121位の私たち

ニュース報道にも男女格差がある。ニューヨーク・タイムズ紙「ジェンダー・イニシアチブ」の試み

世界経済フォーラムが毎年発表する、世界各国の男女格差の度合いを示す「ジェンダーギャップ指数」2019年版で、日本は過去最低の121位になりました。前年の110位より順位を下げ、先進国の中でも最低レベル。どうして、こんな状況なのか。男女格差を縮めるには何が必要で、私たちには何ができるのか。ジェンダー格差改善に取り組む人たちにお話を伺うシリーズ最終回は、アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)で「ジェンダー・ディレクター」として戦略的な役割を担ったフランチェスカ・ドナーさんです。ジェンダー格差改善に向けたNYTの取り組みを聞きました。

NYTが報道に関わる男女格差の問題に取り組む「ジェンダー・イニシアチブ」を始めたのは、2017年10月のことです。米国の大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行やレイプ(※メモ参照)について、NYTの女性記者たちがスクープをした直後だったので、すぐに著名人が起こした一連の性被害を読者に届けるニュースレターの配信に取り組みました。

報道のあり方を批判的に検証したところ、記事で発言を引用された5人がいずれも男性だとか、女性の健康に関する記事に出てくる識者がすべて男性だったといった事例がみつかりました。

記者たちは無自覚にそうしたものだと思っていたんです。記者たちに「こう書け」とは絶対に言えないなかで、この問題をどう伝え、どう変えていったらいいか。編集局のデスク(編集者)たちに「もっと女性の興味をひくにはどうしたらいい? 何ができるだろう?」と投げかけました。

取り組みの一つとして、「見出しを決めるのは女性」がキャッチコピーのニュースレター「In Her Words」を開始。党派を超えて女性が政治を語るフェイスブック(FB)のグループをつくりました。「意見の違う女性とやりとりをしたかった」など、大きな反響があり、女性が女性だけで政治を語れる場が求められていたと分かりました。ジェシカが主導した企画「This is 18」では、ふだんはスポットライトを浴びない18歳の女性たちに、心配や興味、将来の夢を語ってもらい、写真とともに紙面やウェブで報じました。米国内外で写真展も開催し、書籍化もされました。

ふだんは紹介されない女性の話に耳を傾けることで、報道に、新たな物の見方をもたらしたよい事例だと思います。男女平等が実現していない職場での女性の対処法を紹介した「The Working Woan’s Handbook(働く女性の手引き)」にも取り組みました。「自分が職場で唯一の女性だったら」「セクハラをされたら」「燃え尽きないでがんばるには」といった内容を冊子とウェブでまとめました。

ジェンダー格差解消には英国のBBCやフィナンシャル・タイムズ、米国のブルームバーグなども取り組み、メディア界でも広がっています。NYTの社内でも浸透し、いまは、国際や経済のニュースでも、「ジェンダー的な角度が必要」というときは担当のデスクと協力しています。おおげさではなく、ニュースルームのみんながジェンダー・イニシアチブのチームの一員で、私たちと働くことを喜んでくれています。

NYTジェンダー・ディレクターのフランチェスカ・ドナーさん=NYT提供

■フランチェスカ・ドナーさんプロフィール
シンガポールで生まれ、高校まで英国で過ごす。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)、フォーブスなどを経て2017年からNYTのジェンダー・ディレクター。WSJ時代に、「女性のための特別なページはいらない」と女性読者に言われたことが忘れられない。

■ハーヴェイ・ワインスタイン性的暴行事件
2017年10月、米ハリウッドの著名プロデューサーだったハーヴェイ・ワインスタインが数十年間、俳優やスタッフらにセクハラを繰り返していた、とニューヨーク・タイムズが報道した。アンジェリーナ・ジョリーら著名俳優を含む女性らの被害の訴えが相次ぎ、ワインスタインはアカデミー賞を主催する米映画芸術科学アカデミーから除名されたほか、レイプや犯罪的性行為などの疑いでニューヨーク市警に逮捕、訴追された。報道をきっかけに、ツイッターなどで被害を訴える動きが広がり、世界各地でセクハラや性被害を告発する#Me Too運動につながった。

国際女性デー