Presented by ルミネ
サステナブルバトン

「薬剤やシャンプーはすべて自然由来。体を壊して気づいた、自然体な生き方」ヴィーガンビューティーサロン美容師・中島潮里さん

「エシカル」(ethical)とは、英語で「倫理的」を意味する言葉。人と自然と動物がちょうど良いあんばいで共存していける世界を目指す「エシカル」なライフスタイルに、近年あらためて注目が集まっています。 「サステナブルバトン」では、サステナブル・エシカル業界で活躍する人にバトンをつなぎインタビューしていきます。第3回はヘアスタイリストの中島潮里(なかじま しおり)さん。中島さんが働く原宿のヘアサロン兼カフェ「whyte(ホワイト)」では、「ヴィーガンビューティー」という新たな美容のスタイルを提案しているのだそう。ヴィーガンというと「食」のイメージが強いですが、美容のヴィーガンとは一体どんなものなのでしょうか。

●サステナブルバトン03

前回のエシカルファッションプランナー・鎌田安里紗さんから中島潮里さんへのメッセージ

中島さんは私にとって「視点」を増やしてくれた人。

私自身、髪色を変えておしゃれするのが大好きですが、ブリーチ剤やヘアカラー剤に対して「エシカルなものを選ぼう」という発想はありませんでした。でも中島さんに出会って、ヘアケア用品にも「オーガニック」や「ヴィーガン」があると知り、エシカルな考え方が生かせると気がつきました。

近年、ファッション業界がエシカルな方向に変わってきたのと同じように、ヘアサロン業界も波が来れば一気に変わるはず。「ヴィーガンビューティー」の取り組みは決してひとつの美容室だけで終わるものではなく、やがて他の美容室にもこの視点が広まり、大きなムーブメントになる可能性があると感じています。中島さんはその波を起こせる人だと私は思っているので、これからのご活躍がとても楽しみです!

人と動物と環境にやさしいヴィーガンビューティー

――「ヴィーガンビューティー」について教えてください。「ベジタリアン」でなく「ヴィーガン」だということには、どんな意味がありますか。

中島潮里さん(以下、中島): まず食べ物の話でいうと、ベジタリアンが「菜食主義者」の全般を指すのに対して、ヴィーガンは「完全菜食主義者」。肉や魚を食べないのはもちろん、乳製品や卵、ハチミツなど動物性の食材は基本的に一切口にしません。

もうひとつ大きく違うのは、ヴィーガンは「マインド」であるということです。だから菜食だけでなく、身の回りで使う品でも一貫して動物由来を避けます。たとえば毛皮の服を着ない、とか。これは動物愛護や環境保全などの観点から来るものです。

ヴィーガンビューティーはまさにこの考え方。動物性の原料を使わず、また動物実験もしていない薬剤やオーガニックなプロダクトを選んでいます。

――そもそも美容室で使うブリーチやヘアカラー剤は、動物性の原料でできているのですか。

中島: ほぼすべてに、何らかの動物性素材が含まれています。とはいえ原材料名には動物の名前が書かれていないので、ちょっと想像しにくいですよね。たとえば「ケラチン」 は鳥の羽、「コラーゲン」は豚の皮などから作られています。羽をむしられた鳥や、皮をはがれた豚はその後どうなるか……。当然、生きてはいられません。

動物実験については、たとえば「人が使って肌荒れを起こすかどうか」といった毒性チェックを、マウスやモルモット、ウサギなどで試すことがあります。こうした動物は実験のためだけに飼われて、実験室の中で亡くなっていくんです。

ビーガンサロンwhyteで使われている動物性原料を使っていないシャンプーやスタイリング剤

――ヴィーガンビューティーでは、動物に関するものを丸ごと排除しているのですか? 実験せずに人が使っても大丈夫なのでしょうか?

中島: 環境や人体に悪影響の恐れがあるケミカルがはいっておらず、その分が植物成分になっていて、動物実験をする必要がありません。カラー剤特有のツンとした匂いもなく、カラーリングしても髪にダメージがない。それでいて発色は従来のカラー剤と同様です。

さらに、環境問題の面でもいいことがあります。一般的なカラー剤を排水として流すと、川や海の水を汚染して自然の生態系を壊すといわれていますが、植物成分であれば最後はきちんと自然にかえるのです。

こういった「ヴィーガン」の選択肢は欧米では当たり前にあるものの、日本ではまだまだ知られていないというのが現状です。

カフェのカップも土に還る素材(生分解性)を使用。食材は無農薬のもの、白砂糖不使用などにこだわっている

体が自然とほしがるものに正直に

――中島さんがヴィーガンに興味を持ったきっかけは何ですか。

中島: 私自身が体を壊したことです。専門学校を卒業して最初に入ったのが、都内の大きなヘアサロンでした。アシスタントだった当時は目が回るくらい忙しくて、毎日お昼ごはんを食べる時間もなく、終電後の真夜中に帰宅してはカップ麺やインスタント食品をかきこむ日々……。そんな生活を数年間続けていたら、当然のように体調を崩してしまいました。

このままじゃまずいと思って、それまでの食品添加物をたっぷりとっていた食事を見直しました。自分で米を炊いておにぎりにして、新鮮な野菜や魚を食べる。すると、朝起きた時のだるさや足の重さがなくなり、目に見えて体調が回復していくのがわかりました。

――偏った食生活を整えることで、体の変化を感じたのですね。

中島: 体は正直なんです。当時はヴィーガンなんて概念は全然知らなかったのですが、気づいたらお肉をまったく食べなくなり、ケミカルの入った製品を避けるようになっていました。食材も化粧品も、お店で使う品もなるべくオーガニックで、生産者の顔が見えるものを。そして、できる限り環境負荷が低いものを、というように選ぶようになりました。

――中島さんは日々いろいろなことを考慮された上で、ものを選んでいるのですね。ヴィーガンビューティーや、エシカルなライフスタイルを実現するには、ある種の「ストイックさ」が必要でしょうか。

中島: 逆です。これは私にとって決して無理をしているわけじゃないんです。自分の体が自然とほしくなるものを選びとって、知りたいことを調べていたら、いつの間にかこうなっただけ。

私の思いは、「環境問題を考えることと、おしゃれを楽しむことを両立させたい」ということ。私の場合、生まれ育ったのが千葉県の勝浦で、きれいな海と山と動植物に囲まれて暮らしていました。海洋関係の仕事をしていた父から海の話を聞き、父が釣ってきた魚を食べて育ったので、自然への意識が強いのかもしれません。

原宿の裏通りにある「whyte(ホワイト)」

朝8時オープンのヘアサロンで朝活をスタート

――中島さんのサロン「whyte」はどんなヘアサロンなのですか?

中島: whyte は2018年に立ち上げた、ヴィーガンビューティーを掲げるヘアサロンです。使用する薬剤やシャンプーなどはすべて自然由来のもの。「より自然体に生きていく」をコンセプトに、人間本来の体内時計に合わせて、オープンは朝8時です。かなり早いですが、朝イチの予約はおかげさまでいつも埋まっています。

20代から30代前半のお客様が多く、うちのサロンがきっかけで朝活を始めたという方も。併設のカフェのサンドイッチ食べながら、くつろぐことも可能です。

また、ハイライトカラー用のアルミホイルなどの使い捨てだったものを繰り返し使うことでゴミを減らす工夫もしています。美容室って実はおどろくほどたくさんのゴミが出るんですよ。

洗って何回でも使用可能のフィルムペーパー

ゴミを減らすことを考えるようになって、近隣のアパレル店舗の店員さんたちなどと協力して原宿の街のゴミ拾いに出かけたり、お客様にも参加していただいて浜辺のゴミ拾いも定期的に行っています。こうやって美容業界に限らず、いろいろな人を巻き込んで、ヴィーガンビューティーの考え方を広く知ってもらいたいと思っています。

お客様とのゴミ拾いの様子

――最後に、今日からできる「エシカルな行動」を教えてください。

中島:何かすごく小さなことを、1日ひとつでいいから実践してみること。たとえばレジでゴミ袋をもらわないとか、3食のうち1食を植物ベースにするとか。下手にルールにしちゃうとそれがストレスになって結局続かないので、あくまで「自然体」でいられることが大切。それが体にも心にも、一番しあわせなことだと考えています。

 

●中島潮里(なかじま しおり)さんのプロフィール

1988年、千葉県生まれ。都内のヘアサロン勤務を経て、2018年8月にスタイリスト仲間と共にヘアサロン兼カフェ「whyte」を設立。現在は同店のトップスタイリストを務める。インスタグラムでは自然由来のコスメや暮らしをエコにする工夫、ナチュラルヘアのアレンジなど、自然体のライフスタイルを発信している。
https://whyte.tokyo/

ことりと暮らすフリーランスライター。米シアトルの新聞社を経て、現在は東京を拠点に活動中。お坊さんやお茶人をよく追いかけています。1984年生まれ、栃木出身
わたしと未来のつなぎ方