フリーライター・姫野桂さん(31歳)

ミレニアル世代の発達障害当事者「あなたは悪くない」ということを伝えたい

フリーライター 姫野桂さん(31歳) 発達障害についてのルポ『私たちは生きづらさを抱えている』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社)の著者の姫野桂さんは、自身が発達障害であることを昨年カミングアウトしました。生きづらさの原因がわかったことで、以前より自己肯定感が高くなったと話します。

発達障害に「マッチョイズム」を感じていた

昨年8月に発達障害についての本を出しました。発達障害の知識はゼロの状態からのスタートだったのですが、当初は発達障害に対して「マッチョイズム」を感じていました。

マッチョイズムとは、発達障害の当事者でも、その特性を武器にしたり、何かしら生かしたりできるのでは、という考えです。私自身、発達障害の診断を受けていて、LD(学習障害)とADHD(注意欠陥)の症状が強く、極端に数字に弱いんです。

困りごとは、確定申告の金額を数十万円単位で間違って申告してしまったり、普通の人は目がいくところが見えていなかったりすること。以前、そば屋に行った時に天ぷらそばを注文して、そば用と天ぷら用のつゆが一つずつ出てきたのですが、私はそば用のつゆが見えていなくて。天ぷら用のつゆにそばをつけて食べていて、「何か薄いな」と思っていました(笑)。

でも、ライターとしてはやっていけている。その強みがあるので、マッチョイズム精神が芽生えたのかなと思いました。自分の中のそんな精神に気づいたのは、ルポライターの鈴木大介さんと対談した時です。鈴木さんは裏社会や非行少年少女などを取材している方で、非行に走る人は発達障害がある傾向があると言われていました。

鈴木さんは、障害があって出来ないことがあったとしても、その先の考え方が「がんばろう」ではなく「仕方ない」なんですね。私はどちらかというと、発達障害でもその代わりになるものを提示していきましょうと言い続けてきました。そのような考えを負担に思う人がいるかもしれないということに、その時気づきました。

実際、取材で当事者の方にインタビューをする中で、苦しみしかない人の存在を知って。その人たちの生きづらさを可視化したいと思うになったんです。

これまで発達障害の当事者60人ほどに取材をしたという姫野さん。当事者の友人から相談を受けることも。

事実と思い込みを、分けて考える

昨年、病院へ行き発達障害の診断を受けました。診断を受けて、これまで生きづらさを感じていた原因がわかり、納得しましたね。LDやADHDの特性により緊張感が生じて不眠につながっている可能性があるため、担当医からは睡眠チェックをした方がいいと言われていて、その日の睡眠の質、気分、疲労具合を1、2、3段階で毎日記録しています。

また、発達障害の人は思い込みが激しいことがあり、客観的に自分自身を見ることが苦手な人も。私の場合、「こういう事実があって、私はこういう気分で、相手はこういう態度をとっている」ということを紙に書き出し、可視化しています。そうすると、事実と自分の思い込みがはっきりと見えてきます。客観的に物事を見る訓練は大事だと思います。

自己肯定感が低いことも特徴の一つです。周りと比べて出来ないことがあるので、子どもの頃は家庭や学校で怒られ続け、社会人になって上司に怒られるようになると、自然と自信をなくしていくのだと思います。私自身、5年前に仕事で会った人と最近再会したとき、「姫野さんはなんでこんなに自信がないのかと思った」と言われました。全身から自信のなさがにじみ出ていたのかもしれません。

以前に比べ、私は自己肯定感の低さはなくなりました。診断を受け、改善を図るようになったことに加え、仕事がうまくいっていることも追い風になっているのかもしれません。

発達障害の症状の度合いによるかもしれませんが、工夫することで生きやすくなることもあると思います。著書の『発達障害グレーゾーン』でも書いたように、私が取材した中で当事者たちが実践している「ライフハック」があります。例えば、仕事でのケアレスミスを少なくする方法や、忘れ物をなるべくなくす方法、遅刻やスケジュールのミスを防ぐ方法などです。それらを使うことも一つの解決方法になるのではないでしょうか。

以前は2週間に一度通院していたが、今は3週間に一度に減ったという。

完璧主義の自分を変えたいと思う

仕事は順調ですが、恋愛の方はあまりうまくいっていません。私は「0か100か」の考え方の傾向が強く、完璧主義なんです。なので、恋愛に関しても完璧でありたい。例えば、付き合っているのかいないのかのグレーゾーンが苦手。白黒はっきりさせたいんですね。

また、なかなか人を好きにならないタイプで、性格も容姿もストライクゾーンがとても狭い。発達障害の特徴で、においに敏感です。いいなと思った人でも、においがダメだとアウトになってしまいます。

結婚願望はあります。でも、形にはこだわりません。パートナーがいれば、事実婚でも別居婚でもいいです。恋愛や結婚など、全てにおいて自分の理想があるので、それを突破したいです。完璧主義の自分を変えていけたらいいなと思っています。

今後はエッセイの仕事を増やしていきたいという姫野さん。現在、デイリー新潮にて『「普通の女子」になれなかった私へ』を連載中。

発達障害の女性はモラハラ・パワハラを受けやすい

今のところ個人ブログ以外で、発達障害の当事者として情報発信している同世代の女性はいないのではないでしょうか。ミレニアル世代の当事者として、今問題だと思っているのは、発達障害の女性はモラハラ、パワハラを受けやすいということです。自己肯定感が低いので、標的にされやすいんですね。

また、人の話を信じやすい人も多い。そのため、マルチ商法や新興宗教の勧誘などを受けやすいことも。今はそのことをエッセイや講演会などで伝えているのですが、これは私にしか出来ないことだと思うので、これかも発信してきたいと思っています。

同世代の女性に伝えたいことは、まずは自分を責めないでということ。あなたは悪くない、あなたの特性がそうさせている、ということを知ってほしいですね。

●姫野桂さんプロフィール
1987年宮崎県生まれ。日本女子大学文学部日本文学科卒業後、一般企業に就職。25歳でライターに転身し、現在は週刊誌やウェブで執筆中。猫が好きで愛玩動物飼養管理士2級を取得。

『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』

著:姫野桂

発行:イースト・プレス

同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。