「エシカルを押し出すのではなく、コーヒーショップとしてできることを考えたい」オニバスコーヒー坂尾篤史さんが考える、エシカルの本質
●サステナブルバトン2-04
平間亮太さんから坂尾篤史さんへのメッセージ
ONIBUS COFFEEの坂尾さんは、間違いなくスペシャルティコーヒー業界を牽引してきた立役者の1人なのですが、本人はそんな素振りを一切見せずに、何よりもチームを大事にしていてるところがとってもかっこいいんです。ONIBUS COFFEEさんは坂尾さんを筆頭にスタッフのみなさん一丸となって、コーヒーショップとしての本質をブラさずに新たな取り組みに挑戦していく姿勢がとても上手だと思っており、今回の記事でその秘訣の一端が垣間見れることを楽しみにしています!
旅先で出会った、人が自然と集まるカフェ
――2012年に東京・世田谷区に「ONIBUS COFFEE Okusawa」をオープン。以来、都内に4店舗とベトナムに1店舗を展開するなど、コーヒー好きが集まる人気店に成長しました。そもそも、坂尾さんがコーヒーショップをオープンしようと思ったきっかけは?
坂尾篤史さん(以下、坂尾): 2006年に3か月くらいかけて、オーストラリア東海岸エリアをバックパッカーで旅したことがきっかけです。それまでは普通にコーヒーが好きという程度で、当時ブームだったおしゃれなカフェへ休日に出かけたりしていましたね(笑)。ところが、シドニーやメルボルンのカフェは、たまに“出かける”おしゃれな場所ではなく、もっと気軽な場所。カフェに寄って1日が始まるのが、新しく感じました。どの店も、コーヒーがおいしかったのが衝撃的でした。
――カフェやコーヒーが、暮らしに溶け込んでいると感じたのですか?
坂尾: そうですね。雰囲気も気取っていないし、ふらりと立ち寄れるよさがあるなと。その後、アジアを1年ほどかけて旅したときも、それぞれの街で足を運んだのがカフェでした。まだコーヒーよりお茶文化が強かったのですが、カフェに行くとその街の情報を得られる。カフェに行けば、次に何をするかヒントが見えてくるんです。日本でも、おいしいコーヒーが飲めて、そこに行けば何かしらの情報が得られる場所をつくりたいと思い、帰国後コーヒーの勉強を始めました。
――店名の「ONIBUS」はポルトガル語で、「万人のために」という語源を持ち、公共バスを意味するそうですね。まさに坂尾さんが旅で得た思いを込めているのですか?
坂尾: 人が自然と集まるようなコミュニティができる場所を目指し、名付けました。僕はコーヒーショップを社会インフラのひとつととらえていて、カフェがあることで、その街の価値や豊かさのレベルを底上げできるような存在になりたいと思っています。
オープンからもうすぐ10年。出店計画は焙煎機次第
――「ONIBUS COFFEE」はお客さんが絶えない人気店になりました。これまでで苦労したことは?
坂尾: 最初の店を出した2012年当時は、自家焙煎の浅煎りのコーヒーをエスプレッソマシーンで出す店が日本にほぼなかったので、それを説明してお客さんに理解してもらうのが一番大変だったかもしれません(笑)。当時は、有名チェーン店のコーヒーか、行きつけの喫茶店で飲むようなコーヒーの味をイメージしている方が多かったので、うちのコーヒーを飲むと、味の違いに驚く方が多かったです。
その後、コーヒーブームが来て、雑誌などで取り上げられるようになり、認知してもらえるようになりました。渋谷・道玄坂に「ABOUT LIFE COFFEE BREWERS」を出したころから、徐々にファンも増え、実現できることも増えてきたなと感じます。
――そのひとりが、今回バトンを繋いでくれた平間亮太さんですか?
坂尾: 平間さんと出会ったのは3年ほど前。飲食店向けのサステナブルな取り組みに関するイベントで会いました。そこでサトウキビストローの存在を知り、店で使いたいと声をかけたんです。その後、同業者の知人に引き合わせていくうちに親しくなって一緒に活動するようになりました。彼が手がけているプロジェクト「1.2マイルコンポスト」では、第1回のスピーカーとして、コミュニティの中で循環させる方法やサプライチェーンについて話しました。
――実際に店舗を増やす計画は、どのように立てていくのですか?
坂尾: 大手だと前々から綿密に計画を練るのでしょうが、個人店なので焙煎機次第で店を増やしているところがあります。
――焙煎機次第とは、どういう意味ですか?
坂尾: 機械によって、一度に焙煎できる量は決まっています。奥沢で焙煎していた時は小さな焙煎機だったので3キロでしたが、現在八雲店には、22キロと12キロ焙煎できる焙煎機を置いています。焙煎できる量が増えれば、「そろそろ次の店を考えようかな」という感じでお店が増えていきました。
現地のコーヒー豆農家を訪ねて透明性を担保
――焙煎へのこだわりについて教えてください。
坂尾: 僕らが目指すのは「コーヒーが持つ味わいを100%に近い状態で引き出す」こと。そのため、コーヒーを飲みながらディスカッションします。毎週火曜日に1週間分を焙煎するので、それぞれを味わい比べておいしいものを選び出し、そのレシピを共有します。味覚や嗅覚は非常に繊細なので、みんなが体調管理にも気をつけています。いつでも同じ最高の味わいにするために、生活もあらたまった気がしますね。
――自家焙煎するコーヒー豆は、どのようなものを扱っていますか?
坂尾: 僕らが扱う「スペシャルティコーヒー」は、豆の品質はもちろん、サステナビリティやトレーサビリティも重視したコーヒーです。生産する農家さんを知るために、できるだけ現地を訪ねています。昨年からコロナで海外へ行けなくなってしまいましたが、それ以前は扱う豆の約90%は、どんな環境でどんな人たちが作っているのか実際に確かめて、透明性を担保してから購入していました。
――視察を続けることにどんなメリットがあるのですか?
坂尾: 仕事に対するモチベーションが上がるくらいかな(笑)。2013年に初めて視察に行ったのですが、当時は素材にこだわるレストランのシェフが、自分の料理に使う野菜を畑まで見に行くのと似た感覚でした。ただ、野菜と違ってコーヒー豆は個人で現地を視察するのが難しいので、商社の方と数人で行っています。
――実際に現地に足を運んで感じることとは?
坂尾: コーヒー豆やチョコレートの原料・カカオ豆などは、生産地ではなく先進諸国で消費されます。コーヒー農園で は労働環境や賃金の支払い方法が不透明だったり 、 環境への配慮がされていなかったりするケースも多いので 自分の目で 見て透明性を高めたかった 。近年は、教育や労働環境に力を入れる農園も増えつつあり、 できる限りどういった環境で生産されているかを 確認 した農家さん と取引できるとほっとします。コーヒーショップでできることは小さいかもしれないけれど、コツコツと積み重ねていくことを忘れずにいたいですね。
社内にサステナブル担当も
――1杯のコーヒーはまるで社会の縮図ですね。ほかには、どのようなエシカルな活動をしているのですか?
坂尾: 昨年から、社内にサステナブル担当を置きました。店頭でコーヒー豆の量り売りを一部始めたのは、担当者のアイデアです。ほかにも最新の情報をアップデートしてくれています。
さらに、八雲店の1階フロアを、酒蔵を解体した廃材でリメイクしました。ただ、サステナブルやアップサイクルが注目されているせいか、その文脈での取材がどっと増えてしまって(笑)。サステナブルを押し出して成功したとしても、そういう店が街を豊かにするとは僕は思えません。僕らはあくまで、カフェとコーヒー豆の販売が生業。サステナブルやエコを前面に押し出すのではなく、コーヒーショップとしてできることをコツコツとやりたいと思っています。
コーヒーを知れば知るほど、環境への負荷について考えさせられます。問題が多いからこそ、できることもたくさんあるので、まずは自分の「消費」についても変えていきたい。そして、来てくださった方たちも、もっと環境に意識が向くようなお店にしたいですね。
――環境への取り組みにつながる商品や取り組みにはどのようななものがありますか?
坂尾: 店で大量に出てしまう、コーヒーかすの再利用を行っています。たとえば、COFFEE FREAK PRODUCTSとコラボした「コーヒー石鹸」もそのひとつ。東京・三鷹にある鴨志田農園などに協力していただき、コーヒーかすから培養土を作り「コーヒー培養土」として販売も始めました。
実は、今年の年末か年明け頃に、自由が丘にブランチカフェスタイルの新店舗をオープンする予定です。その店舗では、コンポスティングしてごみを減らす取り組みを行う予定で、それを平間さんに相談しているところです。彼が関わっている「コミュニティコンポスト」と連携すれば、地域ともつながれるし、彼と繋がりのある農家さんに堆肥を渡して野菜を育ててもらう……という循環も生まれるんじゃないかと。新店舗がオーガニックなつながりの起点、よりどころになれればいいなと思っています。
■坂尾篤史(さかお・あつし)さんのプロフィール
オーストラリアでカフェの魅力に取りつかれる。会社員を経て約1年のバックパックを経て帰国後、バリスタ世界チャンピオンの店でコーヒーの修業。焙煎やバリスタトレーニングの経験を積み、2012年に独立し、奥沢に『ONIBUS COFFEE』をオープンした。その後もルワンダ、エチオピア、グアテマラ、ホンジュラスなどに直接足を運び、食材の透明性をより明確にし、農園とのサスィテナブルな関係を築き上げている。
ONIBUS COFFEE
- ■サステナブルバトン2
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