「クィア・アイ in Japan!」ファブ5の言うことを聞いて、生きづらすぎる現代日本をサバイブせよ【熱烈鑑賞Netflix】
●熱烈鑑賞Netflix 09
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今回妻からおすすめされたNetflixオリジナル作品は「クィア・アイ in Japan!」である。そもそも「クィア・アイ」自体が妻のおすすめ番組なのだが、しかしおれは最初にこの番組を見た時、正直言って意味があまりわからなかった。
ぶっちゃけ最初は意味がわからなかった「クィア・アイ」
「クィア・アイ」でレギュラー出演しているのは、「ファブ5」というチーム名を持つ5人のLGBTQ男性である。彼らは衣・食・住・ヘアスタイリングおよび美容・カウンセリングという5つのジャンルのスペシャリストであり、悩みを抱えていたり、荒れた生活を送っている人の手助けをして、ライフスタイルをいい感じにする……というのがこの番組の趣旨だ。
「クィア・アイ」第1シーズン第1話に出てくるのは、ジョージア州ダラスに住むトムというおっさんである。ダンプの運転手をしているトムはバツイチで、楽しみといえばテレビを見ながらタバコを吸うことと、仕事が終わった後に飲むマルガリータくらい。髭も伸び放題で27年間同じデニムの短パンを履き続けている、見るからにアメリカのおっさんという人物だ。
このトムの生活をファブ5が楽しそうに改善し、きれいになった自宅に元妻を招く……というのが第1話のオチだったのだが、最初これを見た時おれはマジで意味がわからなかった。というのも、改善前のトムの生活がそこまでひどいものに見えなかったのである。そりゃあ確かに家の中はきれいではないかもしれないが、男の一人暮らしだったらあんなもんだろうとしか思えなかった。27年間同じ短パンというのはさすがに履きすぎかもしれないが、でも普段着だったらそんなもんではなかろうか。無理して家具を手放したりしなくていいんじゃないの、トム……と思ってしまったのだ。
おまけに、改善された後のトムにどういうメリットがあったのかもよくわからなかった。ファブ5の手助けによって何かに勝ったり、儲かったりしたわけではないのである。家がきれいになって服がちょっと変わってヒゲが短くなったのはわかるけど、それだけでは……? 「なんらかの競争に打ち勝つことを目的とした番組ではない」というのはわかるけど、それにしたってメリットがなんだかわからない。トム、アンタはファブ5の言うことを言われるがままに聞いて、本当にそれでよかったのかい……という疑問が湧いてくる。とにかく、どう捉えていいのかわからなかったのだ。
この悩み方、日本人特有のやつだ!
それならばということで推されたのが、「in Japan!」の方の「クィア・アイ」である。このシリーズでは普段は海外で活動しているファブ5が来日し、立場も環境も異なる4人に対して、彼らの技術で生活スタイルを大きく塗り替える。やることは同じなのでは……と思ったものの、いざ見てみるとやはり違う。悩み方が、よく知っている日本人のやつなのである。総じて「周りから浮いた格好をするのは恥ずかしい」「でも周囲からどう見られているかは気になってしまう」みたいな感じなのだ。
おまけに、悩みを相談するときの態度も、日本の人はなんだかイジイジしている。トムは27年間同じ短パンでも特段気にするでもなく「何がアカンのや?」くらいの感じだったが、日本の相談者は「なんとかしなくちゃいけないのかもしれないけど……」と態度が小さい。これは見たことあるやつだ!
「in Japan!」に出てくる人たちは、ホスピスを運営していて自分のことに手が回らない女性や、日本国内で肩身の狭い思いをしているゲイ、いじめの経験と母親との関係から自分に自信が持てないイラストレーターなど、様々な境遇で悩みを抱えながら生活している。彼らがどうしたいかをファブ5は懇切丁寧に聞き、適切なアップデートをかけていく。その中でもおれが「なるほど~!」と思ったのは、第4話のマコトさんの回である。
自分と仲良くすることは、生存戦略なのである
ラジオ番組のディレクターを生業としているマコトさんは、妻のヤスコさんと二人で暮らしている。が、仕事もバラバラな二人は長らくビジネスパートナーのような状態が続いてしまい、自分の思っていることを腹を割って話すのすら難しい状態に……。仲が悪いわけでもないしマコトさんは彼なりに妻をリスペクトしている(「絶対的な存在」とまで言っている)のだが、どうやって事態を打開していいのかわからなくなっている。
そんなマコトさんやヤスコさんに、ファブ5はヨガをやらせた上で素直な気持ちをお互いに話す機会を設ける。このあたりは完全にカウンセリングであり、同じ家の中で暮らしていてもこうなるのか……なんとも大変だな……としみじみ思う。そしてマコトさんは服や髪型をチェンジしヤスコさんのためにオムライスの作り方もおぼえ、ようやくちゃんと会話をするための土俵に立つことができるようになった。
おれが「なるほど~」と思ったのは、ファブ5のアドバイスによるメリットが極めてわかりやすく提示されていたからだ。並べて見せられるとわかるが、アメリカ人はやはりきっちり自己主張するし、自分が幸せになることやそれを周囲が認めることに抵抗がない。対して日本では、「君には価値がある」「うまくそれを主張すれば周囲の人間もそれを認めてくれる」という点を納得させるところからスタートする。アメリカでの「クィア・アイ」でそこまでメリットが見えなかったのは、おれにはゲストたちの基本的な芯や意識がそこまで大きく変わったように見えなかったからだろう。
ファブ5がレクチャーしているのは、自分と仲良く過ごす方法である。俺も含めて、こと日本の人々はそもそも自分と仲良く過ごしていない人が多そうだと思う。そして、自分と仲良く過ごすことができない人間が、他人と根っこの部分から仲良く過ごすことはけっこう難しい。自分がしんどくならずに、誰かと一緒にうまく生活していく。「クィア・アイ in Japan!」第4話を見て、ファブ5が教えていたのはそのための手ほどきだったのだということが、おれにもようやく理解できた。
そもそも、人間は一人で生きていけるようにできていない。現在の社会的なシステムにおいてもそうだし、我々のご先祖さまがマンモスを狩ったりしていたころから現代まで、まとまって生活することで人類は生き延びてきた。そうであるならば、自分を出すところは出し主張するところは主張しながら、なるべく快適に群れて生活していくのが知恵というものだろう。そのための手段として、料理を作ってあげたり、部屋をかっこよくしたり、いい感じの服を着たりという方法はとても有効なのだと思う。ファブ5がレクチャーしているのは、まさに生存のためのテクニックなのだ。
というわけで、ようやくおれにも「クィア・アイ」の意味が理解できたところである。なんせおれはまだ生まれたての子鹿も同然なので、いきなり服をどうにかしたり部屋のインテリアに凝ったりというのはちょっとアレだけど、ファブ5の主張に耳を貸せば、この先の生存確率がマジで上がりそうだというのは理解できた。まあ、まずは部屋に積み上げられた大量のプラモデルやらオモチャを整理するところからやっていきたいという所存である。
「クィア・アイ in Japan!」
原作・制作:デヴィッド・コリンズ
出演:ボビー・バーク カラモ・ブラウン タン・フランス アントニ・ボロウスキ ジョナサン・ヴァン・ネス 水原希子
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