熱烈鑑賞Netflix

「ボクらを見る目」の長い闘い「警察は俺たちを騙し、ブチ込み、殺す」ドラマで知る「Black Lives Matter」運動【熱烈鑑賞Netflix】

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選。今回取り上げるのは、1989年にニューヨークのセントラル・パークで起きた婦女暴行事件をドラマ化した「ボクらを見る目」。「Black Lives Matter」運動をきっかけに人種差別問題を知りたいと思った人は必見です。

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全米をはじめ、世界に広がりつつある「Black Lives Matter」運動。日本語に訳すと「黒人の命は大切」となる。なぜ人々は、怒り、悲しみ、嘆いているのか。それが今ひとつわからない人は、Netflixで配信されている全4話のリミテッドテレビシリーズ「ボクらを見る目」を観るといいと思う。

1989年4月、ニューヨークのセントラル・パークでジョギングしていた白人女性がレイプされ、頭部に重傷を負った実際の事件をもとにした作品。アメリカでは「セントラル・パーク・ジョガー事件」としてよく知られている。この事件では、14歳から16歳の黒人とヒスパニックの少年たちが冤罪にもかかわらず自白を強要され、全員が有罪になった。「ボクらを見る目」は彼らの長い闘いとその後を描いたドラマだ。

警察は何でもする。遊びじゃない。本気だ

事件が起きた日、セントラル・パークには数十人の黒人の少年たちが集まって騒いでいた。その中で暴力事件が起こり、警官たちに逃げ遅れた数人の少年が拘束される。その中には、ただ友達に誘われて来ただけの少年や、興味本位で見ていただけの少年も含まれていた。

しかし、その日未明、同じセントラル・パークで強姦されて重傷を負った女性が発見されて事態は一変する。性犯罪の摘発に執念を燃やす検事のリンダ・フェアスタイン(フェリシティ・ハフマン)はニューヨーク市警の刑事たちを指揮して、拘束された少年たちを犯人に仕立て上げていく。彼女は言う。「子供でも容赦しない」「子供じゃなく強姦犯」「これは被害者の為」と。

取り調べを受けた少年はケヴィン(アサンティ・ブラック)、アントロン(カリール・ハリス)、ユセフ・サラーム(イーサン・エリセ)、レイモンド・サンタナ(マークィス・ロドリゲス)、コーリー・ワイズ(ジャレル・ジェローム)の5人。一人ひとりを見れば、強姦なんてとても考えられないほど幼く、小柄で、優しく、穏やかだ。

誰も女性を見ていないし、暴力もふるっていない。そもそも彼ら5人は面識がないのだから、お互いに証言なんかできっこない。しかし、フェアスタインと刑事たちは容赦しない。物的証拠も状況証拠もないまま、彼らを脅し、嘘をつき、孤立させ、従わせる。前科があることを暴かれ、刑事に脅されたアントロンの父親(マイケル・ケネス・ウィリアムズ)は息子に警察に従うよう諭す。

「警察は何でもする。遊びじゃない。本気だ。いいか、奴等は全て思い通りにする。何でもだ。俺たちを騙し、ブチ込み、殺す。俺の息子は殺させない」

彼らは長い闘いを強いられることになる。しかし、その結末の後味は非常に苦い。

ユセフと母親。少年たちを支持する運動も広がっていく/Netflixオリジナルシリーズ『ボクらを見る目』独占配信中

「ボクらを見る目」に激怒した人物

監督は「グローリー/明日への行進」(14年)でアフリカ系女性監督として初めてゴールデングローブ賞監督賞とアカデミー賞作品賞にノミネートされたエイヴァ・デュヴァーネイ。「ボクらを見る目」を観たら、同じく彼女が監督したNetflixオリジナルドキュメンタリー「13th -憲法修正第13条-」(16年)を観るのがおすすめ。アメリカで黒人たちがどのような目に遭ってきたか、容赦のない報道写真と映像、研究者たちの証言でわかりやすく教えてくれる。本作は現在、YouTubeのNetflix公式アカウントでも日本語字幕入りで無料配信中。

「ボクらを見る目」は2019年5月31日に配信され、全米を中心に爆発的な反響を巻き起こした。一瞬たりとも目が離せない重厚かつ緻密なドラマ、少年たちの繊細な演技など、作品としても非常に優れている。批評家からも絶賛され、数多くのドラマ賞を受賞した。

しかし、一人だけ激怒した人物がいる。彼らを有罪に追い込んだリンダ・フェアスタインその人だ。彼女はウォール・ストリート・ジャーナルで「「ボクらを見る目」は歪みや虚偽に満ちており、完全に偽造されている」とコメントした。性犯罪事件を専門とし、ニューヨークでは著名な検察官だったフェアスタインだったが、本作で描かれたような冷酷な捜査方法は当時から批判の対象になっていた。02年に退職した後は犯罪小説家として成功する一方、著名人の性犯罪に関するコメンテーターとして活躍。また、映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインのセクハラ・レイプ・脅迫事件に関しては、女性被害者の口封じに一役買っていたと伝えられている。

「ボクらを見る目」を観たニューヨーク州監査役のジュマーニ・ウィリアムスは「(フェアスタイン検事の過去の)担当事件を全て再調査し、彼女の経歴を見直す必要がある」とツイート(WEZZY 2019年6月6日)。その後、フェアスタインはすべてのSNSをクローズした。

大人に成長した「セントラル・パーク・ファイブ」の面々/Netflixオリジナルシリーズ『ボクらを見る目』独占配信中

死刑を要求するドナルド・トランプ

もう一人、「ボクらを見る目」には重要な登場人物がいる。米大統領になる前の不動産王だったドナルド・トランプだ。移動中のユセフと母親にレポーターが声を浴びせる。

「ドナルド・トランプが死刑を要求しています」

何のことか。事件当時、トランプは約1000万円の私財を投じて、ニューヨークの新聞4紙に全面広告を出している。巨大な見出しにはこう書かれていた。「死刑を復活させよ。警察を復権させよ!」。容疑者である少年たちの死刑を求める意見広告だった。テレビで意気揚々と人種差別発言を繰り返すトランプを見て、ユセフの母親は吐き捨てるように言う。

「うちの子を殺すって。あの悪魔。あの悪魔が殺そうとしてる。広告を出すなんて。うちの子を殺すために」

トランプは大統領就任後も「セントラル・パーク・ジョガー事件」で容疑者として逮捕された彼らを糾弾する発言やツイートを繰り返している。今年、「Black Lives Matter」運動のデモが広がる中、トランプ大統領は「略奪が始まれば、銃撃が始まる」とツイートして批判を浴びた。「ボクらを見る目」のイベントに登壇した元・少年たちは次のようにコメントしている。

「ドナルド・トランプ本人が、アメリカの病理を示す端的な一例であることは明らかです。私たちが有罪判決を受けたのは、ひとえに肌の色のせいというほかありません」(エスクワィア 2019年6月22日)

なお、Netflixでは「Black Lives Matter:黒人とアメリカに関連する作品」として50作以上をラインナップした特設ページが開設されている。

「ボクらを見る目」
出演:アサンティ・ブラック、カリール・ハリス、イーサン・エリセ
原作・制作:エヴァ・デュヴァネイ 2019

「13th -憲法修正第13条-」

「Black Lives Matter:黒人とアメリカに関連する作品」特設ページ

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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