『海のはじまり』4話

母親は、そうじゃない女性より偉いのか? 優しさに見せかけた“遠慮”が生む分断 『海のはじまり』4話

目黒蓮演じる月岡夏が、大学時代の恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀の場で、彼女の娘・南雲海(泉谷星奈)に出会う。人はいつどのように父となり、母となるのか。生方美久脚本・村瀬健プロデューサーの『silent』チームが新しく送り出す月9ドラマ『海のはじまり』(フジ系)は、親子や家族の結びつきを通して描かれる愛の物語だ。第4話、水季のとあるセリフを軸に生まれ得る“分断”について考える。
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女性はみんな子どもを欲しがるもの?

「チャイルド・フリー」という言葉がある。子どもを持たない人生のほうが豊かであると考え、選択的に子どもを持たない人々を意味するという。

また、ドラマや映画、文学には、子どもを持つこと、または持たないことをテーマにする作品が存在している。最近の一例として、「代理出産」をテーマにした桐野夏生の小説『燕は戻ってこない』(集英社)がある。自らの遺伝子を受け継ぐ子の誕生を望む元バレエダンサーの夫と、不妊治療をしても妊娠がほぼ不可能な妻が、非正規雇用による貧困から抜け出せない一人の女性に代理出産を依頼する物語で、NHKでドラマ化された。

なぜ、子どもを欲しがる人と、そうじゃない人がいるのだろう。そして、なぜ、女性はみんな子どもを欲しがるものだ、とする考え方が一般的になっているのだろう。

子どもを持つこと、または持たないことにまつわる考え方がこれだけ流布している時代なのに、多様性なんて無視した「産めるなら、子どもは産むもの」という価値観が、驚くほど長く居座っているように思えてならない。

4話では、水季の母・南雲朱音(大竹しのぶ)が、いかに水季を授かるのに苦労したか、不妊治療の大変さを説き続ける一方で、当の水季は「子どもが欲しかっただけでしょ。母親ってポジション欲しかっただけでしょ」と一刀両断する。そして「母親って、そうじゃない女より偉いのかよ。治療して妊娠したら、そうじゃない女より偉いのかよ」と重ねる。

この母娘のやりとりは、同じ女性の間に生まれ得る分断を端的に表しているように見える。母になった女性と、そうじゃない女性。子どもを望む女性と、そうじゃない女性。

水季のセリフには、ことあるごとに自身の苦労を聞かせる母に対する反発や、自分のような“親不孝”な子どもが生まれてきたら怖いが、相手に似るなら産みたいと望む気持ちなど、さまざまな感情が滲(にじ)んでいる。

水季が夏に向けた「優しさ」の正体

水季が夏に、子どもを産むことを相談せず、シングルマザーになることを決断した背景もじわじわと浮かび上がってきた。夏から中絶同意書へのサインをもらってきた水季は、ようやく朱音へ妊娠を報告する。すると、前述したように口げんかになってしまったが、その後、水季は、父・南雲翔平(利重剛)の「本当は産みたいの?」の問いかけに、「相手に似るなら産みたい」「迷惑かけたくない。責任負わせたくない」と心中を垣間見せている。

水季は、心の底から、夏に迷惑をかけたくない一心で、一人で海を産んだのだろう。ところが夏は、水季が亡くなるまで、自分の子どもがいることも、いつの間にか“父親”というポジションになっていることも気づかずにいた。それは、本当に水季が望んだ状況だったのだろうか。

水季の妊娠がわかった頃、夏はもう就職活動の準備をしていた。確かに夏は、人生を送るうえで、波風が立つことを避ける性質を見せていた。穏便に、無難に、当たり障りなく。そんな彼に、妊娠したことを告げ、出産すると決めた場合の話し合いをすることは、水季にとって「夏の可能性を狭める」未来しか見えなかったのだろう。

しかし、こうとも考えられる。水季が夏に対し、海を出産したことを隠したまま亡くなってしまったことで、彼は「自ら父親になることを選ぶ道」を制限された。つまり、海の母である水季と話し合い、家族として暮らす選択肢を奪われたことになるのではないか。

水季が夏に向けたのは、混じり気のない優しさだった。しかし、その優しさは、夏に対する“遠慮”がもとになっている。彼の人生を邪魔したくない、迷惑をかけたくない、責任を負わせたくない……。水季が、自分一人で出産し、育てていくことを決意した瞬間から、夏と水季の間にもまた、形容しがたい分断が生まれてしまったのだ。

パパ・ママじゃないというだけで一緒にいられない?

海は少しずつ、いたい人と一緒にいることの難しさを感じはじめているように見える。夏と遊びに行ったことを報告した津野晴明(池松壮亮)に対し「津野くんも今度一緒に行こう!」と誘うが、彼からは「また夏くんが連れていってくれるよ」とつれない返事。「なんで前みたいにいっぱい会えないの?」と海が重ねて問うと、津野は「海ちゃんのパパじゃないからかな」と返す。

海は、弥生とも似たやりとりをした。「夏くん好き?」と弥生に問う海。「うん、好きだよ」「海も!」「そっか、一緒だね」と微笑ましい会話が続く。しかし、「じゃあまた3人で遊ぼ!」と、海が弥生を誘うと「うーん、どうかな」と、またつれない返事だ。これに対し、海は「ママじゃないからダメなの?」と、おそらくは津野に言われた言葉から連想して、弥生に問いかけている。

パパじゃないから。ママじゃないから。本来、子どもにとって、一緒にいて愛情を注いでくれる相手が「パパ」であるか「ママ」であるかは、関係がないのかもしれない。少なくとも海にとっては、パパである夏も、パパじゃない津野も、ママじゃない弥生も、等しくそばにいてほしい大人として映っている。

子どもと一緒にいるか、それとも、いられないか。往々にして、それを決めるのは子どもではない場合が多い。大人の事情や関係性がものを言う世界。水季は、「海には自分の意思で選ぶことを大事にさせてあげて」と朱音に言い伝えたというのに。

もしも、津野や弥生が「パパじゃないから」「ママじゃないから」という理由だけで、海とともに過ごすのを拒み続けたら……。世間のいう正解ではなく、自分の感覚を信じることを学んできた海でも、この世に広く浸透している“常識”に絡め取られる日が、いつか来てしまうのではないだろうか。

父親である夏(目黒蓮)の“他人事感”。「憧れ」だけでは家族になれないのか 『海のはじまり』3話 “そばにいただけの他人”は報われない? 血や法律で繋がらない“第三者”の本音 『海のはじまり』5話

『海のはじまり』

フジ系月曜21時~
出演:目黒蓮、有村架純、泉谷星奈、木戸大聖、古川琴音、池松壮亮、大竹しのぶ ほか
脚本:生方美久
音楽:得田真裕
主題歌:back number『新しい恋人達に』
プロデュース:村瀬健
演出:⾵間太樹、髙野舞、ジョン・ウンヒ

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。
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