グラデセダイ

【グラデセダイ09 / Hiraku】クリスマスを目前にしたシングルライフ

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。今回は、中村キース・ヘリング美術館プログラム&マーケティングディレクターのHirakuさんのコラムをお届けします。クリスマスを目前にして、Hirakuさんが恋人ができない理由を自ら深掘りしてくれました。

●グラデセダイ09

突然ですが、私には恋人ができません。
35歳にして最後に恋人がいたのは23歳の時。シングル歴12年。好きな人ができても勇気を持って告白をしたことがなく、さらに告白へ至らなくても、声さえ掛けたことがありません。ゲイ男性の中で、ほとんどの人たちが使っている出会い系アプリ上ですら、自分からメッセージを送ったり、“いいね”を送ったりもしたことがありません。

10代半ばから20代前半、私はさまざまな男性と出会ってきました。クラブや電車で声を掛けられたり、オンラインやSNS上で知り合ったり、そこら中に出会いがありました。中には、好きになり過ぎてテキストメッセージを送り過ぎ、まだかまだかと待った末、結局返事がなくそれっきりになったり、「今は体だけの関係しか求めてない」と言われたり、他の男の子と遊んでいるのを目撃したり……失恋も人並みにありました。

20代の頃の私。NYのクラブで

そこから自分と恋愛対象者の気持ちの温度調整をする様になり、20代に近づくにつれ、今度は自分がノーと言う側へ辿り着きました。最後に付き合った彼氏と別れた後は、「男性との関わり方」の自己研究を始めました。

最初はとにかくいろいろな男性とセックスをするというところから始まり、そのうちおまけでデートに行く。また、お互いにデートの練習だということにして、ストレートの男友達にデートに連れて行ってもらったり、ゲイ、バイだけでなく、ストレートの男性のことを研究する機会も持つようにしました。
さまざまな性スペクトラム*の男性たちを研究した結果、テキストメッセージであれ、ラインであれ、男性であれば必ずと言っていいほど、相手に返信をさせる自称「テキスパート(テキストメッセージのエキスパート)」にもなりました。

そのうち恋愛よりも自分に興味を持ち始めた私は、格好がだんだん派手になっていき、あるイベントで有名なクラブプロモーター(今では大親友)と知り合い、数々のデートを重ね学んだ「欲しがらない態度で逆に気を引く」技を使い、急接近。たちまちニューヨーク・ナイトライフで名の知られる存在となりました。
毎晩タダでお酒が飲めて、一般人はなかなか入れないクラブへも列に並ばずVIP待遇。毎晩写真を撮られたり、モデルの話がきたり、有名人になった気分でした。恋人を作っている暇などなく、そのうちセックスをすることすら忘れてしまいました。

同じくNYに住んでいた20代の頃

29歳まで続いたパーティーライフは、30歳で母の死を経験し、日本に住むことを機に終わりを迎えました。正直、常に人に囲まれていることに疲れ、どこへ行ってもお酒を飲まなければいけない生活にうんざりしていました。
日本にほとんど知り合いも友達もいなかったので、再スタートだと思い、住むことを決意。たまにクラブに行く時もみんなと同じように列に並び、お金を出してお酒を飲み、みんなと同じ様にダンスフロアで立って踊るということを経験しました。
やっといわゆる「普通」になった30代、自分の生活を見渡した時に、まず足りなかったものは「彼氏」。今まで余りにも世離れしすぎた生活を送っていた私は、自分がどんな人が好きで、一緒にどんな関係を築きたいのか、さっぱりわかりません。しかし過去が残してくれた賜物は、メール技。テキスパートなので、実際にデートやセックスまで漕ぎ着けることは問題なくできるのですが、そこからの試練が「次回」なのです。

日本に住み始め、この「次回」が起こる確率が全くなく、悩んでいます。そんな中、自分の中でオート起動するのが10代で培った「拒否の拒否」。自分に興味がないのではとちょっとでも思うと、一度相手に自分の憶測を肯定する決定的な発言や行動(「忙しくて」や未読スルー)をさせてから、ソーシャルメディアのブロックや電話番号、写真の削除など、スッと身を引き、拒否される前に自分から終わらせてしまいます。

「だから彼氏ができないんだよ」とよく言われます。だけど、どうしても可能性がないと思ってしまうんです。だって「忙しくて」という理由が本当で、会いたいけど会えないのならば、次に会える日の提案をしますよね?未読スルーの場合も、2日間ましてや4時間以上スマホを見ないミレニアルっていますか?そう考えると、どうしても諦めてしまいます。

他にも、「アメリカンすぎる」とか「女っぽい」とか「話しかけ辛い」とか要素がある様ですが、これってみなさんも私の今までのコラムからお察しの通り、こういう性格なので、曲げられないんです。結局ありのままの自分を好きになってくれる相手が欲しいのならば、「自分らしさ」はどこまで薄めればよいのでしょうか?

アメリカでは、日本のお正月の様にクリスマスは家族と過ごします。恋人用に作り替えられた日本版クリスマスが、日本では早くから、ハロウィン直後にイルミネーションと共に、キラキラと私たちシングルを追いかけます。
そんな中、私は昨日、同じ人と2回目のデートをしてきました。1回目が終わったあと、おそらく連絡はないだろうなと思っていた矢先に誘われたデートで、久々にワクワクしました。今回もセックスなしで終わりましたが、デートの後のセックスというコースに慣れていた私は「あれ?どうだったんだろう?」と正直戸惑っています。
会話も大して弾まず、相手もそわそわしていた様な。でもなんだかやっと人間になれた様な気分でした。
クリスマスまであと少し。みなさんはどんな恋愛をしていますか?

*性スペクトラム近年ではセクシュアリティーおよびジェンダーは境界線を持たず、連続するものであると考えられている。これを「性スペクトラム」と呼ぶ。

タイトルイラスト:オザキエミ

ニューヨーク育ち。2014年まで米国人コスチュームデザイナー・スタイリスト、パトリシア・フィールドの元でクリエイティブ・ディレクターを務め、ナイトライフ・パーソナリティーやモデルとしても活動。現在では中村キース・ヘリング美術館でプログラム&マーケティングディレクターとして、自身が人種・性的マイノリティーとして米国で送った人生経験を生かし、LGBTQの可視化や権利獲得活動に積極的に取り組んでいる。
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