熱烈鑑賞Netflix

たった2人で結婚式を「ミドルディッチ&シュワルツ」が即興で演じる奇跡【熱烈鑑賞Netflix】

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選。今回取り上げるのは、即興コントのコメディショー「ミドルディッチ&シュワルツ」。舞台の上には2人の俳優と2つの椅子だけ。舞台の上で生まれる、即興コントの奇跡とは?

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「シリコンバレー」と「ソニック・ザ・ムービー」

台本はない。
舞台には、ミドルディッチとシュワルツのふたり。
トーマス・ミドルディッチは、ドラマ「シリコンバレー」の主役や、映画「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」などで活躍するカナダ出身の俳優。
ベン・シュワルツは、「ソニック・ザ・ムービー」のソニックの声や、コメディ番組「パークス・アンド・レクリエーション」に出演、アメリカ出身の俳優だ。

左がミドルディッチ、右がシュワルツ/Netflixオリジナル作品「ミドルディッチ&シュワルツ」独占配信中

2人と椅子が2つ。これだけ。
即興コメディなので、登場人物やセリフはここで決める。
セットもない。音楽も効果音もない。
これを、およそ50分やるのだ。

たった2人の素舞台で、台本もなくて、おもしろくなるのか?
めちゃくちゃおもしろいのだ。
これ、生で観たら、奇跡が起こった瞬間を目撃しているような気持ちになるだろう。
『ガラスの仮面』で、北島マヤが台本をすり替えられて、アドリブで演技を続けるシーンがある。そこで、舞台袖にいるおっちゃんがこう言うのだ。
「いや…アドリブだからこそすさまじいんだ…! つぎにどんなセリフが出てくるかどんな演技が出てくるかわからない…(…)相手のセリフ 身振り 表情を的確につかんで それにあった演技をする 相手もまたそれにあわせる もしひと呼吸でも乱れれば…もしわずかでもあわせるテンポが狂えば…どちらかの真剣が相手を斬る…!」
「ミドルディッチ&シュワルツ 完全即興コメディスペシャル」は、アドリブだからこそすさまじくおもしろいのだ。

客席からの背の低い男情報が!

たとえば最初の回。
ミドルディッチが客席に問う。
「近い将来の計画をおしえてほしい。何か楽しみにしてることや不安なことはある?」
客席から「結婚式!」と声があがる。
ミドルディッチ「結婚式を挙げるって?」
ふたりは、どんどん聞き出す。
「参列者は全員、音楽フェスで出会った人たちだ」とか「6年生のときの彼氏も参列する」とか。
「その彼氏のことを教えて」
「背が低い」
「背の低い人の職業は?」
「よく分からない。音楽を聴いてる」
こうやって聞き出したことをベースにコントがはじまる。

ミドルディッチ「ダニー。何か必要ないか確認に来た」
シュワルツ「は?」
いきなり始まる。シュワルツは、ミドルディッチが自分を何者だと思って語りかけてるかを推し量ってる。
シュワルツ「今は大丈夫」
ミドルディッチ「かっこいいね。似合ってる」
シュワルツ「うれしいよ」
ミドルディッチ「後ろもいいな」
お尻あたりを指す。燕尾服の後ろ側のことを言ってるのだと伝わり、シュワルツは「緊張してる」と新郎っぽいセリフを吐く。
このあたりの探り合いも楽しい。ふたりは物語を恐れずにどんどん進めていく。
「最近になって聞いたんだ。キャスリーンは付き合っていたらしいショート・ポールと」
「(ぼくのフィアンセが)ショート・ポールと?」
背が低い彼氏のことだ!
「真剣だったらしい」
「いつも音楽を聴いているあいつだろ?」
客から聞き出したエピソードを即座に入れて、笑いをとる。

舞台には2人と2つの椅子しかない/Netflixオリジナル作品「ミドルディッチ&シュワルツ」独占配信中

「お前に頼みがある。付添人だからね」
「ぼくが!」喜ぶ。
「そんなに喜ぶことじゃない」
「弟がいるのに」
即興なので、矛盾が生じる。ふたりは、それをごまかそうとしない。気づいた側がさらっと指摘し、その指摘にのって答えることで、設定が深まっていく。
「あいつは信頼できない。会えば理由がわかるはずだ。セバスチャンはすぐ人前で目立とうとする」
目立ちたがり屋の弟セバスチャンの誕生である。
「式の最中にポールが妙なことをしないよう頼む。異議ありとか言いそうだ」
さらに付添人としての頼みを語り、展開の目指す方向が見え始める。
ここまでで5分。

シュワルツが、小走りで反対側の袖へ行く。
「よお クソ野郎ども。セバスチャンが来たぞーー」
いままで新郎だったシュワルツが、キャラクターを変えて弟になって登場する。
ひとりがスイッチを入れたように別の役に変化するのが楽しい。
その変化に、相棒もすぐに応じて、別人になる。
いままで付添人だったミドルディッチが、新郎と付添人の二役を同時にこなす。
「少し弟と話す」
と、付添人役を退場させるようにしむけるが、シュワルツが
「いてもいいぞ」
と引き留めるも、
「いや、僕は務めを果たしてくる」
と、強引に退場。
こうして、いままで新郎だったシュワルツが弟になり、付添人だったミドルディッチが新郎に変化する。

新しいキャラクターが次々と登場

ふたりのキャラクター変化は、この程度ではない。
すごいのだ。
ミドルディッチが、椅子に座る。煙草を吸うポーズ。
シュワルツ、近づく。
まだ、お互いが誰だかわからない。
ミドルディッチが足をぶらぶらさせる。
ちょっとの間があって、会場全体が誰なのかがわかって爆笑に包まれる。
ショート・ポールだ!
会話に出てきた(しかも、とっさに出してしまった)人物を、即座に演じて、キャラクターとして出現させる。
シュワルツがすかさず「ショート・ポール?」
「よろしく。マーニー?」
「マーニーよ」
参列者のショート・ポールとマーニーになる。
裾を直してるのをみて「ズボンで来たの?」
「考えた結果よ。ドレスである必要はないでしょ」
演じてる2人にすら思いもかけないことが、2人のかけあいから生まれる。その創造の瞬間を目撃する。
2人の会話から、ショート・ポールが「異議あり!」と言わざるを得ない設定ができあがっていく。
観る側が想像するよりも、一歩早く繊細に大胆に繰り出していく。ブレーキをかけない。物語は、足踏みをせずにどんどん前に進む。
ここまででも、ショート・ポールに、その恋人のリサ、そしてマーニー、弟のセバスチャン、付添人と、ふたりでたくさんのキャラクターを生み出し、しかも自分たちも混乱して、それを笑いに変えてきているのに、果敢にも2人は、また新しいキャラクターを出現させる。

ミドルディッチが威厳のある男を演じる。新郎の父親だ。
シュワルツが、母親を演じて「そんなに緊張しないで」と言えば
父親のミドルディッチが「緊張してない」と答える。
「力を抜いて」
「抜いてる! 力を抜けと言われると緊張ーーすーーるーー!」
「力を抜いて」
「だったらーー! 力をー抜けーー!と言わないでくれーーーー!!」
シュワルツが椅子を持ち、父親の後ろ側に回る。
「大丈夫? 何か問題でも?」
「なんでーーもなーーい」
「肩に力が」
「力はーー抜いてーーる! あんたーーは何者だーーー?」
「新婦の父親です」
「なんでーーここにいる あっちだろーー」
とっさだから矛盾が出る。だがそれを否定しない。のっかる。
いつのまにか、新郎新婦の両親が固まって座る奇妙な座席表の結婚式になる。
シュワルツが横に移動して新婦の母親を演じ、ミドルディッチが後ろに椅子を下げて新婦の父親になると、シュワルツが前に出て、新婦の役になって「こんにーーーちーーーわーーー!」と叫ぶ。
目まぐるしく役割を変えて、次々と演じ分ける。
美しいマジックの手さばきを観てるような快楽。
反対のサイドは、フェス仲間の席になる。
そこには2つの椅子と2つの役者しかいないにもかかわらず、観る側は、たくさんの人が集まり大混乱で進行していく結婚式場がイメージされている。
誓いの場面になり、ショート・ポールが異議を申し立て、参列者は騒ぎ、この後半になっても新しい登場人物(フェスの警備員!)が現れる。
はっきりと演じ分けられるキャラクターだけでも13人以上いるのだ。
クライマックスのシーンでは、次々と今まで登場した人々を2人が演じ分け、群衆が生成される。

これは、イメージの芸術であり、イメージの奇跡であり、イメージのコメディである。

シンプルな舞台だから写真は地味だけど、めちゃおもしろいんですよ!/Netflixオリジナル作品「ミドルディッチ&シュワルツ」独占配信中

「ミドルディッチ&シュワルツ 完全即興コメディスペシャル」
原作・製作:トーマス・ミドルディッチ、ベン・シュワルツ
監督:ライアン・ポリート
出演:トーマス・ミドルディッチ、ベン・シュワルツ

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
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