「ロマンティックじゃない?」ウォークインクローゼットとは女子の武器庫である【熱烈鑑賞Netflix】
●熱烈鑑賞Netflix 12
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今回妻から勧められた映画は「ロマンティックじゃない?」である。アメリカでは劇場公開された作品だが、日本では劇場未公開。Netflix配信作品として見ることができる。
地獄のロマンティック時空へ!
主人公ナタリーは、建築事務所で働くぽっちゃりした女性である。子供の頃はロマンティック・コメディ映画に憧れていたものの、その気持ちを母親にへし折られ、以降ロマコメ映画や恋愛に関しては醒めきってしまったという過去を持ち、現在も自己評価は低め。一応設計の仕事をしているのにゴミを捨てさせられたりコーヒーを入れさせられたりで、たまに回ってくる設計の仕事も「駐車場を作れ」というような地味なものばかり。そんな境遇に微妙に納得がいかないながらも、半分は甘んじて受け入れている。
ある日駅で引ったくりにあったナタリーは、はずみで強く頭をぶつけ、気を失う。目が覚めた病室のベッドの横には見事な花、そしてなぜかバッチリ決まっている髪型とメイク。検診に来た医者は見事なイケメンで、なぜかナタリーに気がありそうな素振り。ゴミゴミしていたはずのナタリーの自宅の近所は花が咲き誇り、家は広くて壁はパステルカラー、ウォークインクローゼットには大量の服と靴と鞄が詰め込まれている。おまけに感じが悪かった隣人は、妙にテンションの高いゲイになっていた。
これらの激変を見るうちに、ナタリーは自分が大嫌いだったロマコメ映画の世界に入り込んでしまったことを悟る。しかも最悪なことにファミリー向け(四文字言葉を言おうとするとトラックがバックするときのピー音にかき消されるのだ!)。ヴァネッサ・カールトンの「A Thousand Miles」が勝手にどこからか聞こえ、主人公がやたらとすぐ転び、職場もやたらオシャレに変貌、さらに金持ちのイケメンに熱烈に言い寄られるという気が狂いそうなロマコメ時空から、ナタリーは必死の脱出を図るが……。
という、いわばメタ・ロマコメ映画のような作りになっているのが「ロマンティックじゃない?」の特徴だ。ナタリーによるロマコメあるあるの指摘という前段階を踏みつつ、そのロマコメあるあるをいちいち真面目に映像化しているあたり、そもそもこのジャンルの映画に対するリスペクトが感じられる。単純に「ロマコメって変だよな〜」と揶揄しているだけではないのである。
この映画のストーリーについても、ジャンルへのリスペクトが感じられる。というのも、「ロマンティックじゃない?」自体がけっこうストレートなロマコメ映画なのだ。自己評価が妙に低くスリムでもなんでもない冴えないナタリーが、いかにして自分を正当に評価し、肯定できるようになっていくか。それと恋愛のプロセスがリンクして、着地するべきところにきちんと着地してオチがつく。メタ・ロマコメでありながら直球のロマコメでもあり、さらに現代的な内容にもなっているという、ややこしい入れ子構造が危なげなく形になっている。
加えて、役者の仕事ぶりも素晴らしい。主演のレベル・ウィルソンは、暴れて歌って踊ってと八面六臂の大活躍である。さらに「全然中身がないけど、とにかく顔と体が最高なイケメン金持ち」というスッカスカな役を嬉々として演じるリアム・ヘムズワースも素晴らしい。兄のクリスの方もリメイク版「ゴーストバスターズ」でやっぱり「スッカスカのバカだけど死ぬほどイケメン」という役を演じていた。死ぬほどバカな超イケメンという役をきっちりこなすヘムズワース兄弟の職人魂には、本当に頭が下がる思いである。
執拗にウォークインクローゼット
それにしても、おれはロマコメ映画をほとんど見たことがない。今まで見てきた映画のほとんどは宇宙人と軍隊が戦ったり、ヤクザが暴れたり、鉄砲を撃ったり車が爆発したりというような、そういうものばかりだった。だから実のところ、「ロマンティックじゃない?」におけるロマコメあるあるが、なんとな〜くしかわからない。ナタリーが「なんで着替えシーンが延々と続いて、歩いてる時にやたらコケて、クライマックスでヒロインが走るとスローモーションになるのよ!」と指摘しているのを聞いて「あ〜〜〜、言われてみれば、なんかそういうのも見たことあるような……」となるくらいの感じである。
歩いている時にすぐコケるというのは、コケてくれなくては物語が進まないからだろうし、BGMに合わせて移動シーンが大幅に省略されるのはロマコメ映画に限った話ではない。職場の同僚女子がやたらと感じが悪いのも、ライバルキャラがいないと話が盛り上がらないからだろう。そういう作劇上のお約束に関しては「まあ映画だからね」と思って見ていた。しかし着替えシーンでやたらと執拗にウォークインクローゼットの中身が映り、ヒロインが色々な服装に着替えるのをBGMと共に見せるのがロマコメあるあるとして登場するのは、なぜなのか全然わからなかった。というわけで、「なんであんなことを……?」と妻に聞いてみたのである。
妻から返ってきた答えは「ロマコメ映画でウォークインクローゼットが映るのは、「ターミネーター2」でサラ・コナーが集めた銃がしまってある武器庫のシーンに尺が割かれるのと同じだよ」というものだった。曰く、「大量の武器がごっそりと詰め込まれ、弾薬や爆薬が所狭しと置かれている武器庫と、大量の服や靴や鞄が収まっているウォークインクローゼットのワクワク感は等価である」と言うのである。それを聞いて完全に合点がいった。ウォークインクローゼットは、女子の武器庫だったのである。大小のありとあらゆる火器が収まっているガンラックを前にすれば、確かにテンションが上がるに決まっている。
言われてみれば、「コマンドー」でもメイトリックスが敵地に殴り込む前の着替えシーンはけっこう執拗であった。武器を全身に取り付けて装備を整え、いよいよ戦闘開始というワクワク感、これからものすごいことになるぞという盛り上がりが、あの着替えシーンには詰まっていたように思う。シャレたBGMに合わせてヒロインが色々な服装に着替えるのを見る時、ロマコメのファンはシュワちゃんがアリアス一味の元に殴り込む直前のあの高揚感を味わっていたのである。そうだったのか……! おれが知らなかっただけで、実はロマコメとシュワちゃんには共通点があったのである。
王道の力強さ
そう考えると、ロマコメ映画あるあるは、実はアメリカのエンターテイメント映画の盛り上げ方全般と一脈通じるものであるようにも思う。それが悪いといっているのではなく、大勢の映画関係者が血の汗を流しながら作り上げたメソッドはそれほど強固だということだ。「ロマンティックじゃない」は、そのメソッドを逆手にとって皮肉りつつ、自らもロマコメとしてきっちり物語を締める。どれだけ皮肉ろうがおちょくろうがビクともしない、エンターテイメントの王道の力強さを感じられる作品である。
「ロマンティックじゃない?」
監督:トッド・ストラウス=シュルソン
出演:レベル・ウィルソン リアム・ヘムズワース アダム・ディヴァイン プリヤンカー・チョープラ ほか
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