34歳の女性首相誕生にも「驚きはない」。フィンランドと日本の決定的違い
「女性も若者も有能なら選ばれる」が当たり前
12月10日、フィンランドの新首相に就任したサンナ・マリン氏(34)は、同性のパートナーを持つ母親のもと、決して裕福ではない環境で育ったといいます。27歳でタンペレの市議会議長を務めると、2015年には30歳で国会議員に。それからわずか4年で首相となりました。
これだけでも、女性リーダーの誕生をはばむ分厚い「ガラスの天井」があると言われる日本との差にため息が出てしまいますが、フィンランドがすごいのはそれだけではありません。
国会議員200議席のうち約半分にあたる92名が女性(日本では女性議員は約1割)。そして、新内閣19人のうち12人が女性です。マリン氏の出身政党である社会民主党と連立を組む4政党の党首はいずれも女性で、うち3人が35歳以下。まさに、ミレニアル女子が国政をリードしているのです。
日本では驚嘆のまなざしで迎えられたこのニュースですが、フィンランド国内での受け止められ方はどうなのでしょうか。フィンランド大使館広報部の秋山悦子さんはtelling,の取材にこう答えます。
「今回のニュースが世界を驚かせたようですが、フィンランド国内では『若い』ことにも『女性』であることにもたいして驚いていません。なぜかといえば、女性が政界でも活躍することは、もはや目新しくないからです。性別や年齢、家族背景に関わらず、有能であればきちんと選ばれて力を発揮できるシステムになっていることを、フィンランド人は誇りに思っているようです」
フィンランドでは1906年、世界で初めて女性に選挙権と被選挙権を認めた歴史があり、男女格差の大きさを比較した世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」2019年版では3位と、トップクラスにランクイン(日本は153カ国中121位)。第二次世界大戦中や戦後に人手不足に陥ったことも、結果的に女性の社会進出を後押ししたといいます。
そして、マリン氏を初めとしたミレニアル世代の女性リーダーたちが現在活躍しているのには、こんな理由もあると秋山さんは語ります。
「2000年にタルヤ・ハロネンがフィンランド初の女性大統領として就任し、2期計12年にわたって国の頂点にいたことも大きいのではないでしょうか。いま30代の女性政治家は、政治活動を始めたり、政治に関心を持ちはじめるティーンエージャーの頃にハロネン大統領が世界で活躍していました。そうした姿を見ている女性たちにとっては、女性が政界でも活躍するのは当たり前のことだったのではないかと思います」
「専業主婦」はあまりいない
さて、そんなフィンランドでは、政界だけでなく社会全体で女性が活躍しているといいます。人々の働き方も、日本とは相当違うのでしょうか。秋山さんは、こんな違いを挙げました。
「フィンランドは共働きが基本で、約8割といわれています。『専業主婦』があまりおらず、女性は結婚・出産しても働いて当然という意識があります」
とはいえ、男女間の所得格差はフィンランドにも存在するそうです。男性のほうが給料が高い職業を選びがちなこともありますが、育休の取得期間が母親のほうが長く、これがキャリアに影響しているとも言われているそうです。
「男性も女性と同じくらい育休を取得できるよう改革が進行中です。職場でも家庭でも『平等』をもたらすためです」(秋山さん)
すでに男性の育休取得が一般的になっているフィンランドですが、まだまだ改革の手をゆるめないようです。このスピード感、日本人としてうらやましい……。
30代のリーダーが次々生まれる理由
冒頭で紹介したように、30代の若いリーダーが次々と生まれているフィンランド。日本政界で有名な若手リーダーといえばCOP25での言動が注目された小泉進次郎環境相(38)くらいですが、なぜこうも差があるのでしょう。
まず知っておくべきなのは、フィンランド政界で若手が活躍するのは今に始まったことではないということ。1991年には36歳のエスコ・アホ氏(男性)が首相に就任。フィンランド大使館によれば大臣の最年少記録は27歳(1972年の教育大臣と1957年の社会保険大臣)。つまり、政界で30代が活躍するのは当たり前、という土台がかなり前から出来ていたわけです。
現在のフィンランドの国会議員の年齢構成を見ると、1980年代生まれが25.5%、1990年代うまれが3.5%。約3割が30代までで占められていることになります。優秀な若者が政界に進出しやすい状況をつくり出してきたからこそ、「史上最年少の女性首相」の誕生が実現しているわけです。前出の、フィンランド大使館広報部の秋山さんはこう解説します。
「フィンランドでは10代から青年組織を通して政治に関わっていきます。サンナ・マリン氏も20歳頃から積極的に政治活動に関わり、政治家としてのキャリアは長いですし、社会民主党のリンネ党首がしばらく休んでいたときに党首の代わりを務めて評判も広まっていました。今回のリンネ氏の首相辞任騒動を受けて誰が一番ふさわしいかといえば、評判も実力もある『サンナ・マリン氏が一番妥当』ということになったのだと思います。
また、フィンランド政府内には男性もたくさんいる(国会議員200議席中108人は男性)ことにも目を向けていただきたいです。サンナ・マリン氏が首相に適任だと思った『男性の』政治家もたくさんいたということです」
フィンランドは一日にして成らず。日本がこのレベルの男女平等を実現するには、まだまだ学ぶべきことがたくさんあるようです。それでも、世界ではもう「34歳の女性首相」が誕生しているという事実は、ミレニアル女子たちに勇気を与えてくれるに違いありません。
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