アジア人差別、出国難航……。新型コロナウイルス混乱の裏にある在外邦人のジレンマ

「新型コロナウイルス感染爆発の重大な岐路」と小池百合子知事が発表したことで日本でも新たな局面を迎えています。新型コロナウイルスは中国・武漢を発端に広がったことから、欧米でのアジア人差別はいまだに深刻です。海外留学から帰国したばかりのキョウアンナさんに、海外で経験したこと、帰国してからの状況をレポートしてもらいました。

今、世界は近代最大の試練の真っ只中にあります。新型コロナウイルスの勢いはとどまることを知らず、アジア、ヨーロッパ、アメリカまでほぼ全ての大陸で猛威をふるっています。日本でも東京封鎖の可能性が示唆され、緩和ムードから一転。週末の自宅待機要請がはじまり、緊縮ムードが高まってきました。

私が昨年から留学していたデンマークでも、3月中旬からあれよあれよという間に、街が封鎖されていきました。3月10日頃から感染者数が前日比倍増のペースで増え始め、3月12日には教育機関やレストラン、カフェの2週間閉鎖(※ 4月13日まで延長)、そして約1カ月間の国境閉鎖、18日には10人以上の集会禁止(※ 違反すると罰金)などの重大な決定が次々に公表されました。

一時、混乱が生じたのは言うまでもありません。しかしデンマーク政府が国民へ対応の説明責任を果たし、時にはエールを送り、労働者への補償をスピーディーに提示。ここでは本筋でないので詳細には触れませんが、迅速な対応のおかげで国内は比較的落ち着いていたようにみえました。

一方、迅速な対応を見せたデンマークにいても、外国人としての立場は常に危うく感じていました。あまり報じられることがないので、あくまで私個人が体験したことがベースとなりますが、ここにお伝えしていきたいと思います。

 

海外にいる「アジア人」が矢面に

残念ながら海外でのアジア人差別は至るところで発生しています。

アジア以外では新型コロナウイルスがそこまで如実に問題視されていなかった3月上旬、学校の研修で中東のある国へ渡りました。 街中を歩いていると、アジア人顔の私とすれ違うたびにワザとらしく口を覆われ、走って逃げられる。それだけならまだ許せますが、奇声をあげて「コロナ!コロナ!」と連呼する群衆、「チャイナ? コロナ!」と指をさして暗に入店を断るお店には正直参ってしまいました。不運なだけかもしれませんが、滞在4日間のうち、この類の差別にはほぼ毎日遭遇。人種で差別されるとはこんなに理不尽なものか、と半ば学びの境地に入りつつ、やりきれない気持ちでいっぱいでした。

その場で差別から守ってくれた友人、「差別をするような人は教養がないだけ。辛いと思うけど、あなたのせいじゃないよ」と後日励ましのメッセージをくれた友人がいたのは不幸中の幸いでした。新型コロナウイルスが中国から発生したからといって、アジア人であること(もちろん、中国人であることも)が差別の理由になっていいはずがない。それでも、アジア人であるだけで差別に遭い、身を隠すように暮らさざるを得ない人々がいるのもまた事実です。私が受けた何倍もひどい差別を受けた方もいるでしょう

デンマークにおいて私は差別に遭遇しませんでしたが、在デンマーク日本大使館から「邦人に向けた差別が報告されているので、気をつけるように」と連絡が入ることもありました。どこの国がひどい、誰が悪いなどは本質ではなく、見えないウイルスへの疑心暗鬼が人に転嫁してしまう事象は、どこにいても起こりうるということです。

世界中の誰もが新型コロナウイルスに感染する可能性があると明らかになった今でさえも、アジア人差別のニュースが続いています。あまり考えたくはありませんが、ウイルス終息後も名残で続いてしまうかもしれません。今後しばらく語りつづけないといけないテーマなのではないかと思います。

 

次は「海外帰り」がネックに

もうひとつ、在外邦人の大きな心配ごとは、日本に帰れるかどうかです。海外の国で永住権を持っていたり、長年住む予定がある人の大半は、そのまま留まるでしょう。一方、短期の出張や留学、その他急を要する理由で日本に帰らなければならない人もいます。私もそのうちの一人です。

もともとビザが終了するため3月末に帰国を予定していましたが、3月半ばから国境は封鎖され、ヨーロッパ発日本行きのフライトは日に日に減少。毎日ヒヤヒヤしながら航空会社のホームページを確認し、帰国のタイミングを見計らっていました。結局少し日程をはやめ、1週間ほど前に帰国しました。(※ 帰国の際、公共交通機関は使用せず、2週間の自宅隔離を実施中です)

そんなタイミングで続出する、海外帰国者の新型コロナウイルス発症のニュース。日本全体が警戒しているのが画面越しに伝わりました。新型コロナウイルスの検疫を受け、結果が出ないまま自宅に帰ってしまうのは問題です。感染が広がる中、旅行するのは非常識だと言われてしまうのは理解できます。

ただ、SNSでたまに見られる「帰国者の顔を晒せ」「日本人でも帰国拒否しろ」などのコメントを見ると、心苦しくなります。海外でアジア人差別に遭い、身寄りの場所もなく、日本の状況をみて帰るのもはばかられる。そんなジレンマで苦しんでいる人を何人も見てきたし、自身も体験したからです。

ウイルスを間接的に持ち込んでいる可能性は否定できず、非難されるのは仕方がないことだと思いますし、後ろめたさも感じます。それでも、残るにしろ帰るにしろ、在外邦人は苦しい葛藤を抱えていることを知ってほしいのです。人々が疑心暗鬼になっているからこそ、誰かを傷つけないための想像力が必要な時です。

帰国する人も、それを迎える人も安心できるよう、入国時の検査体制の整備や、その後の経過観察フローの確立など、国としての水際対策の強化を願います。

 

新型コロナウイルスに思いやりまで奪われないように……

現在、海外に残られている方へ。異国の地で迎える非常事態、とても厳しい状況にあると思います。しばらく残留を選んだ方は、ご友人やご家族と手を取りながら、また各大使館からの連絡を常に確認しながら、どうか無事に過ごしてください。万が一、差別に遭遇することがあれば、大使館へ報告するなど、まずは身の安全を第一に解決していきましょう。

帰国を選択された方、おかえりなさい。帰国後は日本政府の要請に従い、空港での検疫、公共交通機関使用の自粛、人との接触はなるべく避けて2週間の自宅待機を徹底して守ってください。国を守るためにも、自分自身や大切な人の命を守るためにも、絶対に必要なことです。

身の回りに帰国者がいる皆さま。毎日流れる新型コロナウイルスのニュースに、気が気でないと思います。海外帰国者がウイルスを運んでいるのではないか、と心配されるのは当たり前です。国全体で仕組みを整え、帰国者は倫理観を持ってルールを守らなければなりません。それでも、もし身近に帰国者がいるならば、彼らがルールを守っている限りはどうか静かに見守ってください。新型コロナウイルスの流行期に、たまたま海外にいて戻ってきた人を攻撃したり差別したりするのは、どうかやめてほしいのです。海外で起こったアジア人差別に心を痛めるならば、足もとで起こりうる差別にも慎重であってほしいのです。

状況は刻々と変化しています。「私は大丈夫」と思っていても、明日には「危険人物」とみなされてしまうかもしれません。そんな混乱の日々ですが、お互いへの思いやりは忘れないでいたいものです。私は激動の数ヶ月を振り返りながら、しばらくは家でおとなしく過ごしたいと思います。

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