熱烈鑑賞Netflix「テラスハウス」

「テラスハウス」は敗者の味方、小林快、おまえこそ「テラスハウス」だ!

シェアハウスを舞台に共同生活を送る男女6人の姿を追う、人気リアリティーショー「テラスハウス」。現在は、最新シーズン「テラスハウス TOKYO 2019-2020」がNetflixで配信中。ミレニアル世代からも「リアルな恋愛模様がわかる!」「毎週、何が起きるか楽しみ!」とファンの多いテラスハウスを映画・ドラマ監督で脚本家の鈴木太一さんが毎月考察します!

●熱烈鑑賞Netflix「テラスハウス」

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放っておけない人物、小林快

 私、鈴木太一と申します。映画・ドラマの監督や脚本家をしている者です。今回初めてtelling,でレビューを書かせていただきます。

私は、おっさんたちで湘南に集まってアボガドバーガーとか生シラス丼を食べながらロケ地巡りをしたことがあるくらいの、まあまあの「テラスハウス」ファンです。最近、久しぶりに「テラスハウス」で胸をぎゅっとつかまれるほど放っておけない人物に出会いました。彼の名は、小林快(こばやしかい)、25歳。マレーシアで生まれ、アジア諸国やアメリカに住み、三年前に日本に来た、日米ハーフのイケメンです。半年ほど前からスタンダップコメディを始め、まだまだお金にならないながら小さなライブ会場で修行中です。たまに絵を描いています。朝起きてゆっくりストレッチするのが日課です。声が素敵です。

2019年秋、小林快は「テラスハウス」に入居しました。特別目立つわけでもなく、日々淡々と生活をしていました。ある日、快はスタンダップコメディのライブに出ました。そこで披露されたネタの一つがとても印象的でした。要約すると、「日本のサラリーマンはなぜ自殺しないんだ? 毎朝満員電車に乗って、抱かせてもくれないバカな嫁のゴミクズのような夕食の残りを食べているというのに」というものでした。笑えない、失礼、怖い。快はそのネタが全くウケなくても、一人、はははははは、と笑っていました。快はよく、はははははは、と不自然に笑います。そんな彼を見て、多くの視聴者が映画「ジョーカー」の主人公、スタンダップコメディアンのアーサーだ! と思いました。

快はこのようになかなかうまくいかないスタンダップコメディのことで悩みすぎ、壁にぶつかり、ロン毛をバッサリと丸坊主にして過剰に気合いを入れたりもしました。人付き合いがうまくできない面もあり、せっかくの共同生活、「テラスハウス」なのに、一人で部屋にこもることも多くありました。

小林快のいなくなったテラスハウス。私には、寂しさ以外は何も写っていない写真である/「TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020」(C)フジテレビ/イースト・エンタテインメント

 

幸せのゴールはすぐ目の前だった

そんな快が「テラスハウス」内で一人の女の子に恋をしました。快は彼女が恋に悩んでいる時に誰よりも話を聞いてあげ、誰よりも優しく慰めてあげました。いつしか二人は気兼ねなくなんでも話せる良い友達になりました。ある日、熱をだした快の額に彼女が冷えピタを貼ってくれました。快にとって人に冷えピタを貼ってもらうなんて初めての経験でした。気づいたら快は彼女のことが好きになっていました。彼女も気づいたら快のことを恋愛対象として意識しはじめて、深夜のキッチンで「ぎゅっとして」と甘えたりしました。お互い気になっている気持ちも照れながら伝え合いました。キュンキュンしました。彼女は同居人の女子に、快に告白されたら付き合う、と言いました。二人は水族館にデートへ行くことも決まって告白のお膳立てもでき、幸せのゴールはすぐ目の前でした。

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 しかし、デートの結果、二人は付き合えませんでした。

えっ!なんで!!

付き合えないどころか、彼女に、「てめえ!人のことナメくさってんじゃねえよ!」みたいな感じで怒鳴られ、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ!触んなよ!」とガチギレされました。

えええええええ!!だから、なんで!!!

まだ見てない人は、「「テラスハウス」2019-202037話と38話をご覧ください。

 

快にとって、今一番大事なことは、恋愛ではなく、スタンダップコメディでした。そのことが、いろいろな歯車をぐちゃぐちゃにズレさせ、彼女のことが好きなのに、大好きなのに、全てがうまくいかなくなりました。

快は、人のことを考えろ、もっと人に感謝しろ、自分のことしか考えていないと責められました。人におごってもらっても当然のような顔をしている、ありがとうも言えないと言われたり。おそらく、快の悪いところはいっぱいあります。でも、自分は快を憎めません。いや、ある意味、クソ憎い。クソ憎たらしいほど放っておけない。それは、快はまるで、俺だからです。俺、イケメンじゃないし、43歳のおっさんだけど。おっさんにまでなって俺はいつも自分のことで精一杯、自分自分、自分さえよければいいみたいなところが要所要所で顔をだしてきます。ちょっと吐き気がします。昔よりだいぶマシになりましたが、自分はありがとうってちゃんと思ってるし、ちゃんと言葉で言っていると意識があるのに、実は全然言っていない時があります。なんなんでしょう。ひきます。

快は、大好きなあの子に「てめえ!」って怒鳴られた数時間前、スタンダップコメディのライブに立っていました。ネタが飛び、何も言葉がでてこず、最悪な状況の中、はははははは! と笑うことしかできませんでした。今の快にとってスタンダップが恋愛より重要なことなのに、それすらうまくいかない、それが一番うまくいかない。私もそうです。恋愛はもちろん、仕事がうまくいかない。自分にとって仕事こそが一番なのに。冒頭でかっこつけて、映画・ドラマの監督や脚本家をしている者です、なんて書いたけど、最近してないじゃん、全然形にできずに、ずーーっとうまくいってねえじゃん。もちろん快と自分は全然違うけど、でも、やっぱり違くないんです。

 

小林快、おまえは「テラスハウス」だよ

そんな快を見ていると、自分みたいなおっさんが何で「テラスハウス」を見ているのか、改めて気づかされました。

「テラスハウス」って、敗者の味方なんです。夢破れた奴とか、仕事がうまくいかない奴とか、モテない奴とか、痛い女とか、そういう敗者の味方なんです、初期から。初期こそ特に。どんなにダメな奴でも一緒に生活する誰かに支えられたり、刺激を受けたり、スタジオの芸人さんが笑いに変えてくれたり。最近のテラハを見てるとそういうことを忘れかけてたけど、「テラスハウス」ってやっぱそれなんです。どれだけイケメンかとか、どれだけ美人とか、どれだけオシャレとか、どれだけキュンキュンするかとか、そんなのどうだっていいんです。そんなもののために「テラスハウス」を見ているわけじゃない!いや、キュンキュン大事か、美人もいいなあ、いや、それが一番じゃない。人の暗部やヒリヒリ痛い人間関係などもテラハの魅力の一つですが、やっぱり一番は、敗者の味方ってことだ、と個人的には思います。

だから、小林快、おまえは「テラスハウス」だよ。初期のてっちゃんとか聖南さんほどの感じではないし、何かがズレてるかもだし、愛されづらい人かもだけど、やっぱり、おまえも、おまえこそ「テラスハウス」だよ。

小林快に替わって入居した金尾玲生。プロサーファー・実業家。非情にも速攻で女子メンバーから大人気。ケッ!と思うも、テラハ初期の伝説的メンバー、今井洋介との絆にホロリ/「TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020」(C)フジテレビ/イースト・エンタテインメント

「緊急事態宣言」が発令される日に

そして202047日。新型コロナウイルス感染拡大を受けて「緊急事態宣言」が発令される日に配信された回(「TERRACE HOUSE 2019-202039話)で、小林快は「テラスハウス」を卒業しました。「行ってきます」って、いつになくナチュラルに笑って家を出ていきました。日本中、世界中の人がかつてない苦難に直面している中、私の大好きなエンターテイメントである「テラスハウス」はいったい何を見せてくれたのでしょうか。

そこには希望しかないはずです。希望以外、あってたまるかよ。快はその39話で大好きなあの子に言ったんだ、卒業しても、「もう一度、仲良くなれるチャンスが欲しい」って。快の彼女への恋愛感情はまだ消えてはないだろうけど、それよりも人と人との言葉として、とても誠実に快は言ったんだ。大好きなあの子へ。大切な元友達のあの子へ。怒ると超絶に口が悪くて、わがままで、自分勝手で、強くて、格好良くて、弱くて、シャイで、可愛いあの子へ。快とあの子が付き合わなくて全然いい、絶対付き合わないし。でも、今はまだそっけなく冷たい関係だけど、また笑って話せますように、ちゃんとハグできますように、そして、これから快がもっともっとナチュラルに笑えますように。ここには、そんな祈りのような希望しかないでしょ、絶対。

そして、「テラスハウス」で快の恋愛や人間関係や仕事がうまくいかなかったことは彼にとって決してマイナスのまま終わらない。快はジョーカーじゃなくてコメディアンなのだから、暴力じゃなくて笑いがある。コメディアンってやつは、どんなにマイナスなことがあっても、そのマイナスを笑いにすることで一気にプラスにできる。だからいつか「テラスハウス」内で経験したことを、自分の言葉で笑いにできれば、それは快にしかできない唯一無二の笑いになるはずだ。それはコメディアンだけでなく、映画監督でも、サラリーマンでも、主婦でも、無職でも、人間なら誰でもマイナスを一気にプラスにすることができる、きっとそうだ。ピンチはチャンス! なんて嘘くさくて軽く思われるかもだけど、今は、今だけは、そういうことを強く信じたい。

 

最後に。小林快さん、あなたがあの日の朝、紙に書き留めていた、たくさんの「Thank you」を忘れません。あなたを忘れません。ありがとう。これからも共にがんばろう。

 

TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020

Netflixにて毎週火曜に新エピソード先行配信中(4週に1週休止)
FODにて毎週火曜深夜0時に配信中(4週に1週休止)
フジテレビにて毎週月曜24:25-24:55地上波放送中(一部地域を除く)
C)フジテレビ/イースト・エンタテインメント

 

1976年東京都生まれ。映画監督・脚本家。今野浩喜主演映画「くそガキの告白」(2012)で劇場公開デビュー。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2012で四冠受賞。テレビドラマ作品に、「みんな!エスパーだよ!」(2013)、「PANIC IN」(2015)、「豆腐プロレス」(脚本のみ 2017)など。
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