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サステナブルバトン2

「サトウキビストローを販売するだけでなく、回収し堆肥化までが本質」4Nature代表・平間亮太さんが取り組む、人と人とのエシカルなつながり

サステナブル・エシカル業界で活躍する人にバトンをつなぎインタビューする「サステナブルバトン」の2シーズン。前回の松丸里歩さんからバトンを受け取ったのは、4Nature代表取締役の平間亮太さん。100%植物性かつ生分解性のサトウキビストローの販売・回収・堆肥化する仕組みを構築する平間さんに、コロナ禍に加速したコミュニティ再生についてお話をうかがいました。
「“エシカル”という言葉を使うことで、抜け落ちてしまう何かがある」コミュニティ・コーディネーター松丸里歩さんが考えるエシカルのかたち 「エシカルを押し出すのではなく、コーヒーショップとしてできることを考えたい」オニバスコーヒー坂尾篤史さんが考える、エシカルの本質

●サステナブルバトン2-03

松丸里歩さんから平間亮太さんへのメッセージ

4Nature代表の平間さんとは「530week」というゼロウェイスト・イニシアティブの仲間として出会ってから、お仕事も人生相談も(笑)、多方面でお世話になっています。4Natureの取り組みは、私も参加しているコミュニティコンポストやCSALOOPなど、ワクワクしながら地域循環を生み出せる素敵なものばかり。そんな平間さんにバトンを渡し、記事を通して彼の頭の中を少しのぞけるのが楽しみです!

――海洋プラスチックごみ問題などが注目されるなか、生分解性のサトウキビストローが話題ですね。大手銀行勤務だった平間さんが、なぜ2018年に株式会社4Natureを設立し、サトウキビストローを扱うようになったのですか?

平間亮太さん(以下、平間): 銀行でできると思っていたことを、実現するのが難しいと感じたからです。僕が働いていた信託銀行のメインキャラクターは、ピーターラビットで、それにはちゃんと意味があります。作品の生みの親、ビアトリクス・ポターは、絵本などの売り上げをピーターラビットの世界を育んだイギリスの湖水地方の自然を守るために活用しました。自らの死後も保護できるようにと、信託基金を設立。ピーターラビットが好きな人たちが絵本などを買うことで、キャラクターたちが住む世界観を実際に守ることにつながっています。その仕組みがすばらしいなと思い、入行を決めました。

一方で、どの企業も最優先されるのは利益の追求、そして株主還元です。自分の思い描いていたものとの違いを考えたとき、資本主義という仕組みをきちんと知らないといけないと思いました。学び直す必要性を感じ、MBA(経営学修士)を取得するために留学を考えることになります。

――留学をして、気づいたことはありましたか?

平間: ところが、留学せずに起業をしました(笑)。ちょうどその頃、知人から「もうすぐこんな製品ができるよ」と紹介されたのが台湾のサトウキビストロー。直感的に、「売れそうだな」と思ったのが起業の動機だったので、発想はまったくサステナブルではないですよね(笑)。それから、人づてに飲食店を紹介していただき、関わっていくようになると、金融業界とは違う温かみのようなものを感じて……。その魅力にハマってしまいました。

サトウキビストローは、お客さんに気づいてもらうことも大切

――サトウキビストローは、ほかのエコアイテムとはどう違うのですか?

平間: まず、100%植物由来で、一定の条件下で水と二酸化炭素へと分解されます。分解後の 土壌への影響も心配ありません。また、産業廃棄物として処理されていたバガス(サトウキビを精糖化した際にでる残渣)とPLA(ポリ乳酸)で作られた、アップサイクル製品です。紙ストローなどと比べて、耐久性にも優れています。

また、見て触って、すぐにサトウキビストローだと分かる。実は、これが大事なんです。たとえば、従来のプラスチックストローと見た目や触り心地が似ていると、お客さんは気づきませんよね。お店側としては、環境にやさしいストローに替えたことをお客さんに気づいてほしいので、すぐに違いが分かるかどうかは重要なポイントです。

――サトウキビストローは回収もしていますよね。これは販売元からの要望だったのですか?

平間: 僕たちが勝手にやり始めました(笑)。今回、「サステナブルバトン」を渡してくれた松丸里歩さんも参加する、ゼロウェイストをコンセプトに活動する「530week」のメンバーと話し合うなかで、「回収までやるのが本質ではないか」と考えたからです。

東京にある100のカフェと循環サイクルの構築を目指す「TOKYO 100cafe Project」では、スペシャルティコーヒーを扱うカフェやロースターさんにご参加いただいています。スペシャルティコーヒーには、そもそもトレーサビリティやサステナビリティの考え方が組み込まれているので、サトウキビストローへの理解も得ることができました。お店に買っていただく際も、まず「いままでよりストローの仕入れ数を減らしましょう」という話からします。売り上げは減ってしまいますが、利益追求だけが「4Nature」の目的ではありません。

回収を始めてみてもっとも大変だったのは、お店が集めたストローを僕らがどう回収するか、ということ。スタート時は、自転車や電車に乗って僕1人で回収していました。45リットルのごみ袋いっぱいのストローをかかえて電車に乗ると、怪訝な目で見られて恥ずかしかったですね(笑)。

――それは大変でしたね(笑)。

平間: 困っていたら、「530week」の仲間が、「近所のお店に回収に行くよ」と協力を申し出てくれました。驚きましたが、ありがたかったです。店側にその旨を伝えたら「地域の人に来てもらえる方がうれしい」と好意的に受け止めてもらえました。ストローを回収するためのアプリ「NOAH」の開発も、「530w eek」の仲間のエンジニアに手伝ってもらいました。とにかくずっと周りの人に支えられっぱなしです。

回収を手伝うボランティアさんには、お店からコーヒー1杯を提供していただけることになったので、ごみの回収というより知り合いが立ち寄って、お茶していく感覚に近いのかなと。変にビジネスライクにならず、お互いに気持ちがいいと言ってもらえるのもよかったなと思っています。

――今後、「TOKYO 100cafe Project」はエリアや店舗数を拡充する予定ですか?

平間: お店側から「回収してくれるボランティアさんが見つからない」とか、「回収ペースが一定でないので困る」という話を耳にするようになったので、今のやり方を見直す時期に来ているのかなと。とはいえ、業者に任せるとコストもかかるし、人と人のつながりというこのプロジェクトのおもしろみが損なわれてしまいます。農林水産省などが認定している「食品リサイクルループ」という制度を活用できないか考えているところです。

東京・表参道でつくられた堆肥

コロナをきっかけに、コンポストとセットで販売することに

――2020年8月から、東京・表参道で、家庭から出た生ごみでできた堆肥を持ち寄り、野菜などを育てる「1.2 mile community compost」も始動しています。コロナ禍で新プロジェクトを立ち上げるのは大変だったのではないですか?

平間: そのコロナが鍵なんです。会社を始めたころは、回収への責任からサトウキビストローの個人販売は行っていませんでした。でも、コロナ禍で飲食店さんが自粛や時短をするかたわら、在宅ワークなどによる「巣ごもり需要」で、自宅でストローを使う人が増えました。

そのタイミングでLOFTさんから、サトウキビストロー販売のお話をいただきました。回収して、堆肥化するまでが弊社の事業だと思っているので、各ご家庭で堆肥化できる手軽なアイテムを探していたところ、福岡のローカルフードサイクリングがトートバッグ型「LFCコンポスト」を発売したことを知人から教えてもらいました。「おしゃれなトートバッグのなかで、ストローが堆肥化できそうだな」とうれしくなりました。そこでLOFTの店頭で、並べて販売してもらうようお願いしました。

ただ、次第に「LFCコンポスト」を使う都市部の方々から、できた堆肥をどう使えばいいか困っているという相談を受けるようになります。それを解決しようと考えたのが、「1.2 mile community compost」です。堆肥 を持ち寄る「コミュニティコンポスト 」があるのは表参道の「COMMUNE」。今年2月に第2期がスタートするなど、コミュニティが広がっているなと感じています。

――サトウキビストローをきっかけに、さまざまなコミュニティを創出しているのですね。

平間: そうなっているとうれしいです。僕の原点は、初めて「青山ファーマーズマーケット」で受けた衝撃。青空市に出店するために、農家さんとお客さんが集い、みんなが和気あいあいと楽しそうな姿を見た時です。うれしそうに食べ物をシェアしている人もいて、その光景に「街に必要なのは建物ではなく、人が交流する場所とコミュニティなんだ」と心に刺さりました。だからこそ、サトウキビストローを介して人が交流するところ=街を築いていけたらと思っています。

地元の千葉県佐倉市は、新興住宅街として発展したところで、親同士がコミュニケーションを取りながら地域が緩やかにつながっていたのを見て育ちました。家業は不動産屋なので、もともと街づくりに関心があったのだと思います。さらに、2年前の豪雨災害では、地元が以前と比べると街として機能していないのを目の当たりにして、あったはずのコミュニティが失われていることに危機感を覚えました。そこで、地元の公園を借りてファーマーズマーケットを立ち上げたところ、小学校の恩師や、地元を離れた同級生が足を運んでくれるようになりました。

生ごみからつくられた堆肥で、ミニトマト、ナス、キュウリなどの野菜を育てている

消費者と農家をつなげることで、グラデーションを緩やかにしたい

――コミュニティの再生も力を入れているのですね。サステナブルなプロジェクトを次々に展開する「4Nature」として、今後力を入れたいことを教えてください。

平間: いま一番力を入れたいと思っているのは、「CSALOOP(仮称)」です。頑張っている小規模の農家さんに消費者が先行投資をし、それをもとに農家さんは安心して農作物を作ることができ できた農作物は、支援した消費者に還元するという仕組みを応用した取り組みです。支援側である消費者も、自宅でできた堆肥を農家さんに預けて使ってもらうことができるので、土づくりという点では生産者にもなります。生産者である農家さんと、消費者とのグラデーションをできる限り緩やかにしたいのです。

現在、実証実験中ではありますが、消費者が農家さんのお手伝いをする取り組みも進めています。それによって、都市で生活する消費者も完全に生産者の側になれます。イメージとしては、ラフな兼業農家。

さらに、流通も変えて行きたいと思っています。千葉の豪雨では、スーパーマーケットにモノがなくなりました。佐倉市周辺は田畑が多く、野菜がないなんてことはありえない。にもかかわらず、僕ら消費者は農家さんとのつながりがないために、すぐ近くにあるはずの野菜を買うことができませんでした。それはおかしいと思ったし、もっと地産地消ができる仕組みができたらいいなと。

――経済の語源と言われる「経世済民(世を治めて人々を救う)」を思い出しました。

平間: そんなに大それたことはできないけれど、「4Nature」の価値観として大事にしているのは、「なんかいいよね」を入り口に、経済合理性を作りだし、それをカルチャーにしていく3ステップ。この先、サトウキビストローよりもいいものがあれば、僕らはストローを売り続けていく意味や意義はないと思っています。おいしい、たのしい、愛おしいなど“心躍る”ことを大事にしたいですし、それを重視するとできることも限られ、すべてがゆっくりになります。スピードを優先すると、人との関わりがおろそかになり、取り残される人も出てきます。さらに、カルチャーも生まれにくくなりますね。緩やかなスピードでもいいと言ってくれる人を増やし、その人たちが求めることに応じて、僕らにできることを丁寧にやっていきたいですね。

「“エシカル”という言葉を使うことで、抜け落ちてしまう何かがある」コミュニティ・コーディネーター松丸里歩さんが考えるエシカルのかたち 「エシカルを押し出すのではなく、コーヒーショップとしてできることを考えたい」オニバスコーヒー坂尾篤史さんが考える、エシカルの本質
ライター×エシカルコンシェルジュ×ヨガ伝播人。出版社やラジオ局勤務などを経てフリーランスに。アーティストをはじめ、“いま輝く人”の魅力を深掘るインタビュー記事を中心に、新譜紹介の連載などエンタメ~ライフスタイル全般で執筆中。取材や文章を通して、エシカルな表現者と社会をつなぐ役に立てたらハッピー♪ ゆるベジ、旅と自然Love
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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