Presented by ルミネ

サステナブルバトン

「“地球に優しい”は、自分に優しいということ」エシカルコーディネーター・エバンズ亜莉沙さん

「エシカル」(ethical)とは、英語で「倫理的」を意味する言葉。人と自然と動物がちょうど良いあんばいで共存していける世界を目指す「エシカル」なライフスタイルに、近年あらためて注目が集まっています。 「サステナブルバトン」では、サステナブル・エシカル業界で活躍する人にバトンをつなぎインタビューしていきます。第4回はエシカルコーディネーターのエバンズ亜莉沙さん。エシカルなイベントやプロジェクトに幅広く関わるエバンズさんは、日米ハーフとして日本で生まれ、15歳から20歳までの5年間をアメリカのオレゴン州で過ごしました。2つの国を行き来するなかでの葛藤と発見が、現在のエシカルな活動につながっていったといいます。エバンズさんのエシカルへの思いを聞きました。

●サステナブルバトン04

前回の中島潮里さん(ヴィーガンビューティーサロンWhyteヘアスタイリスト)から、エバンズ亜莉沙さんへのメッセージ

亜莉沙ちゃんと出会ったのは5年前、原宿でヘアモデルとして声をかけたのが最初です。そこから撮影などで少しずつ仲良くなって、今のサロン「whyte」をオープンする時にはアイデアをもらったり。また彼女は英語が得意なので、サロン内で英会話カフェを開いてもらったりしています。

亜莉沙ちゃんは、アメリカで「エコの街」として有名なポートランドがあるオレゴン州に住んでいたので、当時の話を聞くとすごく勉強になる。それにとてもハッピーな人で、一緒にいてパワーをもらえます!

日本にもアメリカにも所属できない自分への違和感

――エバンズさんは英語が堪能だということで、もともと英語文化の中で育ったのですか。

エバンズ亜莉沙さん(以下、エバンズ): 私はアメリカ人の父と日本人の母を持ついわゆる「ハーフ」ですが、生まれたのは日本で、家の中で使っていたのは日本語だけ。だからアメリカに詳しいわけでも、英語が話せるわけでもありませんでした。

幼い頃は、そんな自分に違和感を覚えることもありました。中身は普通の日本人なのに、外見が他の人と違う。カタカナの名前はいかにも外国人という感じ。周りの人は悪気がなくても何かを言ってきたり、特別な態度をとったりします。そのたびに「どうして私はみんなと同じじゃないんだろう」と思っていました。

――渡米した後、その感覚は変わりましたか。

エバンズ: 中学卒業後にアメリカに行ったのは、自分のルーツのひとつであるアメリカという国の文化や言語、考え方を知りたいと思ったからです。父の親戚がいるオレゴン州の現地校に入学して、非ネイティブのための英語基礎クラスで言葉を勉強していきました。

日本の学校との大きな違いを感じたのは、アメリカは多様性の国だということ。いろんなバックグラウンドを持った生徒がいて、服装や髪型の制限もなく、「個性を出すのがいいこと」だとされていました。

たとえば授業で問題を解くとき、「答えは何?」ではなく「あなたの考えは何?」と聞かれて、みんなの前で意見を言うことが求められます。最初は何をするにも緊張したけど、次第にネイティブの友人も増えて、なじむことができました。

――「他の人と違う」ことへのコンプレックスは、アメリカで解消されたのですね。

エバンズ: アメリカの環境に慣れるにつれ、人と違う自分を受け入れられるようになったと思います。でも、私がそこで完全に「アメリカ人」になれたかというと、そうではありません。少し話せば、私が現地で生まれ育った人間でないことはわかります。するときまって「あなたはどこから来たの?」と聞かれるんですね。

同じように、日本で日本人と話していても「どこから来たの?」と質問されます。仕方ないことだとは思いますが、なんだか私は日本にもアメリカにもどこにも属していない、つながっていないんだなという気持ちは、いつもどこかにありました。もちろん今はそんな自分も受け入れていて、誰もどこかに属する必要はないと感じています。

授業で見た1本のビデオから受けた衝撃

――オレゴン州といえばエコな自然派志向で、エシカルの活動も盛んなイメージがあります。

エバンズ: オレゴン州には大きな滝やハイキングのできる山など、たくさんの美しい自然があります。オレゴンの都市ポートランドは、「全米1住みたい街」に選ばれたこともあり、”自然と共存した街づくり” が注目を集めていますね。

私が住んでいたのは、ポートランドから車で30分ほどの田舎町です。ただ、当時はまだ地域として環境への意識がそこまで高くなく、私は「エシカル」という言葉自体、日本に帰ってくるまでは知りませんでした。

――では、エシカルの概念に関心を持ったきっかけは?

エバンズ: 高校で受けていた環境科学の授業で、あるビデオを見たことです。畜産業界の裏側を追ったドキュメンタリーで、ニワトリや牛、豚がどうやって育てられ、どんな風に出荷されていくのかが克明に描かれていました。

それは衝撃的な光景でした。たとえば採卵用のニワトリだと、ヒヨコの時にオスとメスが選別されます。卵を産まないオスはベルトコンベアで袋の中に落とされ、そのまま窒息死させられるのです......。

ショックを受けると同時に、私がいつも何気なく食べていたものや身につけていたものが、他の生き物の命に関わっていることはもちろん、地球環境へも大きな影響を与えているのだと学びました。言ってみれば、自分と世界がストレートにつながっていることを痛感したんです。そこで「自分には関係ない」ではなく、「自分がなんとかしなければ!」と考えました。

――その後はどんな行動を起こされたのでしょう。

エバンズ: 当時の私にできたのは、まずは自分が「消費の仕方を変える」こと。初めは卵や肉を食べるのを一切やめました。野菜をいただく時でも「この野菜はどこで育てられたのか、オーガニック(無農薬)なのか」をチェックして、環境や他の生き物へ配慮しているかわからないものは食べないことにしました。

また、所属していたダンスチームのメンバーと一緒に「Students For Change」というボランティアサークルに参加しました。そこでは植林団体への募金を募る活動やフェアトレードショップの手伝いなど、環境に関わる活動を続けていきました。

高校卒業後、クラブの先生やメンバーたちとお金を貯めて、植林地であるハイチを訪れ、いわゆる途上国と呼ばれる国の現状を見たことは、今でも強く印象に残っています。

世界一周の船旅で学んだ大切なこと

――日本に戻られたのは20歳の時ですね。それからのことを教えてください。

エバンズ: 日本の短大にあたるコミュニティカレッジに通っていた時に、家の事情で帰国することに。帰国後の進路は考えていなかったのですが、環境や世界について学び続けたいと思い、エシカル協会の講座を受講しました。

講座を卒業してまもなく、インターンをしていたNGO「ピースボート」が主催する3カ月間にわたる世界一周クルーズに、通訳ボランティアスタッフとして乗船しました。次から次へと国をまわり、ドバイの超高層ビルを見たかと思うと、インドでストリートチルドレンと会うような旅です。ゲストとして世界中から乗船してきた、活動家やジャーナリストの方々とも知り合いました。

そのなかで強烈に感じたのは、それぞれの国に違いはあっても、海はつながっていて、世界はひとつだということ。国境なんて人が勝手に決めたもので、人間は同じ人間なんです。

船から降りた後、私が今まで感じてきたこと、体験してきたことを周りの人たちに伝えたいと決意しました。

――そこでエシカルコーディネーターとしての活動が始まったのですね。

エバンズ: その肩書きを使い始めたのはほんの数年前のことなんです。初めはエシカル協会やピースボートのご縁で知り合った方とのつながりで、通訳やレストラン運営のお手伝いなどをするうちに、イベントやまちづくり事業などのお声がけもいただくようになって……。いつの間にか活動の幅が広がっていった感じです。

最近はエシカルという言葉が世の中に認知されてきたので、私はこれからその次のアクション、「知った後に何をしたらいいか」を発信していけたらと考えています。

――最後に、今日からできるエシカルな行動を教えてください。

エバンズ: たとえば「よし、今日からエシカルファッションに切り替えよう!」と言ってクローゼットにある服を全部捨てちゃったら、すごくもったいない。それはエシカルではないですよね。

使えるものは長く使って、捨てる前に誰かにあげたり、リサイクルに出したり。エシカルっていうのは、今あるものに感謝して大切に使うこと。それを続けることで、地球だけでなく自分にとって「やさしい」行動になっていくのだと思います。

 

●エバンズ亜莉沙(えばんず・ありさ)さんのプロフィール
エシカルコーディネーター。1994年生まれ。学生時代に米国オレゴン州で暮らしたことをきっかけに、環境問題に関心を持つ。国際NGOでの通訳インターンで世界一周を経験し、多様な環境や文化に触れる。2015年より「サステナブル」や「エシカル」をキーワードに、イベント運営やまちづくりプロジェクトなどのディレクターやコーディネーターとして活動する。

ことりと暮らすフリーランスライター。米シアトルの新聞社を経て、現在は東京を拠点に活動中。お坊さんやお茶人をよく追いかけています。1984年生まれ、栃木出身
フォトグラファー。北海道中標津出身。自身の作品を制作しながら映画スチール、雑誌、書籍、ブランドルックブック、オウンドメディア、広告など幅広く活動中。
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