひとつひとつの選択が大事なんだなと感じます。

──人生を左右する選択には勇気がいりますが、かずえちゃんの判断基準は?

かずえ: ワクワクするか、楽しいかどうかですね。人生で一番悩んだカナダ留学は、相談した母の一押しが決め手になりましたが、振り返ってみると、何事も最後は自分で決めてきました。僕は1年や2年の短期計画は立てても、10年、20年先の長期計画は立てないタイプ。常識や通例に縛られるより、その時々でワクワクするかどうかを基準に自分の心にたずねています。

──頭の中にいろいろな声が鳴り響いている時、自分の本当の心の声を聞くには、どうしたらいいと思いますか?

かずえ: 新しいことを始めるときって、現状を変えることへの恐れから、頭の中でマイナスばかりを考えてしまいがちですよね。でも、実際にやってみると、プラスの方が多かったりするもの。僕の場合は、思い切ってカナダ生活に飛び込んでみたことが、のちの自信になっていきました。「やってみたら、意外とできた」という経験の積み重ねが大事。だから、動きながら考える。選択や行動を続けていると、次の選択がしやすくなっていくと思います。

もともとは、僕も行動する前に考えすぎてしまうタイプ。今でも決められないことはあります。でも、動かないと分からないことがたくさんあるから、「とりあえず動いてみたら?」と自分に言い聞かせているし、決められなくて悩んでいる人がいたら、同じ言葉をおくりたい。

さらに、アドレスホッパー生活を始めて感じたのは、自分と向き合える時間を持つことの大切さ。日々の習慣やクセの影響も大きいですね。

2020年は恋をしたい。ふたりだからこそできることを考えたい

──2020年の「やりたいことリスト」のひとつに「恋をする」と書いたとグラデセダイのコラムにありましたが、かずえちゃんの理想のタイプは?

かずえ: 薄顔だとか年上だとか、昔は相手の外見や年齢に対してこだわりがあったのですが、最近はあまり気にしなくなりました。今でもタイプは多少あるけれど、それよりも人目を気にせずに一緒に歩きたいので、セクシャリティをオープンにできる人がいいなと思っています。

理想は一緒に活動できる人。相手にもYouTuberになってほしいとは思わないけれど、ときには一緒に動画に出て、ふたりでいる姿も隠さずに見せられたら。プライベートだけじゃなくて、ビジネスも含めて、いろいろな面でのパートナーになれる人に出会えたら最高ですね。ふたりだからできることを考えてみて、そんなものも一緒に共有できる人だったらいいな。

性格は優しい人が好き。あとは、たとえばアウトドアとか、何か好きなものを共有できたり、逆に嫌いなものが合う人も──なんて、挙げていくと、いろいろ出てきますね(笑)。

──「やりたいことリスト」に、他にはどんなことを書きましたか?

かずえ: アライ(LGBTQの味方、理解者、支援者のこと)を増やすことです。電通ダイバーシティ・ラボの調査によると、LGBTQ当事者の割合は8.9%といわれていて、もし残りの約9割の人たちも一緒に声を上げてくれたなら、社会への影響は何倍にもなるはず。

最近は、講演していると、アライの方に「何かできることはないか」とよく聞かれます。「当事者でもない自分が一緒に動いたらありがた迷惑にならないか」といった相談もあるのですが、そんな方たちと一緒に動くことこそ、重要だと感じています。

その一歩として、今年のテーマは「家族」。24歳で家族にカミングアウトした僕自身、母をはじめ、アライとなってくれた家族の存在はとても大きいものでした。これまで通り、当事者へのインタビューを続けながら、たとえば、ゲイの息子を持つお母さんなど、当事者を家族に持つ人たちとの動画づくりにも力を注いでいきたいですね。

──「本当は自分らしくありたい。でも現実には難しい」と感じる人へのメッセージがあれば。

かずえ: LGBTQに関して言えば、一概にカミングアウトを勧めている訳ではないんです。僕もかつては隠していて、周りに言えない気持ちも分かりますし、カミングアウトする/しないはその人の選択。しないことが悪いことだとか、不幸だとは思いません。ただ、隠すということは面倒くさいもの。嘘を重ねていかなければならないから。メッセージを伝えるというよりは、自分やゲストの姿を見て、感じてほしいと思っています。

今、社会に出ている大人は、周りの環境などで難しい部分もあるかもしれない。でも、これからの若い世代を変えていくことはできるでしょう。子どもへの大人の影響は大きい。今、行動できる大人ができることをやっていって、堂々と生きている姿や「一人じゃない」ということを下の世代に伝えていけば、10年、20年経った時に、若い子たちのあり方が変わると思います。

いずれ、僕がつくっているような動画やカミングアウトが不要になる時代が来ればいい。そのためにも「身近にいるよ」ということを伝えるのが、今の時期に必要なんだと思って活動しています。自分は今生、この使命を担って生まれてきたと思っているんです。自分にできる、伝えるという役割を。

──LGBTQに限らず、「みんなが自分らしく生きられる社会」をつくるために、私たちができることは何だと思いますか?

かずえ: みんな、漠然と生きづらさを抱えています。誰しもマイノリティの部分をどこかに持っていて、人によって生きづらさの種類は異なるけれど、生きづらさの根底は全部つながっていると感じます。だからこそ、自分自身の居場所や自分のことを話せる場所が必要なのではないでしょうか。

ジェンダー、働き方、結婚など、生き方をめぐる世の中の常識や縛りって、昔からのものが残っているだけの場合も少なくありません。本当に今も必要なのかを問い直して、変えた方がいいものは変えていく。そのためには、それぞれができることをやるのが重要だと思っています。

大きなことでなくてよいので、ちょっとしたことでも、できることを続けること。自分にできることや関わりたいことを考えて、LGBTQで言えば、アライのシールを貼ってみるとか、無知ゆえに差別的な発言をする人が身近にいたら、話し合ってみるとか。みんながささやかなことにも心を働かせて、行動を続けていけば、社会の当たり前が少しずつ変わっていくと思っています。

 

●かずえちゃんのプロフィール
1982年福井県生まれ。高校卒業後、ウエディングプランナーとして働く。その後24歳で転職し、休暇を利用しながら色々な国へ。30歳でカナダに留学し、同性婚が認められている同国で約3年間生活。「LGBTQがもっと暮らしやすい日本にしたい」との思いを胸に、帰国後の2016年よりYouTubeで動画配信を始める。2019年3月からアドレスホッパーとして生活中。YouTubeチャンネル登録者数8.19万人(2020年2月現在)

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合同会社アーキペラゴ代表。グラフィック&WEBデザイン、文章、写真、旅する本屋など、様々な手段で価値あるコトを伝える媒介者として活動しています。外界の刺激を受け取りすぎるといわれるHSPですが、自分の特性を生かして社会と関わっていければと。慶應義塾大学法学部、桑沢デザイン研究所卒。東京生まれのミレニアル世代。好物は本と旅と自転車、風の匂い。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
グラデセダイ