フィンランドの「サウナデー」で見た成熟社会のオープンマインド (前編)

世界一幸福な国・フィンランドの「サウナデー」で学んだこと

今年3月に発表された「世界で最も幸せな国ランキング」(The Happiness Research Institute)で1位になったことでも注目されるフィンランド共和国(以下フィンランド)。サウナ発祥の地としても知られる北欧諸国の先進国家だ。サウナは古来フィンランド人の健康を助けてきた重要な存在だが、精神面への影響も絶大だという。今回、「サウナデー」という特別な日を通して、成熟社会のオープンマインドを見ることができた。

●フィンランドの「サウナデー」で見た成熟社会のオープンマインド (前編)

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ヘルシンキのおしゃれサウナブームを牽引する「サウナデー」

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 今年3月、旅行記事の取材のためにフィンランドを訪れていた私は、首都・ヘルシンキで行われている「ヘルシンキ・サウナデー」にちょうど出くわすことができた。「サウナデー」とは5年前から年に1度行われているイベントで、普段は入ることができない一般家庭や企業所有のサウナ、宿泊客しか利用できないホテルのサウナなどが特別に開放される。事前に予約が必要な場所も多いが、当日飛び込み参加ができる会場もあったので助かった。
 「最近は、サウナデーに登録していない場所も加わっているみたいだから、正確な数は分からないんだけど(笑)」
 と、もはや主催者のヤッコさんも全貌を把握していないようだが、おおよそ50カ所以上のサウナが参加する1日限りの「サウナデー」は、年々盛り上がりを見せているそうだ。このイベントが始まってから、若者の間でサウナ人気がじわじわと復活し、ヘルシンキにおしゃれなサウナが増えたのもまた事実。

 

写真:河辺さや香

写真:河辺さや香

  まさに「サウナデー」当日にヘルシンキに到着した私は、夕方、国立博物館の裏手にある広場へと急いだ。イベントは18時までだという。そこには屋外に移動式のサウナ3カ所と、湯を張った簡易プールが設置されていた。まだ雪が積もる3月の上旬は、ダウンジャケットを着ていても震えるほどだったが、体から湯気を発して小屋から出てくる人々は皆、楽しそうに水着でウロウロしていた。プールの中では、陽気な男女が飲みながら歌っていた。驚いたことに、半分以上の男性は水着すら着ていなかった。

フィンランド人とサウナの深い関係

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 フィンランドの人口は540万人ほどだが、サウナはなんと200~300万カ所もあるという。先にも書いたとおり、サウナ付きの会社は決して珍しいことではなく、それどころか空港のラウンジやクルーズ船の中、国会議事堂にまであるそうだ。サウナの中で重要な会議が行われたという歴史もある。

 フィンランド人は一度知り合ってしまえばとてもフレンドリーだが、他の欧米諸国ほど外向的な性格ではないように思う。
 きちんと教育を受けた人々は秩序と礼儀があり、マナーに忠実でとても上品、そしてちょっとシャイ。知らない人と話すことは滅多にない。普段は割とおとなしく、静寂を善と捉える国民性だ。でもお酒を飲み始めると、人が変わったように羽目をはずすこともあると聞き、そんな部分は日本人と似ていると思った。そして、例外はサウナの中にこそ存在するという。

サウナに入れば自然と会話がはじまる

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 フィンランドには、プライベートサウナの他に、昔からある銭湯のような公共サウナや、はやりのおしゃれサウナ、アパートや会社に設置されている共有サウナ、湖のほとりに建つコテージのサウナなど、いろいろな種類がある。大人数が集まる男女混合の公共サウナは水着を着用するところがほとんどだが、プライベートオーナーが営む小規模サウナなどは、男女混合でも裸の付き合いだ。

 以前ヘルシンキで宿泊したとあるホテルのサウナは、男女別だったこともあり、誰も水着を着用していなかった。公共の場で裸になることにさして抵抗はないが、さすがに湯船のない場所で、どこを見ていれば失礼に当たらないのかがイマイチわからなかった。でも、そんな心配は無用といった様子で、なにもまとっていないフィンランドのご婦人が、にこやかに話しかけてきた。

 地方からヘルシンキへ来たというご婦人は、毎回ヘルシンキではそのホテルに宿泊していると話してくれた。もちろん、サウナがあるというのも大きな理由だ。
 熱気の中での会話なんてほんの数分だったが、私にとってそれはとても印象的な出来事だった。これまで三度ヘルシンキの街を訪れたことがあるが、知らない方とプライベートな会話をしたのは、後にも先にもそれだけだったからだ。

(後編は来週21日公開予定です)

フリーランス・ライター、エディター、インタビュアー。出版社勤務後、北京・上海・シンガポールでの生活を経て東京をベースにフリーランサーとして活動中。