ポン・ジュノ「スノーピアサー」疾走する車両内の熾烈な階級闘争、革命! ドラマ版もすごい【熱烈鑑賞Netflix】
●熱烈鑑賞Netflix 21
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- 前回はこちら:傑作青春映画『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』地獄のような他人の中、「背伸び」で自分の半身を見つけ出せ!
雪と氷に覆われた世界を走る箱舟列車「スノーピアサー」
「パラサイト 半地下の家族」で韓国の階級社会の闇を描き、第92回アカデミー賞をさらったポン・ジュノ監督。その初の英語作品「スノーピアサー」(2013年)が、本人制作総指揮のもと、ドラマシリーズとして蘇った。
地球温暖化が進み、世界は生物の危機を迎えていた。科学者たちは冷却化を試みるが、失敗。地球は逆に凍結され、人間の住めない環境に。これを予見していた富豪ウィルフォードは、永久機関によって動き続ける列車「スノーピアサー」を開発、地球が凍りつく寸前に富裕層を乗せて脱出を試みる。1001両から成る長大な箱舟は、発車直前に突入した一部の一般人らと共に、雪と氷に覆われた世界を延々と周回する旅に出る。
本作の舞台は、それから7年後の世界。スノーピアサーは、ウィルフォードの統制の元、厳格に管理されていた。前方車両には富裕層と列車を維持する労働者階級が住み、許可なく発車直前に乗り込んだ者たちは最後尾車両に押し込まれ、暴力による抑圧と、貧しい生活を強いられていた。
世界に残された人類はスノーピアサーの乗客のみ。外に出たら凍って死ぬ。列車はノンストップで走り続ける。動く密室こと箱舟スノーピアサーは、あらゆるものが凍てつく世界において、人間の、地球の生のすべてなのだ。
乗客の食物となる動物や植物の育成も、専用の車両で徹底した管理のもと行われる。学校から病院、刑務所から軍隊に至るまで、人間が従来通りの社会生活を継続させるための機能もすべて列車内にパッケージングされている。
しかし、この箱庭的に再現された社会は、一部の人間たちのためのもの。その恩恵に預かれない、虐げられた者たちの怒りは、彼らを革命へと駆り立てていく——。
車両社会を生きる人々の、格差と分断の物語
「スノーピアサー」は、階級闘争の物語である。
高層住宅を舞台にしたJ・G・バラードの『ハイ・ライズ』のように、フィクションにおける社会的序列の描き方は、「上・下」の位置関係で表現されるのが一般的だ。言うまでもなく、「上階=富裕層」「下階=非富裕層」なわけだが、本作はそれを大胆に90度回転させてみせる。貧しき者たちは、憎っくき富裕層から権力を奪還すべく、前方車両を目指し策を練り、命を賭ける。そこには列車の心臓部とも言えるエンジンが鎮座し、絶対的権力者ウィルフォードが君臨する。先頭部の制圧こそが、革命の成功を意味するのだ。
映画版は、この「最後尾から最前列へ」という反乱を徹底して描いたが、ドラマ版はその枠組みをキープしつつ、より複雑に、車両社会の格差と分断の物語を展開する。
例えば、本作のメインキャラクターの1人で、最後尾の反乱者たちのリーダー的存在であるレイトン・ウェルは、元殺人課の刑事という肩書きを買われ、前方車両に召集される。列車における労働者階級が住む3等車で起こった猟奇殺人事件の捜査員として白羽の矢が立った彼は、その立場を利用し、いわば「内側」からの工作を試みる。麻薬も絡んだこの事件は、前方車両における資本家・労働者間の争いの引き金となり、物語を大きく動かすことになる。
まともに物も食えない最後尾人たちに比べたら、はるかに恵まれた状況にある3等車の労働者たちもまた、「より上」の階層への不満がある。そして、その不満を押さえつけるために利用されるのが、「より下」の立場である最後尾人たちの存在だ。「お前たちはまだマシだろ?」と、いわば格差によって格差を納得させる手法は、私たちの生きる現実社会の暗部を想起させる。
レイトンを演じるラッパー・俳優のダヴィード・ディグスは、昨年日本公開された映画「ブラインドスポッティング」に出演していたことが記憶に新しい。思えば、この映画もアメリカという国の抱える人種差別・貧富の格差を原因とした、分断の物語だった。
ジェニファー・コネリーが謎多き客室乗務員を熱演
また、客室乗務員のトップで、ウィルフォードの片腕的存在であるメラニー・カヴィルの存在感も際立っている。彼女は、さまざまな属性の人々が乗り込む閉鎖的環境において多発するトラブルを一手に引き受けるほか、スノーピアサー全体を管理する重要人物だ。そして、列車内で唯一ウィルフォードと直接コンタクトを取ることを許された存在でもある。1等車階級からの不満と、3等車階級からの不満との板挟み状態にある彼女は、さながら中間理職のようであり、あらゆる難事に対処するスーパー乗務員でもある。
しかし彼女は、実は大きな秘密を抱えていた。乗客にバレればスノーピアサーの秩序が一気に崩壊すること必至なこの“爆弾”をめぐる駆け引きは、本作の緊張感をいやがおうにも高める。
目的のためには手段を選ばない冷徹さ、列車の未来を見据えるリーダーの素質、そして脆さ……この多面的で謎多きキャラクターを演じるのは、ジェニファー・コネリー。40代以上もしくはホラー映画ファンには、ダリオ・アルジェント監督の「フェノミナ」の美少女、というイメージがいまだ根強いかもしれないが、もちろん00年代以降も「レクイエム・フォー・ドリーム」や、アカデミー助演女優賞を受賞した「ビューティフル・マインド」といった作品で評価されてきた名優である。彼女の力演なくして、本作は成立しなかっただろう。
映画版との見比べ推奨! まったく新しい群像劇が誕生
ドラマ版「スノーピアサー」は、2020年7月2日現在、エピソード7まで配信中(毎週月曜配信)。
直近のエピソード6、7では、さらにアクセルを踏み込んだかのような怒涛の展開が待っていた。
歯車のごとくコキ使われることに不満を抱えた3等車住人たちによるストライキ計画。殺人事件を解決するも、ウィルフォードに関する重大な秘密を知ってしまったために冷凍庫型刑務所に収容されてしまったレイトンの脱出劇。当初はバリバリの権力者側だった警備員ベス・ティル(演じるのはスティングの娘、ミッキー・サムナー)を始め、徐々に生まれつつある反ウィルフォードの動き。密かに動き出すメラニー下ろしの計画。さらには、7年間の連続走行のダメージからスノーピアサーに崩壊の危機が迫り……?
映画と同じフォーマットを使いながら、まったく新しい群像劇を作り上げる手腕に感服だ。シーズン1は、残すところあと3話。すでにシーズン2の制作も決定している。なお、映画版もnetflixで見ることができるので、見比べてみるのも一興だ。
「スノーピアサー」
製作総指揮:ポン・ジュノほか
出演:ジェニファー・コネリー、ダヴィード・ディグス、ミッキー・サムナー
「スノーピアサー」シーズン1 予告編
https://youtu.be/jGh8jalYVxk
映画版「スノーピアサー」
https://www.netflix.com/jp/title/70270364
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