グラデセダイ

【グラデセダイ10 / かずえちゃん】ときどきは不便もいい

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。今回はYouTubeを通してLGBTQのことを発信している人気YouTuber、かずえちゃんのコラムをお届けします。スマホがあれば、世界中どこを旅していても情報を得られて便利ですよね。アドレスホッパー生活をしている、かずえちゃんが感じた不便だったころの旅の醍醐味とは?

●グラデセダイ10

20代の頃、旅に出かけるときの必需品は「地球の歩き方」と「デジカメ」だった。
携帯は、まったくといっていいほど役に立たなかった。

今、旅に出かけるときの必需品は「スマホ」
もう「地球の歩き方」も「デジカメ」も鞄に入ることはない。

「バンコク・おすすめの観光スポット」

「ニューヨーク・夜景がキレイなレストラン」

「ハワイ・美味しいパンケーキ」

ググればガイドブック何十冊。いや、何百冊分の情報を得ることができる。
SDカードが無くても何百枚もの写真や高画質な動画を撮ることができる。
SNSではリアルな口コミや世界中の人が投稿した写真を見ることができる。
本当に便利な時代になった。
そして世界が広がった。

大好きな台湾にて

便利になり、得ることは多くなった。
しかし、便利になったからこそ失った「何か」もあるなと感じる。
そして、その「何か」は言葉では説明できないけれど、意外と大きく、とても大切なものだったように感じる。

20代前半、沢木耕太郎の「深夜特急」を読んで「旅」にはまった。
文字から伝わる臨場感が僕の好奇心を刺激した。

「この世界を自分の目で見たい。」

有給休暇や夏休み、ありとあらゆる休みを使い僕は旅をした。

ネパールでは、ヒマラヤ山脈が一望できるゲストハウスに泊まり宿で出会った見ず知らずの人たちと一緒にご来光を拝んだ。

タイでは、バイクタクシーのドライバーに財布を盗まれバイクから落ち病院に運ばれた。

ヨルダンでは、女性と結婚しているゲイ男性からヨルダンの同性愛事情を聞いた。
(中東、アフリカの一部の国では同性愛というだけで国外追放や終身刑、死刑になるところもある。)

キューバでは、男性にナンパされ一緒にカリブ海に沈む夕日を見た。

ドバイでは「カンドゥーラ」という民族衣装に身を包み地元の人で賑わうスーク(市場)で買い物をした。

ベトナムでは、フォーにはまりホーチミンからハノイまでバスで縦断しながら約1ヶ月かけて本場のフォーを食べ歩いた。

NYからカタールへ移動する機内から撮影したイラン上空

旅の途中、行きたいところがあれば地球の歩き方を読んだり
旅先で出会った人から情報をもらったり
ジェスチャーと電子辞書を使い地元の人に聞いたり
とりあえず自分の勘を信じて歩いたり
本当に労力と時間のかかる不便な旅だった。
しかし、これまでの旅を振り返り鮮明に思い出すことができるのは「その不便な旅」だ。

あのゲストハウスで見たご来光も
バイクから落ちて運ばれた病院も
「この国ではゲイは迫害されるんだ。」と話す彼の目も
見ず知らずのキューバ人と見た夕日も
ドバイの人に現地人と間違われたことも
市場でフォーを食べてるときに偶然みた豚の解体も
とても鮮明に覚えている。
不便だった旅には、自分だけの体験、そしてリアルがあった。

今年も仕事(撮影)でたくさんの国を訪れた。
ベトナム・韓国・タイ・ニューヨーク・ハワイ・台湾。
僕は、海外に出かける前に必ずAmazonでSIMカードを購入する。
普段使っている携帯を海外でも使用できるようにするためだ。
SIMフリーの携帯にAmazonで購入したSIMカードを挿せば、どこに行っても普段使っている携帯を使用できる。
本当に便利だ。

便利になり、得ることは多くなった。
便利になり、効率的に旅することができるようになった。
便利になり、色んな人と繋がりやすくなった。
便利になり、世界は近くなった。
便利になり、僕の世界は狭くなった。
そして「リアル」を失った。

ベトナム人の友達の甥っ子の誕生会にて

僕らが生きている世界はとても広い。
でも、いま僕が生きている世界はとても狭くなってしまった気がする。
(うまく説明できないけれど、狭くなったというか、見ていないものを、まるで知っているような気でいるというか。なんかそんな感じ。)

「便利」と「不便」を比べたら、僕は絶対に前者がいい。
でも、不便な旅もなんか懐かしかったなと思う。
ワクワクしながらバックパックに荷物を積めることも
付箋や書き込みだらけでボロボロになった地球の歩き方も
言葉が通じずドキドキしながら乗ったタクシーも
安いデジカメで撮ったブレブレの写真も
全部が自分の体験をして、今でもキラキラと輝いている。

久しぶりにAmazonで「地球の歩き方 インド」をポチった。

ときどきは、不便もいいかも。

タイトルイラスト:オザキエミ

1982年福井県生まれ。高校卒業後、ウエディングプランナーとして働く。その後24歳で転職。仕事の休みを利用しながら色々な国へ。「いつか海外で生活したい」という思いから、30歳でカナダへ語学留学。同性婚が認められているカナダで約3年間生活した。「LGBTQがもっと暮らしやすい日本にしたい」という思いから、帰国後2016年からYouTubeで動画配信を始める。現在アドレスホッパーとして生活中。 Youtubeチャンネル登録者数7.8万人(2019.9月現在)
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