旅する料理人・三上奈緒さん「旅する理由は自然の中に。答えは自然が教えてくれる」
●サステナブルバトン2-05
坂尾篤史さんから三上奈緒さんへのメッセージ
生産者を訪ね、作り手の思いを感じて生み出される食卓を囲んで、その土地の風土をいただく。
風を感じ、大地を感じ、星を見ながら火を囲み、こうした原始の体験をクリエイティビティを持って伝える三上さんの活動を体験することで、環境問題をリアルに考えるきっかけになると思うし、こんな素晴らし自然を純粋にもっともっと大切にしたいと思える機会を増やすことのできる方だと思います。いつか同じ火を使って食事とコーヒーを楽しめる「場」を作りましょう!
おいしい野菜を作る農家さんをもっと知ってもらいたい
――今回は旅先の高知からお話をうかがっています。高知ではどのような活動をされているのですか?
三上奈緒さん(以下、三上): 高知県の中里自然農園におじゃましています。今回のイベントは、雑誌「PAPERSKY」の特集に載った人たちを集めたLittle local marketにて、焚き火料理をしに来ました。私をつないでくれたオニバスコーヒーの坂尾篤史さんもつい先週この農園に来ていたんですよ。お互い、生産者の元に足を運ぶというスタンスが似ているなと思います。坂尾さんとは1年ほど前、自転車とライフスタイルをつなぐカフェ「RATIO&C」(現在は閉店)で知り合いました。話しているうちに、共通の知り合いも多いことが分かって焚き火をしたいねと盛り上がりました。
――実際に畑に足を運んでから料理することにこだわられているそうですね。
三上: 招かれて料理するときは、イベント前日までには現地に入り、食材を育てている農家さんを訪ねます。ある程度は事前にヒアリングしますが、来てみないと分からないこともたくさんあります。今回も農園内を散策していたら、すごく立派なサトイモの葉っぱが目に飛び込んできて。サトイモの葉っぱは水をはじくし、お皿代わりに使えそうだなとひらめきました。イベント当日、葉っぱを畑から切ってきて、使い捨てでないお皿の上に敷いて料理を提供しました。
――提供される側にも特別感があって、喜ばれそうですね。
三上: 葉っぱにのせた料理は絵になるし、洗いものも減るので一石二鳥です。生ごみは畑で堆肥にしたり、鶏の餌としてあげることができたので、ゴミが大幅に減って嬉しかったですね。これも畑が近いからこそできること。
――東京生まれの三上さんだから、より感じるのでしょうか?
三上: そうかもしれません。いわゆる“ふるさと難民”で、田舎に帰る友達をうらやましく思っていました。
大学卒業後、栄養士になり給食に携わると、子どもたちが食べる食材の出どころが気になりだして……。でも東京産ってほとんどないんですね。給食こそ食育の一番の教材なのに、すごく疑問を持ちました。そんな中、青山ファーマーズマーケットに出会いボランティアをするように。知り合った農家さんの畑に遊びに行かせていただくようになると、「こんなおいしい野菜を作る素敵な農家さんを、もっと知ってもらいたい」という気持ちが強くなっていきましたね。
――「顔の見える食卓作り」は、誰が作ったか分かるもので料理を作るということなのですね。
三上: いまはクリックひとつで何でも買える時代。それがゆえに、誰が作っているか顔が見ませんよね。フードロスの問題も、顔が見えないから捨てても心が痛まないのかなと。例えば、恋人がバレンタインデーに愛情を込めて作ったチョコレートなら、大事に食べようと思いますよね(笑)。友達が作ってくれた手料理もそう。もし仮に冷蔵庫の奥に忘れて、ダメにしてしまったらすごく罪悪感にさいなまれます。少なくとも私はそうです。
身近な食で、世の中のひずみを埋められることはあるのではと思っています。
原点は大好きな農家さんの野菜を使いたいという思い
――なぜ、栄養士から料理人の道へ進もうと思ったのですか?
三上: DJの友達から「パーティーを開くから、料理を作ってよ」と頼まれたこともきっかけです。そこではじめて人前で料理をする、という経験をしたんです。もちろん大好きな農家さんの野菜を使って。お客さんにおいしいよと言ってもらえたのがすごくうれしかったのを覚えています。後日、農家さんに「喜んでもらえたよ」と伝えに行くと、そちらでも喜んでもらえる。そのルーティーンが好きで、「これを仕事にしたい」と思うようになりました。
しかし料理を習ったことのない私には作れる料理に限界がありました。料理を修行するために渡仏、帰国後もレストランで働きましたが、料理を始めた年齢も遅いことや、自分が女性であることに、常に負けないように肩肘を張って武装していくうちに、いつしか料理をすることが楽しくなくなってしまいました。
――「修行」のイメージそのものの、厳しい世界だったんですね。
三上: 体調を崩し、一度料理を離れて食育の仕事もしましたが、すると不思議とまた料理がしたくなるんです。場所を借りてお店をしたり、レストランでバイトしたり、やってみたいと思っていた料理教室は、自分の思うようにはいかず、やきもきする日々が続きました。そんな中、「ブラインドドンキー」のジェロームさんに料理を食べてもらい、自分の現状を相談すると、カリフォルニアの「シェ・パニーズ」なら紹介するよと、声をかけてくれました。即答でしたね。
――「シェ・パニーズ」で印象に残っていることは?
三上: 初日に料理を見たとき、料理法も盛り付けもシンプルで、「ここに3カ月もいて、学ぶことなんてあるのかな?」と思ったほど。生意気ですよね。でも、食べたらすごくおいしい。それもそのはず、使われている食材はすべて近隣の信頼のおける自然に寄り添った生産者から仕入れているのです。そこでハッとしました。私が料理を始めたのは、農家さんのおいしい野菜をたくさんの人に知ってもらいたい、という思いからだったんだと。料理の目的がすっかり見えなくなっていたんですね。そこからは肩の力が抜けて、料理の楽しさを思い出しました。
「シェ・パニーズ」では、食材はその日のうちに使う分だけ使い切り。鶏も羊も一頭で仕入れるので、真空パックでゴミが出ることもなく、野菜を畑から運ぶ係の人がいるのですが、野菜を運んでくれた足で、レストランで出た生ごみを畑まで運んでくれます。それが畑の堆肥に。働いている人たちは経歴も国籍もさまざま。みんな本当に楽しそうで、こんなに平和なキッチンはなかなかないと思います。
より自然に生きることを考えるとエシカルにたどりつく
――「旅する料理人」ならではの、旅先で学んだことや気づきはありますか?
三上: 「旅する料理人」を名乗り始めたばかりのころ、長野県中川村に行きました。事前に調理道具を確認したら、「オーブンはないけど、焚火はできる」と言われて唖然としました(笑)。私は全然アウトドアな人間ではなかったので、うろたえてしまって。
――オーブンを借りることは考えなかったのですか?
三上: 自分が欲しい道具は揃えようと思えばいくらでも揃えられるかもしれないけれど、その土地にあるもので料理する、ということを考えると、焚き火ができるなら無理に集めなくてもいいかと思ったんです。最初は戸惑うことの連続でしたが、それが次第に楽しくなってきて(笑)。やはり自分の頭の中で考えられることって限度があるので、変化球がいっぱい飛んでくると無理やり自分の引き出しがこじ開けられるんです。 これっていろいろな物事にも当てはまると思っていて、今はなんでもスマホで調べられるから、自分が想像したり思っている情報ばかり取りにいきますよね。でも頭で知っているからできるかというとそうではありません。情報化社会で便利になったことはいっぱいあるけれど、考えの幅が逆に減ってしまっているのではと思います。
それに、焚火で料理するなんて東京では体験したくてもできません。地方でやる醍醐味はこれだなと思ったし、 自然の恵みで、その季節、その瞬間にしか作れないものを、作り食べることが私は好きです。 「足るを知る」ではないけれど、お金出せば、揃えようと思えばいくらでも揃えられるし、高級な食材も手に入るけれど、そこにあるものだけで実は十分満たされる空間が作れます。本当はそんなに物はいらないんじゃないかなと、この仕事をしながら自分自身も学びました。
――三上さんご自身、エシカルやサステナブルをどうとらえていますか?
三上: 最近はカタカナ言葉が一人歩きしている印象を受けますが、環境にどうしたら負荷をかけないんだろう、何がより自然なんだろうと考えると、自然とエシカルやサステナブルにたどりつくと思うんです。私の大好きな長野県の「momoGファーム」の中山さんは「俺は自然のサイクルをよく観察しているだけ。そのルールに従っているだけ」と言うんです。それはすごくシンプルだし、確かにそうだなと。自然は知っているんです。逆を言えば、サイクルを無視して寒い時期にトマトを育てようとするから負荷がかかる。同じ形のものをほしがれば、そうじゃないものがゴミになる。都会の真ん中にいると、その感覚が薄れてしまうので、できるだけ農家さんの暮らしに触れたり自然の中に身を置くようにしています。私が旅を続ける理由のひとつですね。
――では最後に、三上さんの今後の目標を教えてください。
三上: 自分たちで手を動かすことの大切さを感じてほしくて、生きる力を共に学びたくて「AROUND THE FIRE」というプロジェクトを立ち上げました。これまでは、作った料理を食べてもらうスタイルですが、このイベントでは畑で野菜を収穫したり、ファイヤーピットを作ったり、火を起こし、料理を作って食べることを一緒に行います。まさに原点回帰、人間は火を使うことにより動物から進化した、と言われるその火を囲んで、同じ釜の飯を食う。そこには生産者もいる。そのシンプルでプリミティブな体験を通し、なにかを語らなくても伝わるものがあると思っています。
あとは、今まではイベントに合わせて駆け足で地域を回り、すぐに東京に戻っていたのですが、1週間くらい滞在しながら、生きる力の塊のような諸先輩方である農家さんたちから知恵を拝借しながら、その暮らしをのぞき見させてもらっているところです。鶏を絞めることもつい最近できるようになったばかりだし、この高知の滞在で初めて魚も釣ったし、海水を汲むところから塩を作ってみたり……。身近にあるお塩ひとつでさえ、作り方を知らず作ったこともなかった。いかに自分が都会育ちで何も知らないかを再認識させられました。だからその暮らしの当たり前を少しずつ体験していく。小さな積み重ねですが、気づいたら生きる力がレベル0からレベル100に高まっていた、というところに持っていきたいですね。
(トップ画像)撮影:戸田耕一郎
■三上奈緒(みかみ・なお)さんのプロフィール
旅する料理人。東京農業大学卒。日本各地にて「顔の見える食卓作り」をする。旅先にて生産者を訪問し、その場で集まった食材で料理をするのがライフワーク。焚き火を囲み、自然の恵みを料理して、一つの食卓を作る喜びを。食卓から未来を想像する Around the fire プロジェクト開始。
https://www.naomikami.com/
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