【国際女性デー】日本人女性の睡眠時間は短すぎる!その原因と対処法とは?

3月8日は国際女性デーです。健康に生きていくために大切な睡眠ですが、「日本人の睡眠時間は国際的に見ても短く、さらに日本人女性の睡眠時間は男性と比較して短い」という調査結果もあります。日本睡眠学会認定睡眠専門医で、昨年「眠りと咳のクリニック虎ノ門」を開院した柳原万里子さんに、睡眠から見えるジェンダーギャップなどについてお話を伺いました。
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日本人の睡眠時間は50年で1時間短縮

――OECD(経済協力開発機構)が発表した2021年の調査データによると、日本人の平均睡眠時間はOECD加盟国の中でも最下位の7時間22分。世界においては男性より女性の睡眠時間のほうが長い傾向にありますが、日本の場合は男性より女性の睡眠時間が短い結果となっています。

柳原万里子さん(以下、柳原): 日本人の睡眠時間は、先祖代々短かったわけではありません。NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」によると1960年の日本人の平均睡眠時間は8.22時間で、世界各国の平均的な睡眠時間との差はほとんどありません。しかし、2010年には日本人の平均睡眠時間は7.14時間となっており、50年間で約1時間短縮しています。このことから我々日本人が「短い睡眠時間でも機嫌よく元気に過ごせる」特有の遺伝子を持っているわけではないとわかります。近代化に伴う社会や環境の変化を背景に活動できる時間が増えたことに加え、「寝食を削って頑張るのが美徳」とされてきた国民性も、睡眠時間の短縮に影響しているのではないでしょうか。

2020年の「国民生活時間調査」によると、日本人男性の平均睡眠時間(平日)は7時間20分、女性は7時間6分と、女性の睡眠時間が14分短い結果となっています。女性の中でも特に睡眠時間が短い年代が40代(6時間53分)と50代(6時間36分)。社会や家庭で責任のある立場を任されることが増え、つい自分のことを後回しにしてしまいがちな年代です。

OECD加盟国の平均睡眠時間(縦軸は分)。OECD (Gender Data Portal 2021)よりブレインスリープ作成

リベンジ夜更かしとは…

――男性に比べて女性の睡眠時間が少ないのは、「家事や育児、介護などを女性が担いがち」ということでしょうか。

柳原: 一概には言えませんが、忙しく毎日を送る中で、自分の休息や睡眠を後回しにしてしまう女性が、現代には多いのかもしれません。例えば、子どものお弁当づくりで早起きをしたり、仕事で残業や早出をしたり、介護のために夜中に対応したり――。日中、なかなか思い通りに時間をつくれない分、夜になって「やっと自分の時間がとれた」「寝るのはもったいない」と、息抜きのために自分の時間をとる「リベンジ夜更かし」と呼ばれるタイプの夜更かしをしてしまうケースもあるかもしれません。

しかし、起きている時間が長くなればなるほど、睡眠時間は減ってしまいます。実は睡眠不足に対しては、女性の方が悪影響を受けやすいと考えられています。自分のことを後回しにしたいくらい、大切なことや熱中できることがある人生は素晴らしい。ですが、忙しい年代の女性こそ「寝る時間がもったいない」と考えるのではなく、ご自身の睡眠の必要性に目を向けるべきなのかもしれません。

OECD加盟国における男女の平均睡眠時間の差の比較。縦軸は女性の睡眠時間―男性の睡眠時間(分)。日本は男性より女性の睡眠時間が平均で13.4分短い。OECD (Gender Data Portal 2021)よりブレインスリープ作成

「人間から動物に還る」

――睡眠はホルモンとの関係も大きいと聞きます。ライフステージで考えると、女性には妊娠や出産、閉経など女性ホルモン量が大きく変わるタイミングがいくつもあります。

柳原: 思春期までは睡眠時間の男女差はありません。思春期以降は男女差があり、本来は女性の方が20分程度長い睡眠時間が必要と考えられています。さらに、同じ睡眠時間をとっていた場合の睡眠に対する満足度を調査すると、成人男性より成人女性の満足度が低い傾向もあります。
思春期以降に睡眠時間の性差が出てくることを考えると、女性特有の身体の変化と女性特有のライフスタイルの変化が、睡眠へ影響している可能性が考えられます。

まず、月経に伴う性ホルモンのひと月の中の変化。毎月の月経に関連して寝苦しくなったり、やたらと日中に眠かったりする。さらに月経痛、不安感やイライラなどを生じることがあり、体調や睡眠が変化します。身体と一緒に心も変動するので、メンタルが不安定なときは、眠りが浅くなることもあるでしょう。
ライフステージに伴う変化として、妊娠出産は性ホルモンや身体が大きく変化するため、睡眠やメンタルの状態に影響します。出産後も、新生児期の昼夜を問わない授乳などの生活や睡眠、対人環境の変化があり、それに伴うメンタルへの影響が続きます。そして、子どもの成長や家族の生活、仕事や介護に合わせた生活習慣や睡眠習慣の変化を経て、更年期や閉経に伴う性ホルモンの変化を迎えます。加齢に伴う身体や睡眠の質の生理的な変化もあります。

――なかなか睡眠時間を増やせない状況にある女性もいます。それでも睡眠の満足度を上げるために、できることはあるでしょうか。

柳原: 睡眠の「質」と「リズム」を改善すること。①昼夜のメリハリをつけて規則正しく眠ること。 ②眠る前にはリラックスを心がけること。 ③頭だけではなく身体も疲れさせること。“疲れを溜めた”状態でベッドに入ることができ、質の良い睡眠につながったり、睡眠に対する満足度が上がったりしやすいです。
具体的には、日中に頭も体もアクティブに活動する▽毎日できるだけ決まった時刻に寝起きする▽就寝前にはPCやスマートフォンなど眩しい光を発する電子機器の使用を避ける▽悩み事はベッドに持ち込まない(悩んで寝付けない時には、ベッドから出て気分転換をする)▽夕方以降の仮眠や寝落ちはしない、といったことが挙げられます。

一言で表現するなら、「人間から動物に還る」方向に生活を調整すると、よい睡眠をとるために役立ちます。本来ヒトは昼行性の動物です。原始的な環境では、暗くなると活動ができないため、安心できる場所に身を潜めて朝が来るまで眠る。そして朝が来て明るくなると、食事をして狩りに出る、というふうに活発に活動を始めます。現代の日本では、夜も明るく通信手段も発達し、深夜になってもいくらでも活動できます。しかし、その一方で昼行性動物としての習性に反した生活の弊害として現代人はうまく眠れなくなってきています。

睡眠の「質」と「リズム」を整えても、基本となる睡眠時間が短すぎると、うまくいきません。このため、計画的に睡眠を優先する日を作って、睡眠時間を確保できるように工夫するのはいかがでしょうか。例えば週の真ん中の水曜日と週末1日は長く寝るために極力用事を入れずに、早くベッドに入るといった具合。数ヶ月前から計画して、試してみてはいかがでしょう。

ほかにも、便利家電を取り入れたり、家事代行や、ベビーシッター、介護サービスなどをうまく使ったりして、ご自身の睡眠時間を捻出する工夫を検討するのも一案。こうしたサービスを気軽に受けられるように、社会的な補助や周囲の理解も欲しいところです。

――「代行サービスなどにお金を投じて、自分の睡眠時間を優先しよう」とまでは思えない人もいるかもしれませんが、お金をかけて守るだけの価値が、睡眠にはあるということでしょうか。

柳原: 睡眠は幸せに生きていく上で欠かせない時間です。睡眠には①「体を健康に保つ」②「脳の働きを整える」③「心を健康に保つ」の3つの大切な役割があります。様々なライフステージの変化を上手に乗り越えて幸せに生きるためには、体調不良の少ない元気な体と、適切な判断ができる頭の回転、ご機嫌に過ごすための安定した情緒が欠かせません。
睡眠不足が続くと免疫力が下がって風邪もひきやすくなるし、疲れも溜まり活発に活動できなくなり、機嫌も悪くなる。長期的に見ると肥満や高血圧、糖尿病などの生活習慣病やうつ病、ひいては心筋梗塞、脳梗塞、認知症といった病気にもつながりかねません。

さらに睡眠不足は、日中の判断力や思考力の低下とも関連します。睡眠時間が足りないと、日中の仕事の効率が落ち、残業が増えて、また睡眠時間が削られていく……といった悪循環に陥ることもあります。必要な睡眠を確保することで、頭の回転をよくして、心を上向きに保っておくほうが、日々の生活も周囲の人との関係もうまく乗り切れるはず。「寝ている時間はもったいない」のではなく「健康に、そして幸せに生きていくために必要なお手入れの時間」と考えていただけたらと思います。

適切な睡眠時間を確保していても…

――「ちゃんと寝ているはずなのに、日中眠い」というケースもあります。

柳原: 適切な睡眠時間(成人の場合、目安は7〜9時間)を確保していても、睡眠中の問題があり、質の良い睡眠が実は取れていないこともあります。
睡眠中の問題には、寝苦しい室温や湿度、騒音や眩しさなど寝室環境に原因が場合もあります。不眠障害の場合は臥床時間が足りていても、入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒などで睡眠の質に問題があり、実際に眠っている時間が足りていないケースもあります。眠っている間に、呼吸が止まる、足が跳ねるといった身体の問題が隠れている場合も。

反対に睡眠の質に問題がなく、十分な睡眠時間を確保しているのに、日中に耐え難い強い眠気を生じる睡眠障害もあります。私の患者さまで、強い眠気に困って受診され、検査の結果、ナルコレプシーの診断となり治療を継続されている方がいます。この方は治療により強い眠気が改善した際、「子どものころから、これくらい眠いのは普通だと思っていた。怠けていると言われて悔しかったし辛かった。これまで我慢していたのは、何だったのだろうと思う」と話しておられました。
眠っている間のことは自分ではよくわかりません。慣れてしまった日中の不調にもご自身では気づきにくい場合があります。必要に応じて健康保険で検査を受けることもできますので、気になる方はぜひ睡眠外来や睡眠医療機関に相談してほしいです。

――コロナ禍以降、在宅勤務が普及し、なかなかオンオフの切り替えができずに悩む人も増えています。

柳原: 眠るためにはリラックスが必要。そのためには、自律神経のバランスが覚醒や興奮を促す「交感神経系」優位から、睡眠やリラックスを促す「副交感神経系」優位に切り替わる必要があります。仕事が終わり、いざ眠ろうとしているときにこれからしなければいけないことを考えたり、心配したりしていると、いつまでも交感神経優位のまま。これでは、なかなか眠ることができません。そういうときに例えば私は、しなければならないことを忘れないように一度書き出し、「今日はもうこのことは考えない」「明日しよう」と決めてベッドの外へ考え事を置いてくるようにしています。このように、意識的にオフにするきっかけをつくってみてはどうでしょう。

ほかにも眠る直前に心拍数が上がるような、交感神経系を刺激する活動(激しい運動や熱い温度での入浴)は避けたほうがいい。睡眠を促す副交感神経系を優位にするためにおすすめなのは、心地の良い範囲でストレッチをしたり、38℃から40℃くらいのぬるめのお湯にゆっくり入ったり。心地よい音楽やアロマを楽しむこともおすすめです。

眠りたい時刻の30分~1時間前くらいからは部屋の照明の明るさを落とすことも睡眠前のルーティンとしておすすめです。太陽が沈んで夜がくるまでの“夕焼け”の時間をつくるようなイメージで、字が読めない程度の明るさまで照明を落とし、リラックスを楽しみながら眠る準備をしてみてください。

自分の睡眠や体調の問題を後回しにしているかも

――睡眠を改善するためにパートナーや周りの人ができることはあるでしょうか?

柳原: 眠っている間のことは自分ではわかりませんし、慣れてしまえば日中の不調も年齢や疲れのせいにして、ご自身のことには目をつむってしまいがち。周囲から見て一見問題なく家庭や仕事が回っているように見えても、大切なご家族やパートナーが、自分の睡眠や体調の問題を後回しにしているかもしれません。

男性では、家族や職場の上司などから指摘を受けたことをきっかけに、睡眠外来を受診するケースが比較的多く見受けられますが、女性では少ない印象です。周りから見て疲れていたり、余裕がなく見えたりしている時には、「無理をしていないか?」「体や睡眠に不調はないか?」と、お互いに気に掛け合うことが助けになるかもしれません。ご本人や周りの人も幸せに過ごすためにはお互いの心身の健康は大切です。パートナーや仕事仲間が元気に、機嫌よく生活してくれることが、その人自身の幸せにもつながるはずですから。

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●柳原万里子(やなぎはら・まりこ)さんのプロフィール

医学博士。日本睡眠学会認定睡眠専門医。日本呼吸器学会認定呼吸器専門医・指導医。東京医科大学睡眠学寄附講座客員講師。公益財団法人神経研究所睡眠研究室客員研究員。約20年間医師として臨床診療と診療研究、睡眠に関する啓蒙活動に従事した後、2022年11月15日に「眠りと咳のクリニック虎ノ門 」を開院した。

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