専門家がやさしく解説

今すぐできる新型コロナウイルス対策 通勤電車どうする?帰宅時に必要なことは?

新型コロナウイルスの感染拡大で、日本でもドラッグストアでマスクが売り切れになったり、テレビ番組で毎日特集が組まれたりしています。無症状の感染者やヒトからヒトへの感染者が見つかったことから、新たな局面に入ったと見る専門家もいます。洪水のようにあふれる情報をどう理解し、どう備えればよいでしょうか。オーバーシュートや医療崩壊させないために何をすればいいのでしょうか。国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター・感染症学の矢野晴美教授に聞きました。

海外旅行、どこまで控えればいいの?

――WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は、記者会見で「これ以上の移動や貿易の制限が必要だとは考えていない」と発言しました。一方で、航空機の運航を止める航空会社が出てきたり、入国やビザ発給を制限している国も出てきたりしています。この状況をどう理解すればいいのでしょうか。

矢野晴美教授(以下、矢野): 現在、日本政府も中国への不要不急な渡航は控えるよう国民へ勧告しています。WHOの緊急事態宣言も、今は、不要不急な動きはやめた方がいいということです。優先順位からすると、患者が一番多く、症状のない微生物保有者が多いと考えられる中国、特に武漢への渡航は控えた方がいいレベルだと思います。

2月2日のWHOのリポートによると、中国の次に患者が多いのが日本やタイ、シンガポールになります。そうすると、患者が多い日本で暮らす人たちは海外へ行かない方がいいのか、という話になります。現時点で、日本人の渡航を制限することは、武漢以外にはないと思います。ただし、日常生活では人と接触するので常にリスクがつきまといます。基本的な感染対策を個人が心がけることに尽きると思います。

羽田空港には毎日、中国を含め世界各国から航空機が到着し、人々が往来している。水際作戦にも限界がある

マスクの過信は禁物

――telling,世代の働く女性たちも日々、不安を募らせています。どのような感染対策を心がければいいのでしょうか。

矢野: 最も大事なことは手洗いです(アルコール消毒を含む)。マスク着用を必須と勧める人もいますが、症状のない人が予防的にマスクを着用することに確かなエビデンスが少ない、というのが国内外の専門家での一般的な認識です。

医療機関でさえ医療従事者がマスクを適正使用していないケースがあります。鼻が出ていたり、装着面が密着していなかったりすると感染を防ぐことはできません。マスクの着脱で触った手が最も汚れているので、その手で色々な環境表面を触ると、そこで2次感染が起きます。電車に乗るときにマスクは必要ですかという人がいますが、それより手洗いをきちんとする方が現実的な予防方法です。

――厚労省もマスク着用については、飛沫を飛ばさないための「咳エチケット」といっています。

矢野: 咳エチケットの方法は、一つはマスクですが、もう一つは咳をする際、ハンカチや肘で口をふさぐことです。手で押さえると手が汚染されてしまい、その手で色々なところを触って2次感染が起きます。人と触れない上腕の肘の部分などで口を押さえてくださいということです。

――マスクの取り扱いも注意が必要ですね。

矢野: インフルエンザや他のかぜのウイルスなども付着している可能性があるので、マスクの本体部分は触らないこと。そして鼻のところをワイヤーで密着させるわけですが、ずれてきたら取り換えましょう。取り外しはゴムのところを持って外し、捨てます。

マスクは長時間しているほど表も裏もウイルスだらけになります。例えば、食事のときにマスクをテーブルに置けば、そこが汚れます。そういうところで感染が広がっていきます。

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手洗いのポイントは?

――手洗いが最重要ということですが、アルコール消毒でもいいのですか。

矢野: 手洗いは、流水で洗うか、アルコール性消毒薬で手を消毒するかです。

――テーブルやドアノブ、床など日常生活で人が接する「環境表面」の消毒はどうすればいいのですか?

矢野: 家庭なら、手などは消毒用アルコール(70%)、環境表面をふく場合は、アルコールを含む消毒薬や次亜塩素酸ナトリウム(0.1%)などが有効とされています。

――個人個人で基本の予防をきっちりおこなうことが大事になりますね。

矢野: 若い人たちが医療従事者に近い知識を持つようになれば、随分変わると思います。例えば、手洗いのシンクにしても、水道水で手洗いをしていて水しぶき散るような浅いシンクでは、周囲が汚染されて感染リスクが広がります。また、蛇口をひねる行為で手が汚れます。ドアノブも同じです。いかに感染経路を断つかを考え、一人一人が理解して実行できるかがかぎになります。

――幼稚園や保育園に通う乳幼児は感染症にかかりやすい環境で暮らしていると言えます。幼い子どもがいる家庭が注意すべきことは?

矢野: 今、子どもは外出を控えるというレベルではありません。子どもはマスクをしていても手で触ってしまいます。まずは手洗いがきちんとできるようにしましょう。

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免疫力を高める生活を心がけよう

――日々の通勤、通学もあり、日常生活の中で人とまったく接触しないことは難しいです。終息するまで在宅勤務できるわけでもないし、ネット通販で暮らすわけにもいきません。身を守るためにどこまで予防しなくてはいけないのか、悩む人が多いと思います。

矢野: 多くの人が触るような電車やバスのつり革などに触れて帰宅したら、必ず手洗いをするということに尽きます。ベースとしての感染対策を高めるためには、ステップゼロが年齢ごとの標準的なワクチンを接種しておくということです。その次に手洗いと咳エチケットです。コロナウイルスのワクチンはありませんが、基本的な感染防御のレベルを上げておくことが大切です。

免疫力を高めるという視点からアドバイスすると、規則正しい生活をする、十分な睡眠を確保する、バランスの取れた食事を取る、運動を適宜する、といった健康の維持・増進に必要なことを続けていくことに尽きます。日ごろの健康に対する認識を一気に上げるのは大変です。100を基準とすると、標準的なワクチン接種で50をカバーして、手洗いや消毒を徹底することでそれが60に上がり、咳エチケットで80になるというようなベースを高めることが大切です。そこまでベースが高ければ、例えエボラ出血熱や新型コロナウイルスでも準備することは少なくなります。

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重症化しやすい人はどんな人?

――どういう人が重症化しやすいのですか。

矢野: 報道や論文による情報をもとに考えると、感染力は麻疹(はしか)より低いと言えます。麻疹では同じ空間にいると、空気感染するので麻疹にかかったことがない人はほぼ100%発症します。新型コロナウイルスは基本的に飛沫感染なので、患者を中心として半径2メートルぐらいのところにいて、患者のせきやくしゃみが届く範囲にいる人や、ウイルスが付着した手が触った環境表面を周囲の人が触れば感染する可能性があります。

重症化しやすいと考えられているのは、糖尿病、心臓の病気、喫煙者、慢性の肺の病気、腎臓病の人、肝臓病の人、リウマチなどで免疫抑制剤を飲んでいる人、ステロイドのような免疫を下げる薬を飲んでいる人などです。そういった人は、ふだんと違う異変を感じたらすぐ受診することを勧めます。

――無症状の人がいることに不安を覚える人が多いかもしれません。

矢野: 症状が出ないのであれば、感染しても自分の抵抗力で対応できるということです。症状が軽く終わってしまう人も含め、そういう人が大半であれば、それほど恐れる必要はありません。一方で、重症化しやすい病気を持つ人たちは「ハイリスク者」として早めの受診をしてくださいという話になっていきます。

今現在では、まだ情報が十分ではない状況で、今後、どのくらいの方が重症化するリスクがあるのか、無症状の方はそのままでも大丈夫なのか、今後の情報で随時、判断していくことになります。

インタビューに答える矢野晴美・国際医療福祉大学教授

プロフィール

矢野晴美(やの・はるみ)
国際医療福祉大学医学部 医学教育統括センター教授・感染症学教授

岡山大学医学部卒業、同大学院博士課程(医学)卒業。日本感染症学会評議員。米国内科専門医、米国感染症専門医、英国熱帯医学専門医、国際旅行学会認定医。

おしらせ

新型コロナウイルスへの備えや終息のシナリオに関するインタビュー完全版は、朝日新聞のweb「論座」で読むことができます。(telling,は抜粋版です)

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※厚生労働省の新型コロナウイルス感染症に関するページ

※日本感染症学会―水際対策から感染蔓延期に移行するときの注意点(2月28日)

※新型コロナウイルス感染症対策の基本方針(2020年2月25日)

医療や暮らしを中心に幅広いテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターやweb編集者を経てノマド中。withnewsにも執筆中。