異常事態発生！ 太陽から逃げて夜の闇をさまよう旅客機の密室劇「イントゥ・ザ・ナイト」を観始めたら止まらない【熱烈鑑賞Netflix】

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空港。たくさんの人が倒れているニュース映像がちらっと映る。
「時間切れだ」
男が、警備員の銃を奪う。走る。悲鳴。まだ十数人しか乗っていない飛行機をジャックする。
「開けろ。皆を助けにきたんだ」
叫ぶ。操縦室に乗り込み、「すぐ離陸しろ」と脅す。
そして言うのだ。
「よく聞け。ここを出ないと太陽に殺される」

The sunrise will kill us all!

はじまって７分。
何が起こってるのかわからない緊迫感に引きずり込まれる。

「太陽に殺される」というのは、文学的な比喩ではない。本当に「太陽に殺される世界」を描いたサスペンスドラマが「イントゥ・ザ・ナイト」だ。
原作は、ポーランドのヤチェク・ドゥカイの『The Old Axolotl』。作者自身も製作総指揮に名を連ねている。Netflix初のベルギー作品。
製作・脚本はジェイソン・ジョージ。インティ・キャルファット、ディルク・フェルヘイエが監督。

太陽光を浴びると死んでしまうという異常事態の発生した黙示録的世界だ。旅客機に乗り込んだ十数人は、太陽から逃げるために西へ西へと進む。
「どこへ？」「夜の闇へ」

In to The Night

逃亡劇はたくさんあれど、追いかけてくるヤツが太陽とは！
ハイジャックした男は、イタリア軍少佐テレンツィオ。乗り合わせたメンバー（副操縦士1名、客室乗務員1名、乗客12名）も超個性派、けっこうヤバいやつ多め。飛行機が飛んでいるあいだは、出口なしの密室状態。
これは、いまわれわれが置かれているステイホームの状況に似ている。親しく信頼のおける家族といっしょに閉じこもっていても大変なのに、空を飛ぶ飛行機のなか、絶望的な極限状態で居合わせるのは味方か敵かもわからないクセ者ばかり。

クセ者のなかで、感情移入できるキャラクターはシルヴィ（ポーリーヌ・エチエンヌ）だろう。
シルヴィは、元ベルギー空軍の兵士。冷静でタフな女性だ。が、病死した恋人を追って自殺しようと考えていて自暴自棄になってる面もある。日本版を作るときは「いいね！光源氏くん」等で説得力のある演技をみせた伊藤沙莉でお願いしたい。
副操縦士はマチュー（ロラン・カペリュート）。ハイジャックされたせいで手を撃ち抜かれて、痛む手でどう操縦すればいいのさ、という状態に。

他にも、ツンとしたインフルエンサーや、様子の怪しいアラブ人や、難病で手術を受けるためにロシアへ向かう子供、その母親、ITエンジニア、ネットのみで交流を深めた恋人に会いに行く男など、それぞれの人物の背景がじょじょに明かされていく。

なにしろ相手は「太陽」だ。これほど非情で凶悪で絶対的な追跡者もいないだろう。疲れることもなく、倒すこともできず、情に訴えることもできない。
ただただ追いかけてくる。人間にできることは、「ただただ逃げるだけ」という完全非情の逃亡劇だ。

さらには飛行機の燃料が尽きるというリミットも加わり、スリルは増しに増す。どの飛行場に着陸し、数時間のうちに必要な物資と情報を集め、さらに燃料を給油して、再び太陽から逃げるために飛び立つ。

「飛行機パニックモノあるある」の窓ガラスにヒビがはいる状況にもなり、低空飛行せざるを得なくなる。だが低空飛行すれば次の予定地まで燃料が足りない。生鮮食品も、太陽からの異常ガンマ線で破壊され食べられるのは缶詰だけだと判明。
登場人物がピンチに陥る展開が次から次へと降り注いでノンストップで暴走する。海外のレビューで「one sitting」と書かれていて、「これは一回座って観始めると一気に観てしまう」という意味。
1話40分弱でシーズン１は全6話というちょうどいい長さもあって、まさに絶妙なone sittingの黙示録サスペンスだ。
正直言ってシーズン１でビシッと綺麗に終わってくれたほうがよかった気すらするソリッドでスマートな展開なんだが、なんと、シーズン2へ続く！
ええええー！　どうすんのよ、この先、これ以上おもしろく展開できるの？　だいじょうぶなの？　って心配になっちゃうんだけど、いやいや、この製作陣ならやってくれるはず。シーズン2、はやく観たいっ！

「イントゥ・ザ・ナイト」
出演:ポーリーヌ・エチエンヌ、ロラン・カペリュート、ステファノ・カセッティ
原作・制作:ジェイソン・ジョージ
https://www.netflix.com/jp/title/81008221