「“女子力”という言葉がひっかかります」34歳女性首相を生んだフィンランドの大使館員ラウラ・コピロウさんインタビュー

幸福度ランキング3年連続1位のフィンランド。共働き世帯が一般的で、待機児童はゼロ、2019年末には34歳の女性首相が誕生しました。フィンランドの“平等”について、日本滞在歴10年目のラウラ・コピロウさんに話を聞きました。

――在日フィンランド大使館の商務部で働くラウラさんですが、初来日はいつだったのですか。

ラウラ・コピロウさん(以下、ラウラ): 2006年、17歳の時に北海道函館市に1年間学をしました。小さい頃から何でも挑戦したがるタイプで、留学にも興味がありました。

日本についての知識はなかったのですが、面白そうという思いだけで留学先に選びました。来日当初はカルチャーショックが大きかったのですが、日本の人は優しく、ホストファミリーや、ホストスクールの先生方にも恵まれました。

その後、大学時代に早稲田大学に留学し、一旦帰国した後、日本政府の奨学金制度で国費留学生として再び日本へ。北海道大学大学院を修了後、日本企業に就職をしました。それからは日本で暮らしてします。トータルで9年になります。

――日本とフィンランドの文化の違いで、特に印象的だったことはありますか?

ラウラ: 高校留学をしたとき、日本の女性ファッション誌に驚きました。表紙がピンク一色で、スカートばかり掲載され、性別によって“着るべき”服が決まっているように感じました。

大学時代には、日本人男性とデートした際、待ち合わせをして会った瞬間に「スカートじゃないんだ」と言われました。会話をする中でも「女性としてしか見られてないんだな」と感じ、悲しかった。私は「人」として見られたかったんです。

――なるほど……。フィンランドでは男女平等の意識が根付いていると聞きます。日本と比較して気づいたことはありますか。

ラウラ: 日本でよく耳にする「女子力」という言葉が引っかかりますね。女性に対して「こうあるべき」というイメージを植え付けていると感じます。それと同時に、“女性らしくなりたい男性”をも排除してしまっている気がします。

「女子力」という言葉を無意識に、悪気なく使っている人は多いと思いますが、社会は言葉で成り立っているので、どんな言葉を使うかによって女性像と男性像は決まってしまうと思います。

「女性が輝く社会」という言葉も、何で輝かないといけないんだろう?って首をかしげてしまいます。

「フィンランドの会社では、女性がハイヒールをはかなかったり、メイクをしなかったりすることも一般的です」

フィンランドには「ワーママ」も「イクメン」もない

――フィンランドでは、働く現場でつねに平等や公平を感じますか。

ラウラ: フィンランドでは共働きが基本です。法律と制度が整っているので待機児童はいないし、妊娠したから解雇というのもあり得ません。

日本では「ワーキングマザー」や「イクメン」という言葉がありますよね。フィンランドでは普通のことなので、そういった言葉はないです。

権利意識も高いため、「職場の空気を読んで休みをとらない」ということはありません。誰かが休むことによって不便さを感じるかもしれないけど、それはお互い様です。

「この朝食は父親の手作りパン以外はすべて出来合いのもの。食器次第で、手抜き料理もごちそうに変わります」(ラウラさん)撮影:Miho Kakuta

――日本社会によくある「空気を読む」文化が休みのとり方にも表れている、と。

ラウラ:私は以前、日本の大手企業で働いていたのですが、長期で休む際に「申し訳ございません。休みをいただいております。」と自動返信メールを送っていました。謝ることに違和感があったのですが、周りにならってそうしていました。

ある日、そのことを同僚に指摘されたのをきっかけに、休むことはどの国籍の人にもある権利だと思い直し、「休みをエンジョイしていますので、お急ぎの場合はオフィスまでご連絡ください」という定型文に変えたんです。

日本人は周りに気を使い、有休を取らなかったり、義理で飲み会に参加したりすることも多いのではないでしょうか。

その点、フィンランド人は「自分らしさ」を大切にしている人が多いと思います。そうした違いを伝えることで、自分たちが本来持っている「権利」に気付いてもらうことは、私が日本社会に対して貢献できることかな、と思っています。

――昨年12月には、当時、交通・通信大臣を務めていたのサンナ・マリンさんが34歳の若さで首相に就任したニュースが日本で話題になりました。

ラウラ: 同世代の思いを代弁してくれそうですよね。私は「若すぎる」とは思いません。仕事ができる方なら、29歳でもいいと思っています。

でも、フィンランド本国では、「性別」も「年齢」も注目されないため、ニュースにもなりませんでした。他の国でニュースになっていることのほうがニュースでした(笑)。フィンランド人は謙虚なので、海外でフィンランドのことが話題になると興奮してしまいます。

マリン首相には大きな期待がかかっているのですが、先日のフィンランド国営放送の世論調査によると、「コロナの感染拡大の状況下でマリン内閣はよくやっていると答えた人は85%」という結果が出ました。国民から評価されていることがわかります。

フィンランドは、政治家が特別な存在という認識がありません。私も以前、元首相と同じジムに通っていたし、外務大臣と一緒にお酒を飲んだこともあります。大げさですが、私も首相になろうと思って努力をすれば、なれるチャンスはあると思います。

先日SNSで「将来老人ホームに入ったら、『聴く側』になるか『語る側』になるか」という投稿を見たラウラさん。「私は『語る側』になりたいですね」

自分は自分、数字は数字です

――日本では「30歳」を節目の年齢と考える人が多いのですが、ラウラさんは30代になった時に気持ちの変化はありましたか?

ラウラ: 全くないですね!今初めて、そういう考えもあることを知りました。自分は自分で、数字は数字。40歳になっても50歳になっても気にしないですね。

フィンランドの職場では、ファーストネームで呼び合います。仕事に関して、年齢はあまり関係がなく、老若男女、その人の能力を含め、その職に適しているか否かを重要視します。

私は年齢より若く見られるせいか、日本で仕事の打ち合わせにひとりで行った際、「他の人はどこですか」と聞かれることが多いです。

「私ひとりでいいじゃない」と内心少しムッとするのですが(笑)。

――telling,のミレニアル世代の読者は、迷いや「モヤモヤ」を抱えている人が多いのですが、同世代のラウラさんから何かメッセージはありますか

ラウラ: 国を問わず、若い時はまだ自分に自信がない人が多いと思います。不安だと周りと同調しがちになる。でも、自信を持ち始めると、自分なりの個性が出てくると思います。

私も不安な時期がありましたが、そういう時は何ごとも挑戦してみたらいいと思います。失敗はつきものですが、ダメだったら謝ればいいし、それもいつかネタになるはずです。挑戦しない方が後悔するのではないでしょうか。

私は日本に留学をした結果、日本語を話せるようになりました。当時は日本語ができるフィンランド人が少なかったため、帰国後に首都ヘルシンキにあるアパレル企業のマリメッコの旗艦店でアルバイトに採用されました。

マリメッコでの仕事を通じてデザインが好きになり、結果的に、今はフィンランド大使館の商務官として「日本」と「デザイン」という二つの好きなことを仕事にできています。

自分は何が好きか、何ができるか、最初からわかっている人は少ないと思います。日々、様々なことをやってみることで、徐々に好きなことがわかり、いつの日かやりたいことが実現できる日が来ると思います。

●Laura Kopilow(ラウラ・コピロウ)さんのプロフィール
フィンランド生まれ。フィンランド大使館商務部 商務官。ファッション・ライフスタイル担当。高校生の時、AFSで北海道・函館に留学し、大学で早稲田大学に留学。その後、国費留学生として北海道大学大学院に入学し、修了。日本大手企業での就職を経て、2018年から現職。

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同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。
熊本県出身。カメラマン土井武のアシスタントを経て2008年フリーランスに。 カタログ、雑誌、webなど様々な媒体で活動中。二児の母でお酒が大好き。
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