女性ファン獲得へ、女子プロレスが変わる。テラハ出演レスラー木村花選手「恋愛もオープンに」
男性ウケ無視。「女性目線で物事を考えている」
11月28日に行われたスターダムの記者会見。白いシャツにグレーのスカートでマイクを持った木村花選手(一番上の画像)は、こう言いました。「私は髪がピンクで、服もメイクも派手。男性ウケを一切無視したビジュアルをしていますが、女性からかわいいという声をいただいたり、メイクをまねしてもらったりしています。男性目線でなく女性目線で物事を考えているので、女性ファンを増やしやすいのかなと思っています」
母親は元プロレスラーの木村響子さん。木村選手は2016年にプロレスデビューし、今年4月からスターダムに入団しました。インスタグラムでは5万フォロワーを抱えます。現在配信中の「テラスハウス」で、一般にも名前が知られ始めました。
「テラスハウスを見て試合に来た、という新規の女性ファンが増えてきました。日本では、この職業をしていると恋愛がおおっぴらにできないイメージがありますが、テラスハウスに出てファンの前でオープンに恋愛がしていければと思っています。そういう点でも、女性ファンの共感を得て、応援したいと思ってもらえたらうれしいです」
「女子は未開拓だからこそ、可能性を秘めている」
スターダムは2011年旗揚げ。過去にはグラビアアイドルの愛川ゆず季さんや、世界最大のプロレス団体WWEで活躍中の紫雷イオ選手、カイリ・セイン(当時は宝城カイリ)選手が所属し、プロレスファンに話題を振りまいてきました。しかし、観客席は男性が目立ち、女性ファン獲得が課題でした。
スターダムは10月、カードゲーム会社ブシロードの傘下に入ることが発表されました。ブシロードは12年、男子の新日本プロレスの親会社になると、広告やSNSの積極活用などで、オカダ・カズチカ選手や内藤哲也選手らスターを育て、売り上げを約5倍に伸ばしました。スターダムはこの日の会見で「新日本プロレス超え」を高らかに宣言しました。
「五輪競技などあらゆるスポーツが男女半々を目指している。世界には他に女子プロレス単独の大きな団体がない。女子は未開拓だからこそ、可能性を秘めています」。新日本プロレス躍進の立役者でブシロード創業者の木谷高明オーナーは勝算を描いています。
ブシロード傘下入りが決まったスターダムは、BS日テレとTOKYO MXで看板番組を持ったり、テレビCMや新聞・雑誌広告を展開したりする方針を発表。この日の会見では、所属全選手がインスタグラムのアカウントを開設することを明らかにしました。
木谷オーナーは「100人に露出して、そのうち女性が20人だったとしても、テレビやSNSで偶然プロレスを目にする機会を増やしたい」と話します。2020年4月29日に大田区総合体育館(東京都)であるビッグマッチでは女性限定シートを設けるほか、女性ファン限定の大会を開く構想もあるそうです。
「女性ファンに自信を持ってもらえる存在になりたい」
女子プロレスは、熱狂的な女性ファンに支えられ、ブームを起こした時代がありました。70年代はジャッキー佐藤さん・マキ上田さんの「ビューティ・ペア」、80年代は今も現役の長与千種選手とライオネス飛鳥さんが組んだ「クラッシュギャルズ」が、女性にとってのあこがれでした。複数の団体がしのぎを削った90年代も盛り上がりを見せますが、以降の人気は下火となりました。
それでも、プロレスラーにあこがれる女性がリングに立ち続け、今も日本にはスターダムをはじめ、10を超える女子団体が活動を続けています。
時には選手の感情がむき出しになるのが、男女を通じたプロレスの魅力です。木村選手はこの日の会見で、スターダムに移籍したばかりのジュリア選手に対戦要求。ジュリア選手から「恋愛ごっこで話題を集めている」などと挑発されてつかみ合いとなり、12月24日の対戦が決まりました。時代や経営戦略は変わっても、肉体の限界に挑む激しさと華麗さ、そして火花が散るライバル物語というプロレスの本質はそのままです。
スターダム創設メンバーの岩谷麻優選手は163センチ、53キロ。見た目は一般女性と変わりません。母親がレスラーだった木村選手と比べ、プロレスの素地はほとんどありませんでしたが、17歳でデビューして以来、華麗な空中技などで約8年にわたり、ファンの心をつかんできました。ツイッターは3万3000フォロワーを抱えます。キャッチフレーズは「聖なるスターダムのアイコン」です。
黒いジャケットを羽織った岩谷選手は「このまま素の岩谷麻優を見てもらって、こんなポンコツでもプロレスラーとして人前に立ってすごいなと、自信を持ってもらえる存在になりたい」と笑顔で女性ファンにアピールしました。
他の団体もスターダムに刺激され、業界全体が活気づく可能性もあります。かつての熱狂を取り戻し、男性だけでなく、女性の心もぎゅっとつかむプロレスラーがどのくらい増えるのか。リングの内外で注目が高まりそうです。