“怖がり”な新垣結衣さん「ポジティブになる練習をしています」
――本作の夏月という役は、新垣さんが今まで演じてこられた役や、新垣さんのパブリックイメージといったものとは異なるようにも感じましたが、いかがでしょうか。
新垣結衣さん(以下、新垣): 皆さんが抱いているパブリックイメージというのがどういったものなのかはなんとなく理解してはいるのですが、私への印象は受け取る方によってそれぞれ少しずつ違うだろうとも思っています。同時に、求められるものも年代によって変わってきているし、今までやってきた役の印象がひとつひとつ積み重なって今になっている感覚があって。自分としては、パブリックイメージもどんどん変化しているのではないかと思います。
――夏月という役へのオファーがあった際、戸惑うことはなかったですか?
新垣: 特に戸惑うということはなかったです。お話をいただいて企画書とプロットを読んだんですけど、その段階ですごく惹かれるものがあって。ただ、『この物語を映像化するのは難しいのではないか』とは感じました。朝井リョウさんの原作小説を、映像化して、2時間にまとめるというのが難しそうだなと。そう考えた時に、監督と同じ方向を向いて作品を作っていけるか、意思疎通を図っていけるかといったことへの不安は多少ありました。それでもやっぱり、すごく惹かれるものがあったのでお引き受けしました。
――たとえば本作へのオファーが5年前、30歳の時にあったとしても引き受けたと思いますか?
新垣: それはわからないです。オファーをいただけて初めてそのことと向き合うので、30歳の私だったらどうだったか、というふうにはあまり考えないです。本当にいろんな要素やご縁がピタッとハマって参加することができたのだと思います。
――オファーを受けるにあたり、あまりご自身の年齢を意識することはないですか?
新垣: 過去の作品で戸惑うことはありました。たとえば『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』に初めて出演した時、私はまだ19歳だったんです。演じた白石恵という役は10歳近く歳上の設定だったので、そういう意味での戸惑いはありました。でも、この年齢だからこの役を受ける、受けない、といったことはないですね。
――本作に登場する、同僚で妊婦の沙保里(徳永えり)が夏月に掛ける言葉が印象的でした。端々から、「女性であれば30代になれば結婚をし、子どもを産むのが当たり前」「友達はいたほうがいい、作るべき」といった、日本女性に対して長らく持たれてきたステレオタイプを感じさせる存在なのではないかと思います。新垣さんは沙保里という役についてどのように感じましたか?
新垣: 沙保里がどういうつもりで夏月にそういうことを言っていたのか、その真意が未だにわからなくて……。ただ、撮影の時には「いつもひとりだからかわいそう」といったセリフが夏月としての怒りのスイッチになったというか、「かわいそう」という言葉が心にグサッと刺さりました。自分と関わろうとしてくれる人というのは大体が嬉しい存在だと思うんですけれど、かけられた言葉のその奥に、「自分のほうが優位に立ちたい」とかそういうさまざまな感情があるかもしれなくて、それが自分を傷つけることもある。
ただ、人間の感情ってひとつではないから、沙保里は本当に悪気なく夏月に近づいたのかもしれないし、そこはわからないんですよね。単純に「この人は悪い人」としてしまうのも違うでしょうし。沙保里自身も、自分の中で自分の生き方が正しいのか正しくないのか答えを出せていないようにも思いますし。だからこそ、言葉ひとつをとって簡単に「正しい/正しくない」と答えを出さずに、考え続けていくことが大事だと思いました。
――「普通」とか「正しさ」とは何なのか、自分に問いたいと思わせられる本作ですが、今、社会の中で生きづらさを抱えている人に向けて、気持ちを少しでも楽にするためのメッセージがあればお聞かせください。
新垣: 私自身、ついついネガティブになったり、考えすぎたり、怖がりになってしまうところがあるので、昔からポジティブの練習をしているんです。それは「見る方向を変える」という作業なんですが。物事って一面じゃない、もちろん人も。だから、自分を生きづらいと思わせているものと違う角度から向き合って、観察してみるということをしています。
スタイリング:Komatsu Yoshiaki(nomadica)
メイク: ASUKA FUJIO
●新垣結衣(あらがき・ゆい)さんのプロフィール
1988年生まれ、沖縄県出身。ティーン雑誌のモデルの後、女優として活動開始。映画「恋空」で第31回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞、映画「ミックス。」で第60回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞するほか、多くのテレビ番組やCMでも活躍する。近年の主な出演作に「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK)、「風間公親-教場0-」などがある。