グラデセダイ

【グラデセダイ01 / Hiraku】生涯で出会った女性たちへ

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。第1土曜日は、中村キース・ヘリング美術館プログラム&マーケティングディレクターのHirakuさんのコラムをお届けします。

●グラデセダイ01

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2014年にアメリカから日本へ移住した、ジャパニーズ・アメリカン・ゲイ・シス男性というアイデンティティを持つ私が、日本でまず直面したのは、メディアや街中、職場、社交の場で、女性の声が掻き消されている現実でした。女性に関して聞こえてくるのは、男性が女性の話をしている声だけ。

「いやぁ、やっぱこれからは女も社会進出するべきだよ。」

幼い頃のHirakuさんとお母さん

ひとりっ子である私はこれまで、数々の女性を見習って生きてきました。
シングルマザーとして一瞬足りとも貧しさを感じさせず、何があっても愛し続けてくれた母。母の死後、我が子の様に迎えてくれた祖母、叔母や母の親友。格好つける事を恥ずかしがらず、自分で自分を笑いながら格好良く生きる事を教えてくれた親友のレイコちゃんや恋愛や人生は自分が思っているほど焦らなくて大丈夫だと教えてくれたアサミちゃん。

社会人になってからも、スタイルとは人間のストーリーである事を教えてくれた恩師、パトリシア・フィールド*1や苦悩とは能ある者にこそ降りかかり、だからこそ自信を持つ事を教えてくれた梁瀬薫さん*2など、パーソナルな場面でもプロフェッショナルな場面でも女性に育てられてきました。

そんな女性たちに対して、通勤電車に乗った恐らくミレニアル世代であろうスーツ姿の男性がカジュアルに発したこの無責任なフレーズ「女も〜するべき」。このスーツのシワだけ気にしていれば問題なく出勤できるサラリーマンは、女性のスタート地点が男性を勝たせるためにどれだけ後ろに設定されているのかを、理解しているのでしょうか。

経済協力開発機構が公表するデータによると、2018年の日本における男女賃金格差は24.5%。つまり、男性が100円もらえるのに対して、女性はおよそ75円しかもらえていないのです。
参考:https://data.oecd.org/earnwage/gender-wage-gap.htm

日本社会は女性に対し、女らしさ、結婚、妊娠、子育て、美貌、優しさ、強さ、慎み、独立、可愛さ、純粋さ、セクシーさなど、数えきれないほどの条件を求めます。それに比べ男性に対しては、男らしさ、力強さ、経済力、責任感くらいではないでしょうか。

先ほど「スーツのシワだけ気にしていれば問題なく出勤できるサラリーマン」と言ったのも、ここにスタート地点の違いがあらわれている事を強調したかったからです。
女性がすっぴんで、髪もセットせず、ストッキングもヒールも履かずに出勤したら、恐らくだらしないと思われるでしょう。でも男性はすっぴんで、二日間くらいヒゲも剃らず、寝癖さえなければ何も言われないはずです。

準備だけでも出勤前に要する時間は、明らかに女性の方が長いのです。髪の毛のセットにはコテ使いがプロ並みに手際のいい人でも5〜10分はかかります。
お化粧も、プライマー、ファンデーション、アイライナー、つけマツゲ、眉描き、パウダー、リップと簡単に仕上げたとしても、早くても10〜15分はかかりますよね。

さらに「化粧をしろ」と押し付ける男性社会は「濃い」だの「薄い」だの、とてもわがままです。そして簡単なお化粧をするだけでも、100円に対して75円しかもらっていないのに、かなりお金がかかります。

つまり同じ舞台に立つ際に、外見だけとっても、女性に求められるものは男性に比べ、遥かに時間とお金がかかります。だからと言って化粧をやめろとは言いません。女性が自分の人生や体の一部をどうしようが、誰からもとやかく言われる筋合いはないと思います。だって男性は何も言われないんですから。

ですからこの男性の「女も〜するべき」発言、できるんだったらとっくにやっていると思いませんか? この国で社会的にも政治的にも権力を握っている日本人男性には「女も〜するべき」ではなく、権利を与えられている責任を持って「男は女性が〜できるように協力するべき」と発言してもらいたい。

100円に対して75円しかもらっていないんだから、レディースセットも女性料金もあって当たり前だと思って良いのでは? リバースセクシズムを訴える男性に出くわしたら、投票をして男女平等になる社会にするべきだと言ってあげてください。

私は自分を一人の人間として作り上げてくれた女性たちに対し、もっともっと平等な社会で生きて欲しいと願っています。
男性が女性よりも社会的に有利で甘やかされている事を認識するべきだと思っています。そして、女性が話している途中で割り込んで発言したり、女性の決断や選択にいちいち口を挟んだりすべきではないと思っています。

そんな中、ミレニアル女性に向けたコラムのお話をいただいたとき、男性である私が執筆することに対し、疑問を感じました。

疑問はまだ晴れませんが、女性のためのスペースを占領する以上、ここでは女性に対し求められてもいないアドバイスや意見は書かないようにします。私が実際に生きた経験の中で、知っている事のみシェアさせていただく事を、皆さんにお約束します。どうぞよろしくお願いします。

私への質問やご意見は、この記事のコメント欄かこちらからお寄せください。
https://telling.asahi.com/request

*1映画『プラダを着た悪魔』やテレビシリーズ『セックス・アンド・ザ・シティ』のコスチュームデザインを手がけた、アカデミー賞候補、エミー賞2回受賞コスチュームデザイナー。

*2ニューヨークの国際美術評論家連盟のメンバーで、作家キース・ヘリングの世界で唯一の美術館である中村キース・ヘリング美術館のチーフ・キュレーター及びシニア・アドバイザー。

タイトルイラスト:オザキエミ

次回はこちら:【グラデセダイ02/ かずえちゃん】僕の人生を変えたカナダ生活

ニューヨーク育ち。2014年まで米国人コスチュームデザイナー・スタイリスト、パトリシア・フィールドの元でクリエイティブ・ディレクターを務め、ナイトライフ・パーソナリティーやモデルとしても活動。現在では中村キース・ヘリング美術館でプログラム&マーケティングディレクターとして、自身が人種・性的マイノリティーとして米国で送った人生経験を生かし、LGBTQの可視化や権利獲得活動に積極的に取り組んでいる。
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