クイーン愛のミレニアル世代「聴いていると自分のことを歌っていると思わせるんです」

映画『ボヘミアン・ラプソディ』のモデルとなったイギリスのロックバンド「クイーン」の来日コンサートまで1カ月となりました。50代や60代のファンの熱狂が映画のヒットにつながったと思われがちですが、実は公開から2~3週間もすると、20代~30代の“ミレニアル世代の人たちが同じぐらい映画館に足を運ぶように夢中になっていました。仕事を休み、平日夜の名古屋公演に行く予定の20代女性に、なぜ、そこまでクイーンを愛するのか、深掘りして聞いてみました。

名古屋へ遠征「ライブエイドの掛け合いしたい」

 

フレディ・マーキュリーがいない今、アダム・ランバートをボーカルに招いてのコンサートツアーは、2020125日のさいたまアリーナの公演を皮切りに、130日の名古屋ドームでの公演まで4公演が行われる予定です。主催者によると、過去の来日公演と比べて客席数でいえば最大規模になる見通しだそうです。さいたまスーパーアリーナのチケットが取れず、東京から大阪や名古屋のドーム公演に行く人たちも少なくないと言われています。

 

「クイーンの曲は通勤時や自宅で毎日聴いています。リッチな気持ちになったり、リラックスしたりできます」という、埼玉県に住む会社員、梓優美香さん(28)もその一人です。会社を休み、大学生の妹と一緒に名古屋公演に行く予定です。

 

でも、コンサートに行くのは今回が初めて。映画『ボヘミアン・ラプソディ』は、特別な音響システムを駆使した「極音上映」で知られる立川シネマシティ(東京)で3回見たほか、自宅で配信された映画を1回見たそうです。「極音の映画館と自宅では音圧が違う。特に家で見るとライブ感がありませんでした。やっぱりライブがいいと感じました」

 

そしてもう一つ、映画を見て思ったことがありました。「ロックが輝いていた70年代を生きてきた人たちがうらやましい」

 

「生フレディとライブエイドで掛け合いをしたかったです。あんなにファンとの距離が近いなんて。でも、今でもクイーンは活動しているのだから、私たちも“同世代人”と考えていいんじゃないかなって思います」

 

© Koh Hasebe / Shinko Music Archives

2000年代になっても日常生活に流れている曲

 

時が経っても色あせない曲を生み出してきたクイーン。その入り口も、時代とともに変わってきています。梓さんの場合、小学校の運動会の応援音楽としてクイーンの曲がかかっていたそうです。2000年代になると、木村拓哉さんのドラマでも『We Are The Champions』や『We Will Rock You』などが使われ、日清カップヌードルのCMで『I Was Born To Love You』が流れるのをTVで聴いて育ちました。

 

「意識して聴いたというより、流れてきた曲がいい曲だなと思って聴いていました。ペプシコーラのCM2004年)で、ビヨンセやブリトニー・スピアーズが歌っていた『We Will Rock You』は、元々女性が歌っていた曲だと思っていたぐらいです」

 

もう一つの入り口が、大好きな漫画『ジョジョの奇妙な冒険』で洋楽の曲名やアーティスト名がキャラクター名やスタンド名に使われていることを挙げます。「これ何だろう、と調べるうちに洋楽を聴くようになりました」。

 

今回の来日公演でボーカルを務めるアダム・ランバートも、アメリカのアイドル・オーディション番組『アメリカン・アイドル シーズン8』(2009年)で『Bohemian Rhapsody』(ボヘミアン・ラプソディ)を歌ったシーンを見て、「(クイーンとアダムの)2つのかっこよさが一緒になった」と前向きに捉えています。

 

そして大学生時代に受けたジェンダー論の講義の中で知ったフレディのこと。フレディは1991年、AIDS(エイズ、後天性免疫不全症候群)による合併症で命を落としました。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染して発症すると起こる病気ですが、今は治療薬の開発が進み、早期治療をすれば日常生活が送れます。ただ、フレディが生きた時代は、「不治の病」とされ、偏見や差別が社会の中に強くありました。大学の講義をきっかけに、クイーンの奥深さを知ったと言います。

 

「(70年代や80年代のエイズを巡る社会問題の授業の中で)HIV/ AIDSと闘う世界各地の団体を支援するフレディ財団(マーキュリー・フェニックス・トラスト)のアイコンが出てきました。フレディは亡くなってしまったけれど、ブライアンやロジャーたちがフレディの追悼コンサートの収益を原資にチャリティー財団を運営しています。何がそうさせているのだろう?」。そんな気持ちも芽生えてきました。

 

だから、ファンになったのはいつごろからか、と尋ねられるとちょっと困惑するそうです。「はまったのは映画がきっかけかな」

 

© Koh Hasebe / Shinko Music Archives

ユーチューブやアマゾンプライムで聴く世代

 

梓さんはロック全盛時代と言える70年代や80年代の他のバンドとの違いについて、こう感じたそうです。

 

「『俺の歌を聴け』みたいなロックバンドには親しみを持てませんが、クイーンの曲はボーカルがうまいし、ハーモニーがきれい。演奏が控えめでうるさくありません。クイーンは、ノリだけではないんです」。梓さんが大好きな曲は『Another One Bites The Dust』(地獄へ道連れ)。ジョン・ディーコンが作った曲です。

 

クイーンの曲を聴くのは、ミュージックビデオを無料公開しているYouTube(ユーチューブ)の「Queen Official」チャンネルや聴き放題のサブスクリプションAmazon Prime Music(アマゾン・プライム・ミュージック)で。クイーン関連のグッズを買い集めてクイーン専用の宝箱を持つ50代や60代のファンとは少し違う、ライト層です。

 

「それぞれの曲の歌詞を注意して聴いてみると、みんなストーリーがあるんですよね。そのストーリーに自分が入っていきやすいんです。聴いている自分のことを歌っている、と思わせるんです」

 

© Koh Hasebe / Shinko Music Archives

「今回が最後になるかもしれない」というファン心理

 

来日コンサートは125日と26日が「さいたまスーパーアリーナ」、28日が「京セラドーム大阪」、30日が「ナゴヤドーム」で開かれます。これに合わせて115日から27日まで「日本橋高島屋」(東京)で始まる「クイーン展ジャパン」にも、梓さんは行こうと考えています。(「アソビル」(横浜)は130日~322日、大阪高島屋(大阪)は325日~46日)

 

会社を休み、名古屋までコンサートに駆け付け、70年代や80年代の来日時の写真やステージ衣装などを見に行く――。ミレニアル世代の女性がなぜそこまで、クイーンを追いかけるのでしょうか?

 

梓さんは、20184月、スウェーデン出身のDJや音楽プロデューサーとして知られるアヴィーチーが旅先で亡くなったことを挙げました。(BBCニュース・ジャパン「『彼はもうこれ以上は無理だった』アヴィーチー家族が声明発表」2018年4月27日)。「シーク・ブロマンス」や「ウェイク・ミ-・アップ」などの世界的なヒットで、ミレニアル世代から強く支持されていました。

 

「アヴィーチーが亡くなったのがショックで。クイーンも、会えなくなる前に会いにいくべきだと思っています」

 

© Koh Hasebe / Shinko Music Archives

ブライアン・メイが72歳、ロジャー・テイラーが70歳。来日公演があるたびに、「今回が最後になるかもしれない……」と気をもみながら追いかけている、世代を超えたクイーンファンたち。同時代を生きたいというミレニアル世代がここにもいました。

クイーン来日まで1カ月

 

クイーンを巡る話題について、朝日新聞社が運営するウェブメディア「telling,」のほか、「withnews」や「論座」でもそれぞれの視点で記事を順次配信していきます。

withnews

クイーンファンに「にわか」なんてない 新旧の「Q友」が出会った日

クイーンのブライアン・メイ 来日早々、見せた「日本好き」の顔

クイーン展に予約2万人、日本人ボディーガードが語るフレディの素顔

クイーン、来日直前の盛り上がり「フレディ後」世代も熱狂の理由 多様性伝えるブライアン・メイのインスタ

論座 

フレディ・マーキュリーが語る親友メアリーと楽曲

telling,

ミレニアル女子がクイーンにはまるワケ KISSコンサートで感じた「あれっ?」はお願いNGで

クイーン愛のミレニアル世代「聴いていると自分のことを歌っていると思わせるんです」

医療や暮らしを中心に幅広いテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクターやweb編集者を経てノマド中。withnewsにも執筆中。