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新型コロナ・パンデミックで休校さらに長期化? 子どもを取り巻くもう一つのリスク

新型コロナウイルスの感染者が東京都で1日あたり40人を超えました。3月25日夜、小池百合子知事が記者会見し、「感染爆発の重大局面」として平日の在宅勤務や週末の外出自粛などを要請しました。オーバーシュートで医療崩壊を起こさせないためです。ロックダウンの可能性もでてきました。新学期からの再開を予定している学校が多いですが、突然の長期休校で見落とされているものはないのでしょうか。ESD(持続可能な開発のための教育)を実践してきた横浜市立日枝小学校の住田昌治校長への取材を通して、突然の長期休校が子どもたちに及ぼす別のリスクが浮かび上がってきました。

子どもたちの姿が見えなくなることによるリスク

住田さんはESDの実践や職員室のマネジメント改革で全国的に知られています。現在勤務する日枝小学校の児童数664人のうち、2割ぐらいが外国籍と外国にゆかりのある子どもたちです。政府の有識者会議で、感染対策が長期間にわたる可能性が示唆された3月9日、学校でいま起きていること、懸念されることなどについてお話を聞きました。

学校の長期休校で、子どもたちは家で孤立していないか?(本文の学校とは関係ありません)

――政府の一斉休校要請に対し、どのような対応をしていますか。

住田さん(以下、住田): 公立学校なので横浜市教育委員会の方針に従っています。横浜の場合、まず3月3日から13日まで休校とする通知が各学校に届きました。16日以降、どうするかは9日に改めて「一斉臨時休業の期間延長について、延長期間を令和2年3月14日(土)~令和2年3月24日(火)(ただし、卒業式の実施日を除きます)とする」という通知が届いたので、本校も3月24日まで休校とすることにしました。

――卒業式や修了式はどのように対応するのでしょうか。

住田: 修了式は実施する予定です。卒業式は3月19日に行います。卒業生と教職員だけによる簡素な式です。卒業式で従来行われていた内容の一部をカットして時間を短くし、参加者も限定しました。卒業生の座席も間隔を空けて座ります。

家の中の子どもたちの健康は?安全は?(本文の学校とは関係ありません)

――いま校庭で遊んでいる子どもたちがいます。この子どもたちは、なぜ登校しているのでしょうか。

住田: 横浜市は、1年生から3年生までの児童と特別支援学級の全児童を対象に、各学校での緊急受け入れ事業を実施しています。4年生以上の児童はひとりでも自宅で留守番していることができるでしょうが、低学年や特別支援学級の児童はそれが難しいからです。両親が働いているなどして、家庭で見守ることが難しい子どもたちは、希望によって学校で受け入れています。

――緊急受け入れ事業には何人ぐらいの児童が参加しているのですか。

住田: 1日平均30人です。1~3年と特別支援学級を合わせると300人強の児童がいるので、1割ぐらいです。持って来た課題やドリル、プリントをしたり、校庭で遊んだり、図書室で本を読んだり、おりがみをしたり、体育館で遊んだりといった具合に、学校の日課表のタイムスケジュールで1時間目から5時間目を学校で過ごします。学年ごとに場所を変えています。給食はないのでお弁当持参です。

オンラインでの無料教材をすべての子どもたちが利用できる環境にあるわけではない(本文の学校とは関係ありません)

ネット環境の違いが格差を生み出す

――ひとり親の子は、昼食を含めてどのように過ごしているのでしょうか。学校はどこまで把握しているのでしょうか。

住田: 緊急受け入れ事業の参加者数については、当初100人規模と予想していました。ところが、30人前後です。学校の規模や実態、家庭事情によって大きく違います。
今週、全校児童の家庭訪問をします。子どもの健康や安全を確認することが主たる目的です。ただ、会えない家庭もあるでしょうしインターホン越しになってしまう家庭もあるでしょう。それでも必ず家族が家に居てもらわなければいけないということでもないので、家庭訪問をしても見えない部分があります。

――見えない部分とは何でしょうか。

住田: 一つは、家庭での過ごし方です。急な長期休校なので、対応は家庭によって違ってきます。長時間ゲームをしたり、YouTubeを見たりしている生活も心配です。文科省は人ごみに行かないようにと言っていますが、公園で体動かすことも必要だと思います。

いま、オンラインで学習支援をしたり、教材を提供したりするサービスを無料公開する動きがありますが、自宅にインターネットを利用できる環境がなければ子どもたちには届きません。この格差はすごく開いていると思います。

砂場に子どもが戻ってくるのはいつか(本文の学校とは関係ありません)

――共働きだと夫婦が交代で在宅勤務をしたり、ママ友が交代で子どもたちの面倒をみたりする場合もあります。

住田: そういう関係性があればいいですが、本当に家で一人ぽつんといるのではないかと思い、心配しています。

家庭訪問は安否の確認という側面があります。家庭の事情は様々です。学校給食を食べることによって満腹感を得ている子どもたちが、長期休暇によって家庭でちゃんと昼ご飯を食べられているのか、虐待はないかといったことです。学校には、様々な理由で児童相談所がかかわっている子どももいます。長期休暇によって、家の中で子どもと親だけになり、子どもが逃れられないような環境になっていないか、すごく心配です。新型コロナも命にかかわることですが、家庭の中でも命にかかわることがあることを忘れてはいけないと思います。家庭訪問をすれば少し見えるかもしれませんが、本人に会わないとわからないこともあります。そのためにも、学校は臨時登校日を設けて教員や友だちと会う機会を作っていく必要があると思います。

たとえば、半分ぐらいずつ分けて分散登校する方法もあるでしょう。いまは長期休校を見据えて、ケアが必要な子どもにケアをする方法を考える時期に来ていると思います。

日枝小学校は給食の残食がゼロです。楽しみにしているということもありますが、それによって命をつないでいる子どもたちがまったくいないとは言えないのが現実なのです。

――長期休校後、児童や保護者に課題を提供したり、連絡をしたりできているのでしょうか。

住田: そのため、横浜市の場合は休校開始日を3月3日にしました。2日に登校したときに家庭での過ごし方や課題を渡しています。すべての家庭にパソコンやタブレット、wifiがあり、後から課題を送ったり、コミュニケーションを取ったりすることができるわけではないからです。

公演で遊ぶ子どもの姿が子どもにとっても地域社会にとっても必要という(本文の学校とは関係ありません)

差別や偏見を生まないための努力が必要

――日枝小学校は外国籍や外国にゆかりにある子どもが多いですが、どのように情報共有や対応をしていますか。

住田: 近隣校で外国籍の子どもが多い学校があるので連携を取りながら、英語と中国語でのプリントをつくって保護者に配布しました。これは、教育委員会単位だと動きが遅いので、学校の判断で行っています。今回のように経緯を説明する必要がある場合は子ども経由で伝えることが難しく、間違って理解されてはいけないからです。情報はインターネット上にあふれていますが、それが横浜のことなのか日枝小学校のことなのか分かりにくいので、学校側から分かるように伝える努力をしないといけないと思います。

――児童の2割が外国籍の子どもや外国にゆかりのある子どもたちということですが、日本人の子どもの間に差別や偏見の感情が芽生えないように努力していることはありますか。

住田: 春節で中国に帰郷する子どもが結構います。家庭の中でそういう会話があるためでしょうが、詳しくは言えませんが教室の中で「大丈夫かな」などという会話をする日本人の子どもたちがいました。当然、中国出身の子どもたちがクラスにいるので、その言葉は人を傷つけることになります。教員もすぐ反応し、「国によって人を見てはいけない」とその都度指導しています。こういうことは、教員全体で情報共有をし、何げない子ども同士の会話でもスルーしないようにしましょうと話をしています。

住田さんが校長を務める小学校で配られた長期休校に関するお知らせの中国語版と英語版=岩崎撮影

――最後に保護者や子どもたちへのメッセージをお願いします。

住田: 子どもたちを自立させるという目的は、学校も保護者も同じです。そのためには、子どもたちが自分で考えてやれるようにすることが大切です。いま、ドリルがすごく売れていると聞きました。子どもが時間を持て余すことを心配して、学校でも家庭でも、プリントやオンライン学習等どんどん子どもにやることを押し付けています。それって、子どもの主体性を奪っていませんか。時間を持て余したり、やることがなかったりして、これほど暇なんてことはいままでに経験したことがないことです。こんな時こそ、どう過ごしていくかを考えるチャンスではないかと思います。突然できた自分の時間をどう使うか、まずは24時間をどう過ごすか、デザインしてみるといいでしょう。

子どもたちは、天気のいい日は外に出て遊びましょう。町から、子どもの声が聞こえなくなったら、町は死んでしまします。みんなと同じことをやる必要はありません。自分のやりたいことに取り組むチャンスです。この機会に、自分で考え、自分で決めて、自分で行動し、自分で表現していきましょう。手洗い、うがい、換気などの感染予防はしっかりしながら。

そして、新学期から始まる新しい学びを楽しみにして過ごしてください。皆さんの元気が日本の元気につながります。

子どもたちの笑顔が戻ってくるには(本文の学校とは関係ありません)

プロフィール

住田昌治(すみた・まさはる)

2010年~2017年度横浜市立永田台小学校校長。2018年度~横浜市立日枝小学校校長。 ユネスコスクールに加盟し、ホールスクールアプローチでESDを推進。独自の切り口で実践を重ね、書籍や新聞等で取り上げられる。2015年度は、「もみじアプローチ」でESD大賞小学校賞を受賞。「円たくん」開発など、子どもや教師が対話的・能動的に学習参加し、深い学びにいたるために有効なツール開発と商品化にも積極的に関わる。  ユネスコスクールやESD・SDGsの他、学校組織マネジメントやサーバントリーダーシップ、働き方等の研修講師や講演、記事執筆等を行い、元気な学校づくりで注目されている。  ユネスコアジア文化センター事業推進委員、神奈川県ユネスコスクール連絡協議会会長、神奈川県環境教育研究会会長、全国小中学校環境教育研究会理事、未来への風プロジェクトメンバー、教育長・校長プラットフォームメンバー、横浜市ミニバスケットボール連盟参与を兼務。  著書に「カラフルな学校づくり~ESD実践と校長マインド~2019」(学文社)

ESD(持続可能な開発のための教育)を実践してきた横浜市立日枝小学校の住田昌治校長=岩崎撮影

おしらせ

インタビュー完全版は、朝日新聞のweb「論座」で読むことができます。(telling,は抜粋版です)

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※厚生労働省の新型コロナウイルス感染症に関するページ

※日本感染症学会―水際対策から感染蔓延期に移行するときの注意点(2月28日)

※新型コロナウイルス感染症対策の基本方針(2020年2月25日)

【編集部注】この記事では、患者が必ずしも肺炎を発症しているわけではないことから「新型肺炎」という表記はせず、「新型コロナウイルスの感染」などの表記をしています。

医療や暮らしを中心に幅広いテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターやweb編集者を経てノマド中。withnewsにも執筆中。