プロ野球独立リーグ・球団広報(22歳)

野球選手を支える球団広報「ドラフト指名を目指す姿に私が願うこと」

プロ野球独立リーグ・球団広報(22歳) プロ野球の新人選手選択(ドラフト)会議が終わり、今年もいろいろなドラマが生まれました。指名される選手の多くは高校・大学・社会人ですが、「最後のチャンス」との思いで野球に打ち込み、指名を待つ選手が集まる「独立リーグ」という組織があります。ドラフト会議の日の深夜、球団の広報担当としてプレスリリースを作る彼女の姿がありました。「崖っぷちの夢追い人」を支援する彼女は、厳しい世界には異質な「ほんわか女子」。自然体で働く姿に好感を抱き、話を聞きました。

私は独立リーグ「BCリーグ」の富山GRNサンダーバーズという球団のスタッフです。ところで、「独立リーグ」って、ご存じですか。所属する選手は、野球を仕事とする「プロ」です。20代前半の選手がほとんどで、NPB(日本プロ野球機構)のドラフト会議で指名されることを目標にプレーしています。少年時代の夢を追い続けている選手のためのリーグといえるかもしれません。彼らにはシーズン中しか給与は出ず、もちろんNPBみたいに年俸何億円とかもらっている選手はいません。企業が運営している社会人チームとも違うので、数年の間で結果を出さねばならない厳しい世界です。

1年目は必死。2年目からやっとペースをつかみました

新潟県の上越市出身です。WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)を見て、野球が大好きになりました。そこでスポーツに携わる仕事に就きたいと、専門学校に行きました。「プロチーム運営科」で2年間学びました。私自身は中学校の時に卓球をやっただけ。見る方が好きなんです。

学生時代にインターンで2週間ほど働き、そのまま就職しました。広報担当ですが、何でもやっています。1年目はとにかく必死。2年目からやっとペースをつかみました。今年で3年目。いまだに何がベストなのか分からないまま、周りの反応を確認しながら仕事をしています。

仕事の内容は、プレスリリースを作ったりSNSに投稿したり、報道機関の方に対応したりすること。試合の時にはイベントの進行を担当します。取材の日程を調整したり、球団のグッズを作ったり、チアリーディングチームのお世話も担当しています。シーズンオフの方が忙しくて、開幕直前はもう、バタバタ。そのころは気を抜く時間もなくなります。

スタッフは5人。アルバイト含めると6人です。チームは監督とコーチが2人、選手は26人です。外国人選手もいて、彼らは英語・スペイン語・韓国語を話します。挨拶ぐらいはできるようにと少し言葉を覚えました。外国人選手に片言の英語で話すと、「違う」とビシッと日本語で言われたりして……。選手も頑張って日本語を覚えているんですね。みんな、試行錯誤です。

どんなに忙しくても、自分を追い詰めることはしない

名前の「もと」は、スワヒリ語で「熱い」という意味なんです。両親が新婚旅行で行った先のケニアで生まれ、2歳になるまで過ごしました。「ここで住もう」って決めて日本に帰らず、4年間も暮らしたそうです。その間に私が生まれました。「逆子だったけど、頑張って産んだのよ」って。お母さん、すごいでしょ。

どんなに忙しくても、自分を追い詰めることはしないようにしています。これは、大らかで、自由に生きてきた親の影響かもな…。思い立ったら、アフリカに住み着いちゃうような両親ですから。「自由に好きなこと、やったらいいよ」って、いつも言ってくれます。ありがたいですね。

やらなくてはいけない仕事が、いっぱい重なった時、「はー」ってため息が出ます。ひたすらやって、とにかくやって終わらせるしかない。まずは、それです。困っていると、周りの人が助けてくれます。とはいえ、うちの球団、常にスタッフ不足なので、助力をいただくにも限度があります。 

限界を超えたら、許される範囲で「手」と「気」を抜きます。「何もかも完璧にしよう」と思うと、死んじゃうんで。しんどい時は友達や、新聞記者さんなどと、ご飯を食べに行ったりします。話を聞いてもらうだけで、少しほっとします。

選手は「かっこいい」けど、恋愛対象にはなりません

選手は夢を追って、すごく努力している。今年は2人もドラフトで指名を受けました。けれど、遠い存在とは思わないです。プレーを見ると、どの選手も「かっこいいな」と思います。でも選手は絶対、恋愛対象にはならない。何でだろう……。こんなこと言ったら、選手への愛が足りませんか。だめですかね。

結婚とかは、いつかしようとは思いますが今は全く考えていません。自分が誰かと一緒に住むなんて想像できないなあ。巨人の内海(哲也)投手のファンですけれど、野球選手としてかっこいいと思うだけで、「理想のタイプ」ではないしなあ。どういう人なら合うのでしょうか。私は人見知りなので、よくしゃべってくれる人がいいなと思う程度。今は恋愛より、仕事ですね。

選手は今、夢を追っているところですけれど、私は今、「夢がかなっている状態」なんですよね。実感ないなあ。

広報担当として、これが正解ではないのかもしれませんが、選手第一というよりは、「ファンの人や地域の人に喜んでほしい」「選手を好きになってほしい」「野球好きになってほしい」と思って働いています。そうすると、ファンや地域の人が選手を大切にしてくれて、それが選手を輝かせることになるのではないでしょうか。

  

富山県高岡市にて

北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。