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XXしない女たち #23

体重計に乗らない女たち ダイエットで「幸せ」にはなれない

私たちはさまざまな「HAVE TO:やらなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないこと? 働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研プラスによる連載「XXしない女たち」。今回は「体重計に乗らない女たち」。「痩せた体型=キレイ」という呪縛に多くの女性たちがとらわれるなか、「体重を気にしない」という3人の女性たちに話を聞きました。
リスクヘッジに余念のない女たち メンタル不調に動じない女たち

ダイエットより、仕事のパフォーマンス

現在28歳、医師として働くCさんは、大学生の頃までは、「太ってはダイエット」を繰り返していた。だが、今は、「自分の“体の声”を聞けるようになった」と言う。

きっかけは、働き出したことだった。社会人としての責任が求められる立場になり、当時の仕事がハードだったことも相まって、体のパフォーマンスを常に最高に持っていきたいと強く思った。 体重計に乗ることは、ダイエットのモチベーションにはなるけれど、同時に大きなストレスでもある。だからCさんは、体重計には乗らず、自分がどうしても食べたいと思う時に食べたい分だけ食べるように、食生活を変えた。一口ひとくち、「まだ食べる?」と自分の体に聞きながら食べるようになった。

nensuria/iStock/Getty Images Plus
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高校生くらいから、お昼ご飯を食べた後に眠くなることを経験していたから、感覚的に「食べるもの」と「パフォーマンス」が関係していることは知っていた。満腹になりすぎると眠くなったり、急激に糖質を摂取すると集中できなくなったり、タンパク質不足だとお腹にたまらず慢性的に空腹を感じお菓子をつまんでしまったり。食べる量や栄養素によって、頭や体力が大きく左右されると言う。

大学生でダイエットに励んでいた時に、食べ物の栄養素を調べまくったおかげか、いま自分の体が求めている栄養素が、なんとなく見極められるようになった。今の私の体はタンパク質を欲しているのかもーー、などと。

ダイエットで「幸せ」にはなれなかった

そんなCさんは、大学生の頃はダイエットに苦しめられていた。大学5年目の頃にひどい失恋をし、自分に自信を持てなくなった。なにかしら目的を設定しないと、気持ちが鬱々としたまま抜け出せないーー。そう思って、意地になって始めたのが「ダイエット」だった。糖質カットに始まり、食事内容の記録、パーソナルジムと普通のジムの掛け持ちなど、当時のCさんは盲目的にダイエットに励み過ぎ、「結婚式でも控えているの?」とジムのトレーナーに聞かれたほどだった。でも、4-5kg痩せたところで停滞期に入り、ジムの契約期間終了などが重なって、見事にリバウンドした。

当時を振り返ると、トレーニングで徐々に減っていく体重を見て、達成感はあったかもしれないけれど、それで幸せだった記憶がない。始まりもただ、辛いことを忘れようとしてやっていただけだったし、常に飢餓状態だったから、「全然幸せじゃなかったな」と、Cさんは言った。

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そんなCさんにとって「理想の体」とは、 自分の頭がシャキッとしていて、十分に仕事のパフォーマンスが出せる状態のこと。「一人ひとりの活動量や脂肪量は異なる。世の中の“平均的”な数字情報 を信じ込むのではなく、自分自身の体の声を聞くことが大切なのではないか」とCさんは言った。

今は「美しく」あるための情報が世の中に溢れているけれど、「パフォーマンス」というCさんなりの基準で自分の体に向き合う姿が印象的だった。

病気を経験し、「適正体重」を知る

次に話を聞いたのは、広告代理店で働くKさん(26歳・既婚)。
Kさんは、昨年11月に結婚式を挙げた。元々細身なほうではあったが、選んだウェディングドレスがタイトだったため、当日入らなくなるのが心配で、過去最大出力でダイエットに精を出していた。タンパク質中心の食事を意識して、ささみ肉と野菜中心の食事を心がけ、お米はほぼ食べず、野菜をカットして作った「だし」をかけた豆腐が主食に。運動も定期的に行うようにした。その結果、くびれが綺麗に出てきて、健康診断で測ったBMIもはじめて17台を叩きだし、痩せたことに喜んでいた。しかし、それも束の間、痩せ過ぎによる体調不良に悩まされるようになった。

低音が聞こえにくくなり、耳鼻科に行ったところ、難聴であることがわかり、 急な体重減少でなりやすい「耳管開放症」という病気を知った。他にも、食べ物の脂肪が不足したことで重度の便秘になって消化器科にかかったり、免疫が下がって婦人科系の病気にかかったり。病院通いも大変だった。

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Kさんのダイエットは、今回が初めてではない。大学時代に付き合っていた彼が「太ってる人、マジで無理」という発言をするのを聞き、その場では「そんなこと言ったらダメ」と注意したものの、それ以降はなんとなく自分の体形を気にしてしまう原因に。当時、運動はほとんどしていなかったから、体重計に乗って増えてしまった分は、短期的に食事を減らして調整していた。親に言ったら怒られそうだが、一人暮らしだったこともあり、コンビニのおむすび2個だけで食事は終わり、なんていうことはざらだった。

SNSなどを中心に、モデルのように美しい“理想的な体重”は「シンデレラ体重」とも呼ばれる。それを目指すべきという情報も氾濫するなか、「適正体重」の大切さを知った今では、将来的に健康寿命を延ばせるような、「自分にとって」適正なBMIがKさんの理想だ。身を持って「ちゃんと食べる」ことの大切さを知り、今では、数百グラムの体重の増減で一喜一憂することも、白米を抜いて不健康な体重の調節をすることもなくなった。

「痩せる」ための情報はいくらでも転がっているけれど、痩せることによる病気のリスクは、意外と知られていない。Kさんも体重を気にしなくなってから、ほとんどの体調不良は快復したものの、一度発症してしまうと慢性的になってしまう病気もある。「仕事などの理由で体重管理が必要な人もいるため、ダイエットを全て否定することはできないけれど、そういったリスクを知ったうえで、選択してほしい」とKさんは言う。

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結婚後は、夫と二人で、長く、健康的に、楽しく暮らしたいという思いが今は強い。心配性なKさんは、体に少しでも異変があると、精神的にも不安定になるし、病院に行くにも時間もお金もかかる。「健康って本当にありがたいなって、すごく思うんですーー」。Kさんはしみじみと言った。

ダイエットは一度も考えたことがない

最後に話を聞いたのは、外資系コンサルに勤めるTさん(32歳・独身)。
Tさんは、「ダイエットしなきゃ」と思ったことは一度もない。幼少期から親に、「ダイエットは健康に良くない」「体重制限をして自分の体を壊すのは良くない」と言われて育ったこともあり、学生時代に「ぽっちゃり」したときでも、「太ったな」「ダイエットしなきゃ」とは全く思わなかった。

中国で生まれたTさんは、高校に入ってから受験勉強で太り始め、社会人2-3年目までは比較的「ぽっちゃり」とした体型だった。ただ、学生や社会人になった時、周りにはいろんな体形の人たちが当たり前のようにいたし、「ダイエットしよう」なんて言う人もいなかった。また、周囲の人たちを見ていて、体型は、遺伝や骨格の大きさが影響するから、努力ではどうしようもない部分が大きいんじゃないかとも思っていた。彼氏ができて、美しくなりたいと思った時も、ファッションには興味を持ったが、ダイエットしようとは思わなかった。

Vittorio Gravino/iStock/Getty Images Plus
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20代後半で、仕事も忙しくなり、精神的なストレスと、彼と別れたことが重なって食欲がなくなり、自然にどんどん痩せた。「ぽっちゃり」していた頃より7kgほど減った体重で今は安定している。「ストレスで太る人と痩せる人がいて、たまたま私は痩せる方だった」と話すTさんは、特に痩せたことによる体の異常はなく、痩せたことを良いとも悪いとも思っていない。

昔のTさんを知っている親や友だちは、「ダイエットしてるの? 痩せすぎなんじゃない?」と心配してくれるけど、ダイエットはしていないし、健康的にも大丈夫、と話している。昨年の健康診断結果は「痩せ気味」だったが、健康上の問題は特になかった。しかし、これ以上痩せたら、体に病気がないのか、自分でも少し心配だとTさんは言う。「自分の体は健康面で問題ないか?」が大事だから、健康でいられるなら、BMIが正常な範囲内でなら、太っても構わないと思っている。

「体重を気にしない」は3割弱

博報堂キャリジョ研プラスは今年6月、20-40代の女性150名を対象に「体重に関する意識アンケート調査」を実施した。「体重を気にしない・全く気にしない」と答えた女性たちは合わせて28.6%と約3割程度。「とても気にしている・気にしている」と答えた女性たちは合わせて71.3%おり、体重はいまも女性たちの多くを“支配”しているようだ。

【グラフ1】

博報堂キャリジョ研プラス「体重に関する意識アンケート調査」グラフ1

「体重を気にしない・全く気にしない」と答えた女性たちに、その理由を聞いたところ、最も多かったのは「食事を楽しみたい」27.3%、次いで「体力をつけたい」20%、「気持ちが楽だから」16.4%という結果となった。

【グラフ2】

博報堂キャリジョ研プラス「体重に関する意識アンケート調査」グラフ2

ダイエットの経験を尋ねたところ、7割近くの女性たちに経験があり、そのうち半数程度の女性たちが「過去のダイエットでつらい経験をした」と回答した。

【グラフ3】

博報堂キャリジョ研プラス「体重に関する意識アンケート調査」グラフ3

辛かった経験を具体的に聞いてみると、「(体重を)気にしすぎて食べられなくなった」「摂食障害になった」というものや、「生理が一時的に止まってしまった」「病気になった」「意識が朦朧としたまま生活していた」「脱水症状」など、体に不調や病気の症状が出たという答えも多かった。精神的にも、「お腹がすいてイライラしていた」「好きなものが食べれなくてストレスが溜まった」などの声が挙がった。

厚生労働省「国民健康・栄養調査報告」によると、日本の20代女性では5人に1人が「やせ」(BMI値18.5未満)に該当し、成人女性の「やせ」の割合は先進国の中で最も多い(※1)とされる。今回の調査でも、7割近くの女性たちがダイエットを経験し、うち5割以上の女性たちが辛い経験をしていることが明らかになったが、辛い経験をしてから気づくのではなく、過度に世の中の「痩せ」基準に合わせることの危険性を事前に多くの女性たちが知ることの重要性を痛感した。

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ウェルビーイングなど自身の心身の健康を重視する潮流が強まる一方で、今回取材した3名の女性たちのように、世の中の「美しい」とされる基準に疑問を抱き、自分自身の「基準」を把握することは、正直かなり難易度が高いのではと思う。だが、日本でも、これまで蔓延していた「スリム至上主義」への違和感が少しずつ顕在化しているように思う。

そのひとつの例が、昨今の芸能人の「50キロ越え」告白だ。影響力をもった芸能人たちが“リアル”な数字を公表したことで、世の中の女性の描く理想体重は、実は作られた“虚像”の基準であることが広く知られ、勇気をもらった女性も多いはず。こうした“虚像”があたかも「現実の望ましい姿」のように作り上げられてしまったのは、芸能界やファッション業界、メディア業界などの風潮による女性自身の思い込み、周囲の男性からの視線などによるところが大きいと思う。世の中全体が今の「美しい」とされる画一的な基準に疑問を呈し、ひとりひとりが心身の健康を見つめ直せるような社会にシフトしていくことを願う。

※注釈1・・・日本肥満学会誌「肥満研究」24,16-21,2018

リスクヘッジに余念のない女たち メンタル不調に動じない女たち
「博報堂キャリジョ研プラス」所属。1995年生まれ。雑誌・新聞の広告メディア領域を経験したのち、PRプラナーとしてクライアントの情報戦略、企画に携わる。だれもがハッピーに生きる社会を目指して、キャリジョ研での活動や日々のプランニングに邁進。大好きなのは高知県、もんじゃ、夏。