【telling,座談会】「“私たちの40歳”を探して」〈前編〉独身・既婚、子あり・なし。女性の分断と孤独を考える

人生の節目として意識してしまう“40歳”という年齢。結婚、出産、仕事……、迫られる選択に悩みや思いを綴った連載「“私の40歳”を探して」に多くの反響をいただきました。筆者の秦レンナ・ライターと読者のみなさんがそんな気持ちをありのまま持ち寄り、共有することでヒントを探ろうと、telling,編集部は7月末、読者座談会「“私たちの40歳”を探して」を開催しました。集まったのは、独身、子あり、会社員、フリーランス……さまざまな立場の女性5人。前半では、独身女性の孤独や、子どもを持つ・持たないの悩み、そして大人の恋愛について語り合いました。(コーディネーター:柏木友紀telling,編集長)
“私の40歳”を探して〈vol.5〉 子なし女性の息苦しさはどこから? 対談「産まない」について考える 【telling,座談会】「“私たちの40歳”を探して」〈後編〉キャリアも人生も「まだまだ頑張れる」。迷いを力に変えて

【座談会参加者】(仮名)

清水真子さん(37)独身 東京都 会社員  
30歳で転職を思い立ち上京。以前は結婚・子どもへのプレッシャーから、婚活に焦りを感じていたが、東京で多様な女性たちと出会い、考え方に変化も。最近は推し活が楽しみ。

佐藤あかりさん(40)パートナーと同居 子どもなし 東京都 学生 
39歳で一念発起、仕事をやめて大学生に。結婚や子どもを持つ決断をできぬままこの歳に。バリキャリでもなく、既婚でもないことから、周囲からは「気楽」と思われがちだが……。

堤はるかさん(39)独身 千葉県 専門職 
普通に結婚し、子どもが欲しいと思いながら20年。同僚の多くは既婚者で、心から話せる人がいない。両親への申し訳ない気持ちや、今後一人で生きて行くのかもとの不安を抱える。

瀬戸内千明さん(38)独身 東京都 会社員 
新卒で入社した会社で、やりがいを持って働いてきた。仕事がひと段落した30代後半になって結婚願望を持つように。アプリで出会いを求めるがなかなかうまくいかない。

富沢絵里子さん(38)既婚 子ども2人 埼玉県 専門職 
「子どもが出来にくい体質」からキャリアよりまずは結婚・出産を優先。バリキャリの同期の友人と比較してモヤモヤすることも。夫は脱サラして自営業に。

独身、子どもなし。「申し訳ない」思いと疎外感と

柏木友紀telling,編集長: 本日は応募者の中から、5人の読者の皆様においでいただきました。まずは、連載「私の40歳を探して」のvol.1でも取り上げた、独身30代女性の抱える孤独や疎外感について考えていきたいと思います。秦さんがこの連載を始めたのは、周囲の近しい友人が出産したのがきっかけだったのですよね。

秦レンナ・ライター: 同じ道の上で一緒に走っていると思っていた、仕事仲間に子どもができ始めると、一人、またひとり……と同志がいなくなっていってしまうような気持ちになって。ふと見渡せば周りはみんな家族がいるという状況に、時折ものすごく孤独になることがあるんです。皆さんはそんな気持ちになることはないのか、あるとしたら、どう折り合いをつけているのか気になります。

堤はるかさん(以下、堤): 私の職場は女性が多く、同僚のほとんどは既婚・子持ちのため、なかなか会話に入ることができなくて、どうしても疎外感を覚えがちです。仲が悪いわけではないし、一人ひとりと話すことはできるのですが、全体となってしまうとやっぱり気を遣ってしまうというか、壁を感じてしまうんですよね。

佐藤あかりさん(以下、佐藤): 私も、ちょうど30歳あたりがそうした孤独感や疎外感を抱いたピークでした。あるとき、高校の部活仲間と十数年ぶりに集まったのですが、なんと私を除いた全員が結婚し、子どもを産み、家を建てていたことに衝撃を受けました。それを機会に、たびたび集まりが催されるようになったのですが、毎回、話題といえば子ども、夫の愚痴、家のローン……。もう耐えられない!と思ってしまい、ひどいとは思いつつも、私は全員と連絡を断つことにしました。

秦: 自分の心を守るためにも、距離を置くというのは大事なことだと思います。私も互いの立場が変わったことで疎遠になってしまった友人がいて、最初は悩んでいたのですが、今は、「時間が経てばまた会えるよね」という気持ちで考えすぎないようにしています。ただ職場の人間関係となると、距離を置けないこともありますよね……。

堤: そうですね。私も職場の飲み会は毎回不参加にしています。それで何か言われることもありますが、どうしてもつらくなってしまうので……。すみません、涙が。日頃こんなふうに思っていることをなかなか話す場所が全然なくて……。

子どもを産むのは誰のため? 根深い親の呪縛

柏木: いえいえ。独身で子どもがいない、40歳目前という自分の立場を「つらい」「申し訳ない」と思ってしまう……。そういう社会の状況は息苦しいですよね。こうした気持ちの背景を少し深掘りして考えてみたいです。

堤: 私の親もきっと「早く結婚して子どもを産んでほしい」と思っていると思うんですよね。直接は言ってこないんですけど、だから余計につらくて。私だって結婚したいし子どもも欲しい。親を喜ばせたいし、同僚と子どものお弁当について話してみたい。それができずに「申し訳ない」と思いながら、でもいったい何に謝ってるのだろうか……という気持ちもあります。

富沢絵里子さん(以下、富沢): 親の呪縛ってありますよね。私は26歳で結婚して、2人の子がいるのですが、実は20歳のとき婦人科医に「子どもが産めない体質だ」と言われたことがあって。そのとき母は「私は孫が持てない」と腹を括ったと、後から聞きました。母は幼稚園教諭で子ども好き。我が家は1人娘の母子家庭なので、余計に私が子どもを持つことをすごく期待していたんだと思います。

20代前半、私はキャリアをある意味で諦め、転勤族の夫と結婚して彼について行き、不妊治療を始めました。流産などもありましたが、やがて子ども2人に恵まれ、母も喜んでくれました。その一方で、結構頑張って国立大学に入り、周囲はみな研究職などになって活躍しているのにと、なり得たかもしれない自分を置いてきたことについて考えてしまうことも……。母としては必死に働いて私に課金し、大学まで行かせたのに、キャリアを諦めた私をどう思っているんだろうと、申し訳なく感じるときもあります。でも、「子どもを産むのは誰のため?」と考えれば、母のためではないはずですよね……。

産む人生・産まない人生。決断する難しさ

秦: キャリアを諦めてまで「子どもを持つ人生」を選択するなんて、すごいなと感じました。私にとっては、産む・産まないという決断をすること自体が、まずは大きなハードルです。

瀬戸内千明さん(以下、瀬戸内): 同感です。もし自分に、早く母になりたい、子どもが欲しいという思いがはっきりとあったなら、もうちょっと計画的にライフプランを持って生きていたのかな、なんて思うことがあります。今の人生を後悔しているわけではないのですが、物理的に産めない年齢に近づいて、「本当にこれでいいのかな」「この先後悔しないかな」と、やっぱり少しモヤモヤしています。

富沢: 私の場合、昔からただただ子どもを持つ人生しか考えていなかったんですよね……。自分が中学生のころに考えていた名前を、実際に子どもに付けたくらい。そして、そこには「孫の顔を見せてあげなきゃいけない」という親への想いもあったと思います。

佐藤: 私は、今のパートナーと14年も一緒にいるのですが、結婚も子どもも、決心できませんでした。この人だけを一生愛し続けることができるのか、特別子ども好きでもない自分が子育てできるのか、いろんなことに自信がなかったんだと思います。それから、私は自分の名字が好きで、できるなら変えたくないという思いもありました。別に今のままで何一つ不自由はないし、単純に結婚にメリットを感じなかったんです。

ただ、それは何だかんだ社会から外れることじゃないですか。パートナーは納得してくれているものの、私を選んだばかりに申し訳ない選択をさせているなという想いも常にあります。今では、人に聞かれたら「夫婦別姓が導入されたら、結婚するんだ」とか答えています。

恋愛話ができないのは、互いの立場に気を遣いすぎ?

柏木: 続いて話し合ってみたいのは、「私の40歳を探して」vol.2でも取り上げた、大人の恋愛についてです。年齢を重ねると恋愛に臆病になったり、気持ちが動きにくくなったりなどの経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

秦: 清水さんは婚活の経験があるそうですが、現在パートナーが欲しいとか、恋愛したいという気持ちはありますか?

清水さん(以下、清水): 実は私、恋愛があまり得意じゃないんです。というのも、大学までずっと女子ばかりの環境で過ごしてきたせいもあって、青春時代に恋愛で楽しい思いをしたことがないんですよね。それが気づけば30代になって、恋愛には勝手に結婚や子どもがくっついてきてしまうように。出会いの場といえば、マッチングアプリか、婚活パーティーで、恋愛って、選ぶ・選ばれるみたいな、全然楽しくないものなのかなと思ってしまいます。それもあって、今はあまり婚活に力は入れていません。

瀬戸内: 私もアプリで婚活をしていますが、仕事が忙しくなるとなかなか難しくて。いい感じだと思っていた人と急に連絡がつかなくなるとか、精神的に消耗することも多いので、気持ちを強く持たないとなかなか続かないですね。恋愛したいなとか、結婚したいなという思いは常にあるんですけど、この先長くって考えると、こちらが相手に求める条件も多くなってしまって、そんな人いるのかなと、半分諦めモードです。

秦: 私は、周りの友人たちに家族ができてから、何となく恋バナがしにくくなってしまったので、今日こんなふうに語り合えるのがとても嬉しいです。

清水: めちゃくちゃわかります。私も恋愛話はする人を選んでしまいます。実際、昔から恋バナをよくしていた友人に子どもができてからは、こっちは恋愛に必死でも、「楽しそうだね、こっちは子育てに必死なんだよ」と言われてしまうので、話さなくなりました。お互いに今大変なことが違うから仕方ないですよね。

秦: 子どものいる富沢さんは、そんな気持ちになったりしませんか?

富沢: 全然そんなこと思わないですよ。今、皆さんの話を聞きながら思い出していたのが、独身の親友のことです。彼女とは長い付き合いなのですが、今まで一度も恋バナを聞いたことがなくて。でも、もしかしたら私に遠慮しているのかなと、ハッとしました。私から風穴を開ければ、本当は話したいことがあるかもしれない。今度あったら「聞きたい」と言ってみようかな。

秦: そう「聞きたい」と言ってもらうと安心します。こうやって、違う立場の女性同士がお互いに遠慮して、気を遣いあってしまうことって、ほかにもたくさんありそうですね……。

柏木: 続く後半では、40歳を目前に悩むことも多くなる、キャリアや、その後の生き方をめぐる問題について、考えていきます。(後編へ続く)

“私の40歳”を探して〈vol.5〉 子なし女性の息苦しさはどこから? 対談「産まない」について考える 【telling,座談会】「“私たちの40歳”を探して」〈後編〉キャリアも人生も「まだまだ頑張れる」。迷いを力に変えて
ライターやエディターとして活動。女性の様々な生き方に関心を持ち、日常の中のセルフケアや美容、ウェルネスをテーマに取材・執筆を続ける。また、ファッションやコスメブランドのコピーライティングなども手がけている。
イラストレーター。見た人のこころがゆるむような、やわらかくのびのびとしたイラストを描いています。趣味はイラストを添えた映画日記をコツコツつけること。
telling,編集長。朝日新聞社会部、文化部、AERAなどで記者として教育や文化、メディア、ファッションなどを幅広く取材/執筆。教育媒体「朝日新聞EduA」の創刊編集長などを経て現職。TBS「news23」のゲストコメンテーターも務める。
“39歳問題”