「ザ・イングリッシュ・ゲーム」は「ダウントン・アビー」+「半沢直樹」なおもしろさ【熱烈鑑賞Netflix】
●熱烈鑑賞Netflix 10
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「ダウントン・アビー」の脚本家
「ザ・イングリッシュ・ゲーム」が、おもしろい。
「ダウントン・アビー」+「半沢直樹」+「GIANT KILLING」をミックスしたおもしろさなんである。
舞台は、19世紀のイギリス。
上流階級たちの紳士のゲームになっていたサッカーに、労働者が挑む格差社会スポーツドラマだ。
まず、脚本と製作総指揮が、「ダウントン・アビー」のジュリアン・フェロウズ。
上手い。シーズン1が全6話で、しっかりひとつの物語として完結している。
一日まるまる空いた日にイッキ観するのを大オススメのきれいな構成。いわゆるone sittingな(いちど座ったら観終わるまで立てない)ドラマなのだ。
チーム内の衝突が前半の軸
労働者階級でサッカーのすごい才能を持つファーガス(ケビン・ガスリー)のキャラクターと、上流階級でイヤなキャラ代表だったアーサー(エドワード・ホルクロフト)の揺れる心情の描き方が見事。
ファーガスはサッカーの才能をかわれて他のチームから、織物工業の職人たちのチーム・ダ—ウェンに移籍する。
サッカーは紳士のスポーツであり、報酬をもらうことは禁止されていた。だから、もともといたチームメンバーからすれば、よそ者のうえに、こっそり金をもらってるイヤな奴だ。
このチーム内の衝突が、前半のひとつの軸になる。
ファーガスは、サッカーの才能はあるが、それ以外では、まじめで不器用。
街角で歌を歌っている美女にひとめぼれ。
「店で歌うべきだ」と相手の状況をかえりみず無礼なことを言って
「帰るわ」と言われるも、
「家に送るよ」といきなりのアプローチ。
「よく聞いて。家には2歳の娘がいるの。娘の父親は出ていったわ。もともと未婚だったけどね。それでも送りたい?」と返される。
なんだかんだうまくいくんだけど、うまくいきだしたらうまくいきだしたで、彼女は、上流階級のヤな奴の愛人だったことが判明したりするのだ。
アーサーって、なんてイヤなやつ!
ファーガスのいるダーウェンの対戦相手は、イートニアンズ。名門校出身者で上流階級チームだ。
イートニアンズのキャプテンが、アーサー・キネアード。イケメンだ。父親は銀行の偉い人。そのあとを継ぐことになってるが、父親からはまだ認められていない。なんでサッカーなどに夢中になってるのだと思われている。
このアーサーが、第1話ではめちゃめちゃイヤなヤツなのだ。
ダーウェン対イートニアンズは、後半ダーウェンが追い上げ、引き分けで時間オーバー。
「数分 休憩してから延長戦を始めよう」というファーガスの申し出に、
「延長戦は聞いていない。残念だな」とアーサーが拒絶。
どういうことだってんで、ダーウェンチーム全員で「なぜ延長戦をしない。負けるからか?」と抗議。
「来週、再試合だ」
ダーウェンの町からイートニアンズに来るまで数時間の大旅行。チームメンバーの旅費もカツカツでどうにかやってきたのだ。
労働者たちが、再び全員が来るなんてことは無理なのだ。
その事情をまったく理解していないのか、理解していて不戦勝にしようという腹づもりなのか、「サッカー協会の会長に決めてもらうか?」とアーサーは言う。
ファーガスンの「時間がかかる」という抗議に、アーサーは、「いいや」と一笑。「マリンディン」とゴールキーパーを呼び、彼が会長であると示す。
アーサーが言う。「僕たちはみんな役員だ。何か問題が?」
ムキーーー!
参加しているメンバーが、ルールの決定権を持ち、それを都合のいいように扱っているのだ。
この時点で、ファーガスンに感情移入している僕は「アーサーって、なんてイヤなやつ!」とはらわた煮え繰りかえりつつも、「倍返しだ!」の勢いで、ここから胸のすく逆転劇が展開するんだろうなと予想。だが、そんなに単純なドラマではなかった。
FAカップ以前のサッカーは乱暴だった。
最終話でチラっと映し出される絵がある。
「死者が出た」
その絵を観て、マリンディンが言う。
1846年、キングストン・アポン・テムズで行われた街対抗のサッカーを描いた絵だ。
町の労働者たちが北と南のチームにわかれて、殴り合いながら球をゴールへ導く。
死者がでるような乱暴な祭に近いゲームだったのだ。
そのサッカーの規則を整備して、文明化したという自負が、彼らにはある。
報酬をもらわないといったルールもそのうちのひとつだ。
そういったルールを破って、コマーシャリズムに堕し、フーリガンも生み出す。
労働者階級が「われわれのサッカー」を汚そうとしている。
彼らは、そう感じているのだ。
アーサーとファーガスのバディもの
第2話でアーサーは、労働者たちの暴動に巻き込まれ、少しずつ労働者たちの「現実」をみる。
ファーガスとは敵対し、すれ違いながらも、サッカーを通じて、じょじょに理解し合うのだ。
そう。
これは、アーサーとファーガスのバディものだ。
一緒に行動するシーンは少なくて、直接的な相棒感は表現されないが、それぞれの立場で、それぞれの考え方で、ふたりは同じ方向に突き進みはじめる。
スポーツ、格差問題、恋愛、父と子、さまざまなストーリーを交錯させながら、労働者階級と上流階級が分断され直接同じ場にいなくても、システムとしてつながっていることを、巧妙な構成で描きだす。
そして、なにより、最後に、しっかりとした気持ちのいいエンディングを迎える。
全281分、およそ4時間半ちょい、全6話、たっぷり堪能してください。
「ザ・イングリッシュ・ゲーム」シーズン1
公開年: 2020
原作・制作:ジュリアン・フェロウズ、トニー・チャールズ、オリヴァー・コットン
出演:エドワード・ホルクロフト、ケヴィン・ガスリー、シャーロット・ホープ、二―ヴ・ウォルシュ、クレイグ・パーキンソン、ジェームズ・ハークネス
19世紀の英国。異なる階級に属する2人のサッカー選手の人生が交差。選手ひいては人間としての葛藤が、サッカー、そして社会のあり方を大きく変えることに。
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