「がごめ昆布マスカラ」に「酒かす化粧水」……!? 自然の恵みを余すことなく大切に使い切る、SHIROの信念
●わたしと未来のつなぎ方 05
そこに既にあるものを、ありがたくいただく
女性が何人か集まれば、少なくともひとりはファンがいるのでは? と思うほど、大人気のコスメブランド「SHIRO」。ブランドカラーのネイビーをまとったシンプルで美しいデザインの製品の数々は、「がごめ昆布マスカラ」「亜麻ネイル」「ルバーブハマナス美容液」など、使用している素材名がついた個性的なネーミングも目を引く。東京・表参道の本社ショールームにおじゃまし、実際に製品を手に取って試していると、PRの岡田葵さんが説明してくれた。
「私たちは、がごめ昆布の切れ端やお酒の副産物である酒かすなど、通常捨てられてしまう部分や、見た目の問題で食用として使えない素材などからすぐれた成分を抽出し、スキンケアやメイクアップのアイテムを開発しています。コスメをつくるために原材料をわざわざ育てるのではなく、そこに既にあるものを、ありがたくいただく。そして素材の力を最大限に引き出し、できるだけ余計なものを入れずにつくるのが、私たちのこだわりです」
世界で探していたものは、身近なところにあった
SHIROの歴史のはじまりは、前身「ローレル」の時代に遡(さかのぼ)る。1989年、北海道中部の砂川市で創業し、観光土産品の製造や卸販売を行っていたが、その後、生活雑貨の製造に力を入れ、徐々に化粧品のOEM(=他社から委託され、他社ブランドの製品を製造すること)を行うように。入浴剤や化粧水などさまざまなブランドのコスメを製造していた同社は、やがて「自分たちが本当に使いたい素材だけを使った、毎日使いたいコスメをつくりたい」との強い思いから、2009年、自社ブランド「ローレル」を立ち上げることに。
世界中の生産者を訪ね、よい素材に巡り合うことを目指した同社が最初に出合ったのが、当時国内では流通のなかったトルコ産のローレルオイル(月桂樹の実のオイル)だった。このトルコから輸入したローレルオイルを用いたせっけんは、ブランドデビューと同時に大ヒット。その後もガーナのシアバターを取り入れるなど、世界の魅力的な素材に着目していたが、ブランドの核となる素材選びにも転機が訪れる。
「世界を巡る素材探しの旅は、国によっては訪問までに多くの時間を要したり、予防接種をいくつも受けたりと、なかなか大変なことも多かったんです。あるとき、海外での素材探しの旅から北海道の砂川に戻った代表が、ふと辺りを見渡すと、美しい風景のなかで植物たちがとても元気に輝いて見えたそうです。自分たちが普段生活している北海道をはじめ、もっと身近なところに素晴らしい素材が眠っているのではないか。そう気づき、全国の生産者のもとへ足を運んでみることにしました」
さまざまな可能性に出合うなかで、ひときわ目を引いたのは、がごめ昆布の加工場の片隅で山積みになっていた切れ端だった。「栄養はあるのに、見た目が良くないだけで捨てられてしまうような素材をうまくコスメに生かせたら」。そのひらめきから、がごめ昆布のスキンケアシリーズが生まれ、普通は捨てられてしまうようなB品や副産物も積極的に活用してコスメをつくるという、現在のSHIROにも続くスタイルが確立されていった。
2020年3月からは「エシカル割」がスタート
そして2015年、ブランド名をローレルから「shiro」へと変更。生産者とのつながりという強みを生かし、食のセレクトライン「shiro life」、ホームプロダクトに特化した「shiro home」をスタートさせたほか、砂川と東京・自由が丘に「shiro cafe」をオープン。2019年秋にはブランド名を大文字の「SHIRO」としてパッケージも一新し、日本国内だけでなく海外でのPRにも力を入れるなど、規模を拡大し続けている。
最近の取り組みのなかでも特に興味深いのが、2020年3月に東京・ルミネエスト新宿店に併設するかたちで誕生した「SHIRO SELF」だ。対面で接客をしない代わりに、製品のそばにQRコードを用意し、来店者がそれをスマホで読み込むと、製品の情報や使い方などを画面上の説明と音声案内でサポート。名のとおり「セルフ」でアイテム選びを楽しむことができる。
さらに画期的なのが、SHIRO SELFでは、製品を紙箱やショッパーなしで販売していること。パッケージなしの製品を購入すると通常価格の3%が値引きとなる「エシカル割」を、SHIRO SELFとオンラインストアで実施している。
「いつも外箱がムダになるのが気になっていたというお客さまから、取り組みについて賛同のメッセージをいただくことも。お客さまの環境への意識が変わってきているのを実感しています。今後はより環境に配慮した製品や、エコバッグの販売も検討しています」
SHIROが「自分たちが本当に使いたいもの」を追求した結果、エシカルな製品づくりに至ったのは、ごく自然な流れのように思える。それはすなわち、「私たちユーザーが本当に使いたいもの」でもあるからだ。2021年にはコスメを一斉にリニューアルし、できるだけプラスチックを使わないパッケージに変更する予定もあるというから、ますます目が離せない。
“いま”という時代を生きる女性の思いに応えるため
ルミネは持続可能な人々の生き方や社会のあり方に
貢献するプロジェクトを応援しています。
Text: Kaori Shimura Photograph: Ittetsu Matsuoka Edit: Sayuri Kobayashi
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