熱烈鑑賞Netflix

「テラスハウス+ゾンビ」のブラジル版「リアリティZ」が皮肉たっぷり悪趣味炸裂の傑作だ【熱烈鑑賞Netflix】

世界最大の動画配信サービス、Netflix。いつでもどこでも好きなときに好きなだけ見られる、毎日の生活に欠かせないサービスになりつつあります。そこで、自他共に認めるNetflix大好きライターが膨大な作品のなかから今すぐみるべき、ドラマ、映画、リアリティショーを厳選します。今回取り上げるのは、ブラジルが舞台のゾンビドラマ「リアリティZ」。リアリティ番組「オリンポス」収録中にゾンビが乱入し、地獄絵図に。生き残るためにウソをつき、裏切る……。これぞリアリティショー?!

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ギリシャ神話のコスプレをした男女が共同生活

「リアリティショーの製作陣や、それに群がる野次馬たちは、食い合って滅びるがよい!」という叫びが聞こえてくる。ブラジル版ゾンビ黙示録「リアリティZ」がとんでもないしろものだったので紹介する。
最大のポイントは、ゾンビに襲われた人間たちが籠城する場所がリアリティショーのセットだということだ。
「ブラジルの人間たちよ 今夜、神殿に血が降り注ぐわ!」
ドラマのなかに登場する(架空の)リアリティショーは「オリンポス」というタイトル。テレビも携帯もない外界から隔絶された宮殿のセットで、ギリシャ神話のコスプレをした男女が共同生活をおくっている。

実は、ブラジルではリアリティ番組が人気。特に2002年にはじまった「ビッグブラザーブラジル」は、今も続く超人気番組だ。十数人の男女を、外部から隔離された一軒家に共同生活させ、そのようすを24時間モニターする。しかも、ネット上で毎日のぞき見できて、視聴者投票を含むゲームで脱落者が決まっていく。
「リアリティZ」で描かれる「オリンポス」は、この実在するリアリティショー「ビッグブラザーブラジル」を強烈に意識している。ギリシャ神話のモチーフ以外、仕組みはまんま同じ。
なにしろ、「オリンポス」の進行役を演じるのはサブリナ・サトウ。「ビッグブラザーブラジル」の第3シーズンのメンバーなのだ。

ブラジルのリアリティ番組で人気者になったサブリナ・サトウがゲスト出演/Netflixオリジナルシリーズ『リアリティZ』独占配信中

実際の生き死にを賭けたゾンビショー

男女の下世話な生活と愛憎を見世物にするリアリティショーが、ゾンビ襲来によって実際の生き死にを賭けたアクション満載の悪趣味ゾンビショーに一転する。
脱落すればテレビ画面から退場するだけだったのが、いまや脱落すれば人間を喰らう死人になってしまう。リアリティ番組のセットに籠城した製作陣と出演者は、まあ、えげつない醜い争いを繰り広げる。
設定ありき演出ありきのリアリティショーではなく、マジでリアルなリアリティショーと化した状況をフィクションのドラマとして観せられる。なにこのメタ設定。
この悪趣味な設定で勝ちだろう。
ちなみに「リアリティZ」は、イギリスのドラマ「Dead Set」のリメイク拡張版である。「Dead Set」は、「ブラックミラー」のチャーリー・ブルッカーが手掛けたミニシリーズで、「Dead Set」内のリアリティ番組のタイトルはストレートに「ビッグブラザー」だ。

死んだ仲間の内臓をエサにゾンビをおびき寄せようと画策するヤツ/Netflixオリジナルシリーズ『リアリティZ』独占配信中

「リアリティZ」の最悪のヒールは、天からの声で指令を出すゼウス役のプロデューサー。嫌なヤツなんである。
ゾンビ襲来の危機的状況になっても、自分以上に目立って場を支配しそうなヤツがいたら足をひっぱる。車椅子の人を盾にしてゾンビから逃げる。邪魔なヤツは殺させる。死んだ仲間の内臓をエサにゾンビをおびき寄せる。まあ、やることなすことむちゃくちゃなのだ。
自分が生き残ることしか考えないレヴィ議員。現実逃避でドラッグをやりつづける軍人。仲間割れ、裏切り、排除、犠牲、喧嘩、見殺し、殺し合い。
いわゆる「本当に怖いのは人間だった」を見せつける。
悪趣味で、グロテスクで、残酷であればあるほど、「ほら、おまえたちが喜んで見ていたリアリティショーはこういうことなんだぞ」と、観る側に叩きつけることになる構造だ。

ゾンビドラマなのでグロいシーンもある/Netflixオリジナルシリーズ『リアリティZ』独占配信中

全員死んじゃうぞって勢い

音楽も良いんだ。恐怖を掻き立てる音楽だけじゃなく、冒頭タイトルが出るときに流れる曲が、毎話変わるんだけど、これが、かわいい曲、さわやかな曲、アンニュイな曲の傑作選。サウンドトラック出たらマストバイのセレクションだ。Pink Floydの「Fat Old Sun」、The Velvet Undergroundの「After Hours」、Musenの「Blackout」等、美しい名曲で、グロテスクな状況を逆に際立たせる。

1話ほぼ30分。全10話。シーズン1で物語はちゃんと閉じる。テンポ良し。出る人出る人ゾンビになるゾンビになる。主人公クリスティー(ジュリア・イアニナ)、元製作陣のニーナ(アナ・ハートマン)など感情移入できるキャラクターもいるのだが、この人は生き残るでしょと思っていても、あっさり死人になったりするので要注意。わー、全員死んじゃうぞって勢いで潔く進む。ゾンビドラマの3シーズン分が1シーズンに詰まってるテンポだ。
ヒマな週末に観るのがピッタリである。

「リアリティZ」
原作・製作:クラウジオ・トーヒス
出演:アナ・ハートマン、サブリナ・サトウ、ルエレム・ジ・カストロ、ギリェルメ・ヴェベル、エミリオ・ジ・メロ、ハヴェル・アンドラージ、ジョアン・ペドロ・ザッパ、ジュリア・イアニナ

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
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