「うっかり女子」が「ちゃっかり生きる」ための5つのポイント

「うっかり女子」って聞いたとき、「あっ、私かな」と思ってしまう人いませんか? 学生時代のうっかりは友だちに「ウケる~」「カワイイ」と言われて笑いに変えることができても、社会人になると笑いで済まされなくなることが多くなります。育児をする中で自分自身が不注意や多動などが特徴の発達障害「ADHD」かもしれないと気付いた、「うっかり女子会」を主宰する雨野千晴さん(38)に、「ちゃっかり生きる」方法を聞いてみました。

「10年前の写真はげっそり」していた私

125日午後、東京都文京区にある出版社の地下のイベントスペースに足を踏み入れると、熱気に圧倒されました。雨野さんは、約30人を前に、オリジナルイラスト入りのパワーポイントを駆使して、自分の“うっかり史”を話し始めていました。

 「小学校の教員をしていた10年前の写真はげっそりでしょう。楽しくなかった。今の私があるのはSNSのおかげです」

 この日のテーマは、「SNSで人生を100倍楽しく生きる方法」。同じような思いを抱えている女性にヒントを提供できたらと思い、イベントを開いたそうです。元小学校教員で、現在はコンサルタント、障がいのある子と障がいのない子が共に学ぶインクルーシブ教育の推進活動、ライティング指導などをしながら、2人のお子さんを育てる雨野さん。どのような「うっかり」を繰り返し、それを切り抜けてきたのでしょうか?

イベントで“うっかり史”を話す雨野千晴さん=2019年12月5日、東京都文京区のイベントスペース

冬の登校はヒッチハイクの高校生時代

「小学生のときは、うっかりネタを笑いに変えていました。高校生のときは、始業時間を過ぎると学校の玄関が閉まってしまうため、窓から教室に入ることもありました。通学に使っていたかばんはパンパン。高校は徒歩とバス、地下鉄を乗り継ぐと1時間以上かかってしまうので、雪道の冬はヒッチハイクをして高校に通っていました」

 こう聞くと、ちょっと破天荒な子、やんちゃな子、変わっている子というイメージを持つかもしれません。勉強はできたため、当時は誰もADHDを疑う人はいませんでした。祖母から言われた「あなたも教員免許をとってから好きなことをしなさい」という言葉を守り、教育大学に進学し、教員免許も取得しています。でも大人になって振り返ると、子どもや学生時代にこんなことがあったそうです。

  • 首からひもで家のカギをぶら下げていてもよくなくしていた

  • 小学生のときの道具箱の中がぐちゃぐちゃだった

  • 授業を聞いていなくてもテストはできた

  • 高校生のときはよく遅刻をした

  • 友だちと一緒にトイレに行くといった「群れ」に入れなかった

  • 荷物が多くてキャリーバッグで学校に通うことがあった

絵・雨野千晴さん

「できない自分でもいいんだ」とは思えなかった教員時代

教員になった後や、子育てをする中では、笑って済ますことができないこと、苦手なことが浮かび上がってきました。

 「先生なのに、子どもの名前が覚えられない。担任するクラスの子どもから『先生、服が裏返し~』と言われたこともありました」

 「お母さんなのに子どもと遊ぶのが苦手で、家事が好きじゃない。お弁当を作ることを忘れることもありました」

 特に教員時代、後輩の教員が配属されると、ライバル心からかどうしても自分の中で比べてしまい、「自分はダメなんだ」と一人落ち込む日が多くなりました。「できない自分でもいいんだ」とは思えなかったそうです。

 このときの負の連鎖は、思い返すとこんな感じだったそうです。

 出来ないことをごまかす→「ホウレンソウ」(報告、連絡、相談)ができない→同僚とうまくいかない→職員室で声が出なくなる……

 「無視されたことが一番つらかった。シャッターを下ろしてしまった人(上司)に、私のどこが悪いのですかと教えを請うても答えがもらえませんでした。職員室に入れず、クラス担任をする教室でずっと仕事をしていました。いま振り返ると、うつ状態だったのかもしれません」

絵・雨野千晴さん

大人になって気付いた「ADHD傾向かな」

そんな自分が「ADHD傾向かな」と思うようになったのは、育休中、子どもの絵本を探しに行ったブックオフでたまたま見つけた、片付けられない人のことを書いた本を読んでからでした。「自分のことかな?」。そう思って知り合いの臨床心理士に尋ねてみると、あっさりと「前からそう思っていた」という言葉が返ってきました。

 ADHDは、「注意欠如・多動性障害」の略称です。厚生労働省の健康情報サイト「e-ヘルスネット」では、集中できなかったり、じっとしていられなかったり、考えるよりも先に動く、といった特徴がある発達障害の一つと説明しています。現在、子どもには手厚い支援が行われ始めていますが、雨野さんのように大人になってから「傾向」として気付く人もいます。

 雨野さんの転機は、産後のベビーマッサージに行き、ママ友に“うっかり話”をして笑ってもらったことでした。その後、雨野さんと同じように自閉症の子どもを持つ親たちのために何か自分が伝えられることはないかと考え、ブログを始めました。

 「ブログに自分のありのままのできごとや本音を書くと、『わかるわかる!』『ありがとう』の嵐でした。私と同じように、自分ができないことに落ち込んでいたり、自己肯定感が低かったりする人の心に刺さったのかなと思います」

絵・雨野千晴さん

孤立感からの解放

雨野さんはいま、約140人が参加するfacebookの非公開グループ「うっかり女子会」を運営したり、リアルなイベントを開いたりしています。「うっかり」を気軽に書き込み、仲間から「あるある」とフォローやアドバイスをしてもらえる寛容なコミュニティーづくりに力を入れています。「一人じゃないんだ」という孤立感からの解放です。

 「玄関の錠(シリンダー)を付けたまま外出してしまったり、電気ポットをガスコンロにかけてしまったりして『ごめんなさい』と思っているんですけど、うっかり女子仲間に『あるある』『すごくわかる』と声をかけられると安心するんですよね。そんな共感のあとに『私はこうしている』とアドバイスを書き込んでもらえると助かります」

 時々、「私も『大人のADHD』かもしれないので相談にのってもらえませんか?」という人もいますが、雨野さんは医師ではないので診断や治療することはできません。でも、うっかり女子でも「ちゃっかり生きる」術は同じような悩みを抱えている人たちで共有できると考えています。そこで勧めているのが、SNSを使って「書く」という行為です。

「うっかり女子」に送るコアメッセージ=2019年12月5日、東京都文京区のイベントスペース

「SNSでちゃっかり生きる」ために注意したいこと

書くことで自分を振り返ることができ、日記と違って少しずつ本音を言う練習になる。そして違う意見があることや本音に共感してくれる人がいることを知る――。

 ただし注意点もあると雨野さんはアドバイスします。まず、エゴサーチはしないこと。雨野さんは傾聴ボランティアを2年間務めた経験から、そこで「自分の主観を排して他人の話を冷静に聴いたり、受け止めたりすることを学んだのが役立っている」と話しています。しかし、普通の人だと自分について書き込まれたことが気になって引きずってしまうことがあるので要注意です。

 また、それぞれのSNSに特性があります。ブログは、実名や顔写真を出さずにできます。雨野さんが推奨するfacebookは、自分でプライバシー設定が選べる利点があると言います。一方、Twitterは推奨しないそうです。「実名ではないためか、人を傷つけるような書き込みが目立つからです」。そして、ライティングの際、「誰かのために役に立つことを書きたい」と気負わず、まずは本音を書くところからスタートした方がいいとアドバイスしています。

 そのうえで5つの注意点を挙げます。

  1. 読む人のためになることを書こうとするより、まずは自分が書きたいことを書きたいように書いてみる
  2. 間違ったり、人を傷つけてしまったりしたら謝り、自衛のために「私はこう思います」を書き加えることを忘れない
  3. 本当に思っていることを書くことが怖い人は、自分のさじ加減でプライバシーを伏せて書き、無理をしない
  4. 顔写真、名前、職業、居住地、価値観はスモールステップで自己開示していく
  5. コアメッセージを発信し続ける

雨野さんのコアメッセージは「ちがっているから面白い。どんな自分でも大丈夫。一人ひとりのよさがある」です。「うっかり女子でも大丈夫」とメッセージを発信し続けることで、「自分に共感してくれる人の輪が広がり、深まっていく」ことを目標にしています。

 社会に出て「みんなと同じように仕事ができない」と感じたり、結婚して「家事ができない」「育児ができない」と悩んだりする人がいます。雨野さんはこう話します。

「みんな、怠けているのではないので、心の奥底でわかってもらいたいと思っています。対外的な理由が付くと許容されやすい社会に変わりつつありますが、もっと寛容な社会になれば生きやすくなるのに、と感じます」

■「うっかり女子会」のインスタグラムはここから

■雨野千晴さんのfacebookはここから

■雨野千晴さんの寄稿文 【論座】「ADHDの元教員で自閉っ子の母親が気付いたこと」

絵・雨野千晴さん
医療や暮らしを中心に幅広いテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターやweb編集者を経てノマド中。withnewsにも執筆中。