「花の命を着る下着。素肌で感じるサステナブルの新しいかたち」草木染めランジェリーデザイナー小森優美さん
●サステナブルバトン06
前回の河島春佳さん(フラワーサイクリスト)から小森優美さんへのメッセージ
小森さんは起業家として、女性として、私の見本となるような生き方をされている素敵な方です。草木染めランジェリーブランド「Liv:ra」の代表として、誰もが「かわいい!」と言いたくなる、使い心地のよいランジェリーを生み出すと同時に、アパレル業界の「廃棄問題」とも真剣に向き合っています。
芯のある考えをお持ちで、私自身も学ばせてもらうことが多いです。お会いするたびにパワーと刺激をもらっています。これからの日本の環境問題に影響を与えていくひとりとして、心から尊敬しています。
「大量廃棄が当たり前」だったファストファッション
――本当に、見ているだけでワクワクする色合いのランジェリーですね。
小森優美さん(以下、小森): Liv:ra(リブラ)のランジェリーは、花をはじめとした自然の植物だけを使った「草木染め」の手法に基づき、京都の職人さんが1点ずつ丁寧に手染めしています。たとえば黄色はマリーゴールド、青はログウッドやクチナシ、ピンクはアカネから色素を煮出して、色とりどりの生地に染め上げていきます。
見た目に美しいのはもちろんのこと、草木染めは「着る漢方」とも呼ばれています。植物が持つ薬効成分によって、リラックスや冷えとり、血行促進、抗菌といったさまざまな効果が期待できるといわれているんです。まさに「植物のエネルギーを身にまとう」ことができるランジェリーです。
――日本の伝統の草木染めが「エシカルファッション」と結びつくというのは、新鮮な驚きでした。着想のきっかけは何だったのでしょうか。
小森: もともと私のキャリアは「ファストファッション」から始まりました。デザイナーとして新卒で入社したアパレルメーカーが、日本のファストファッションの先駆けともいえる会社だったんです。
そこでは最新のトレンドを取り入れた服が次々と生産されていました。新作を出すときのプロパー販売目標は「70%」。たとえばすごくざっくりですがTシャツを2万枚作ったら、そのうち1万4000枚が売れれば合格ライン。その後セールで追加して少し売れますが、それでも数千枚は残ります。それで収益が上がるので残った分は捨ててしまっていいという考え方です。すべての会社がそうしているわけではないと思いますが、その会社では不良在庫は焼却処分していましたね。でも、ひとつのデザインごとに数千枚の廃棄だとしたら、年間で数百種類にものぼる商品では、一体どれくらい処分されているのでしょうか……。
――あまりにも大量の衣服が捨てられていたんですね。
小森: 現実を知って、最初はすごくショックを受けました。ただそれは、当時のファストファッション業界では当たり前のこと。低コストで大量生産、大量販売をして収益を上げていくには、廃棄が出るのは仕方ない。業界のこういった価値観に私自身も少しずつ慣れてしまい、いつしか「そういうものなんだ」と受け入れるようになっていました。
その後、2010年に独立して立ち上げた通販ブランドでは、流行の服をどんどん入れ替えて売り出していくという、ファストファッションで学んだやり方でビジネスをするように。当時の私は、それが間違っているとは思いませんでした。
震災をきっかけにあふれ出た「本物」への思い
――その後、小森さんに転機が訪れたのはいつでしょうか。
小森: 2011年に起こった「東日本大震災」です。当時、私は大阪に住んでいて、周囲に直接的な被害はなかったものの、関東からたくさんの人が危機感を持って避難してきたのをよく覚えています。
それは今まで信じてきたものが、丸ごとひっくり返ったような感覚でした。原発は爆発したのか? 福島の人たちは安全なのか? いろんな情報が錯綜して、何が本当か嘘なのか、区別がつかなくなりました。これまで無条件で受け取っていたメディアの報道に疑問を持つようになって、自分で調べたり、人に聞いたりして情報を追い求めるうちに「本当に正しいかどうかは、自ら確かめて判断するまでわからない」ということに気がついたんです。
――そこから考え方は変わりましたか。
小森: この頃から、仕事の合間をぬって日本のあちこちを旅するように。自然の豊かな場所を巡り、その土地に住む人や旅する人たちと知り合いました。たとえば野菜の栽培をする人に話を聞いて、オーガニックやビーガンの概念に共感したり。都会にいたら決して見えなかった価値観や信念がそこにはありました。
私は自分の身のまわりにあるものが、どこから来て、どうやって作られているかに関心を持ち始めました。それと同時に、ファストファッションには不透明な部分が多いこともわかってきたんです。心から納得できないものを人に売って得たお金で、私自身は品質のいいものを選んで買っている。これってなんだか「気持ち悪い循環」だなって。今のやり方ではなく、自分が「本物」だと信じられるものを、ファッションで作っていきたいと強烈に感じました。
――それで「Liv:ra」が誕生したのですね。
小森: 自分の力で「いい循環」をつくりたいと考えた時、まっさきに思いついたのは「水」、つまり川や海をきれいに保つことでした。ファッション業界における水質汚染はとても深刻です。国連の報告によると、全世界の排水のおよそ20%をファッション業界が占めるといわれています。その排水に含まれるのが、服の繊維に色をつけるための「化学染料」。有害な化学物質が残り、水を汚す原因となってしまうのです。
そんな時にたまたま知ったのが、京都の染物屋さんが新しく開発したという「新万葉染め」と呼ばれる技術でした。すぐに話を聞きに行ってみると、植物だけで染め上げられた色彩豊かな生地に心が踊りました。
「新万葉染め」では、独自開発の煮出し技術によって、従来はるかに少ない原料での染色が可能です。染め職人さんの手間がかからず、コストがおさえられて、色落ちしにくい。もちろん環境負荷もほとんどありません。草木染めの衣服を商業化するのにこんなに適した方法はないと思って「一緒にやってください!」とその場でお願いしました。
日本人の心に眠る、感覚的な「エシカル」
――ファストファッションからの大転換ですが、いかがでしたか。
小森: 2013年に「Liv:ra」を立ち上げたものの、初めは戸惑いが大きかったです。今までやってきたファストファッションでは流行に乗るスピード感が重要でしたが、「Liv:ra」ではまったく逆。求められるのはクオリティであったり、着心地のよさであったりします。むしろ時間をかけて、素材を選び、デザインと向き合って、ひとつひとつの商品を育てていく必要がある。
デザイナーとして1から勉強し直すというつもりで試行錯誤を続けて、4年くらい経ってようやく今の形ができてきました。
――現在は「受注販売」をメインに販売されていますね。
小森: 毎月何点かのアイテムの注文を受け付けて、それに合わせた製作を行っています。お客様は納品までに2カ月ほど待つことになりますが、その分、定価より安い価格で買うことができます。一方で、購入後すぐに届く商品も置いていますが、そちらは予約販売より割高になっています。そこは、お客様のニーズによって選んでいただければと。
この方法をとるようになってから、在庫が大量に余る心配もなくなって、精神的にすごく楽に仕事できるようになりました。あとは商品を長く使っていただくために「染め直しキット」を販売していて、ご自宅で草木染めの染め直しができるようにもなっています。
――小森さんは、独自のやり方で「エシカル」の新しい提案をされていると感じます。その先に目指すものは何でしょうか。
小森: 私のゴールは「ファッションが地球を再生する仕組みをつくる」こと。たとえば、シルク素材の絹糸を作る「蚕(かいこ)」が食べるのは無農薬の桑の木の葉っぱだけです。無農薬の桑の木はCO2を大量に吸収するので、シルクは生地を生産すればするほど環境を改善するパワーを持っている素材です。「Liv:ra」では、桑の木を育てるところから関わって、シルクの生産を目に見える形で感じてもらえるようにしたい。伝統的な技術を持つ人たちと、そこに関わる人たちとをつなぐ場所を日本的な感覚を大切にしながら築いていければと考えています。
なぜかというと、「エシカル」や「サステナブル」という言葉は海外から入ってきたものだから、そのまま日本になじませるのは少々難しいのかなと私は思うんです。ともすれば教育的になりすぎたり、意識の高い一部の人たちだけのものになったりして、多くの人が「自分には関係ない」と認識してしまう。
だから私は、日本人の心に古くから存在していたはずの「エシカルな感覚」を呼び起こしていきたい。それは、草木染めの布のやわらかさを素肌で感じた時のように、日常の中でふと「いいもの」に触れて、それを素直に「好き」と感じる気持ちから始まるのだと思います。
●小森優美(こもり・ゆみ)さんのプロフィール
エシカルファッションデザイナー。奈良県生まれ。ファストファッションブランドのデザイナーとして従事した後、商社系ブランドライセンス事業会社での新規ブランド立ち上げ業務を経て、 2010年に株式会社HighLogic設立。自然や人、地球と調和したファッションのあり方を模索しながら、 2013年にエシカルファッションブランド「Liv:ra(リブラ)」立ち上げ。一般社団法人TSUNAGU代表理事として、エシカルファッションをミレニアル世代に伝えるためのプラットフォーム構築を目指す。
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