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わたしと未来のつなぎ方

古着を織って絵画に。イマジネーションを刺激する、河本蓮大朗さんのテキスタイルアート

誰かが不要なものとして処分した古着を裂き、織り込むことで生まれる、独自のアート。河本蓮大朗さんのカラフルで美しい作品の数々は、古着というもの自体がもつストーリーや現代人の消費志向、循環のあり方など、見る人の想像力をさまざまに掻き立てるような、不思議な魅力にあふれています。

●わたしと未来のつなぎ方 02

提供された古着を細く裂き、織って「絵画」に

額縁に収められた、カラフルで鮮やかな絵画のような作品。しかしよく見ると、油絵具やパステルなどを使って描かれたものではなく、美しく織り上げられた布であることがわかる。さらに、もっと近づいて見てみると、織り込まれているものが端切れだったり、フェイクファーであったり、ときにはボタンがついていたりと、通常の織物とはなんだか様子が異なることに気づく。

これは、染織家の河本蓮大朗さんによる「Woven Painting」シリーズ。直訳すると「織った絵画」。織り込まれている素材の正体は、古着だ。友人やNPO法人から提供された古着を細く裂き、織り込んで、作品に仕上げていく。

織物を額装し、絵画に見立てた「Woven Painting」シリーズ。こちらは水の流れを意識した作品。ちなみに制作用の機は、2015年に大学を卒業したタイミングでたまたま近所の知人から譲り受けたお古。幅120cmまで織れる。経糸はエジプト綿やジュート麻など、強度のあるものを使用

実は、使い古した布を裂いて織るスタイルは「裂織(さきおり)」といって、古くから存在する技法のひとつ。日本では江戸時代中期、東北地方など寒冷で綿の育成や入手が難しかった地域で、古布を裂いて仕事着や帯などを織ったのが始まりといわれ、特に青森の「南部裂織」が知られている。

ただ、一般的な裂織の織物は衣服や生活用品に用いられることから、質感が均一であるのに対し、河本さんの作品は前述のとおり、素材となった古着が本来もっていた個性がほのかに感じられるのが特徴だ。

 

作品づくりを通して、大きな自然の営みを思う

もともとファッションが好きだった河本さんが染織に関心を抱いたのは、高校卒業後の進路を考え始めた時期。両親が美術家ということもあり、美術系の大学を選ぶか、あるいはファッション系の専門学校に進むかと迷っていたタイミングで染織というものの存在を知り、この技術を身につければアートとファッションの中間地点でモノづくりができるのでは、と思い至ったのだそう。そして、横浜美術大学のテキスタイルデザインコースに進学することに。

河本蓮大朗さんは1991年、神奈川県生まれ。横浜美術大学工芸領域テキスタイルデザインコース卒業。卒業制作が優秀賞を受賞。以後の受賞歴はSICF18 森永邦彦賞など

「ゼロから勉強を始めたんですが、染めも織りもやってみると、すごく楽しくて。技術はもちろん、素材の触り心地や色の面白さなど、さまざまな角度から惹かれていきました」

ひと通りを学び、自分の表現を模索するなかで、出合ったのが古着だった。たまたま同校がとあるNPO法人から古着を作品素材として提供してもらうことになり、興味を持ったのだった。

「すべて誰かが不要なものとして処分したものだったのですが、例えば、バブル期のものと思しき肩パットが入った派手な服があったりして(笑)。最初は、そういった服のデザインを通して時代背景を思い浮かべるのが単純に面白かったですね」

素材となる古着は、知人や大学時代からつき合いのあるNPO法人から提供されたもの。コットン、ウール、ポリエステルなど、素材がさまざまなところも河本さんにとっては魅力

そうして作品をいくつも織っていくうちに、イマジネーションがどんどん広がるように。その服の素材に用いられている動植物のこと、織るという技術を発明した人のこと……作品づくりを通して、自分自身が人間の歴史や文化、ひいては大きな自然の営みのなかに存在しているという思いが湧いてきたという。

 

アートは人間に、思いがけない気づきを与えてくれる

大学時代から現在に至るまで、古着をその背景にあるストーリーとともに織り込みながら、数多くの作品を生み続けている河本さんは、受賞歴も多数。昨年は、JR新宿駅ミライナタワー改札近くの「NEWoMan ART wall」に展示された、新潟の五泉ニットの端切れや残糸を織り込んだ作品《Weaving (Gosen)》も話題となった。

2019年、新宿の「NEWoMan ART wall」に展示された作品《Weaving (Gosen)》。新潟の五泉ニットの工場から譲り受けた端切れや残糸を使用したもの。実際に五泉市を訪れたときに見た美しい山脈の風景をイメージしたそう

「僕の作品は、捨てられたものを新しい何かに生まれ変わらせるという面ではサステナブルといえるかもしれません。ただ、環境問題を具体的に訴えるためのものというよりは、もっと広い意味で、人間の活動や自然との関わり方を俯瞰して見る装置だと思っているんです」

アートは、人間に思いがけない気づきを与えてくれる存在。気づきを得ることで人々の意識は徐々に変化し、やがては世の中の大きな問題を解決する糸口にもたどり着くのではないかと河本さんは考える。彼自身、完成した作品から教えてもらうこともあるとか。

 

アフターコロナ時代の、アートのあり方とは?

一方、アートは世相を映す鏡でもある。コロナ禍のいま、作品づくりに対する河本さんの向き合い方にも変化が生まれつつあり、現在は試行錯誤しながらラグの制作に取り組んでいる。これまでは純粋な表現として作品をつくってきた彼が、"用途のあるもの"をつくり始めた背後には、こんな思いがある。

「みんなが家にこもることを強いられる状況が続くとしたら、アートはどう変わってくんだろう。そう考えたときに、僕は、自分の作品を通していろんな人の生活に関わっていけたらいいなと思うようになったんです。飾ってもいいし、使ってもいい、そんなアートと日用品の中間地点を目指して、ラグを織り、オンライン販売するつもりです」

見て美しく、それでいて、考え方や生き方を見直すきっかけにもなり得るもの。私たちの価値観が大きく変わろうとしているいま、河本さんの作品は、本当の豊かさとは何かを指し示すひとつのヒントになるかもしれない。

Text: Kaori Shimura  Edit: Sayuri Kobayashi

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