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わたしと未来のつなぎ方

売れ残りの花を廃棄せず再生させるフラワーショップ「ew.note」

色とりどりの美しい花々、ボトルに鎮座する可憐なドライフラワー、たおやかなペーパーフラワー……。「ew.note(イーダブリュー.ノート)」の店内にはいつもさまざまな花があふれ、私たちの心をワクワク弾ませてくれます。手がけるのは、花を用いた多彩なアイデアを提案するクリエイティブチーム、「edenworks(エデンワークス)」。チームを率いながら、フラワークリエイターとしても活躍する篠崎恵美さんにお話を伺いました。

●わたしと未来のつなぎ方 18

母の暮らしぶりの影響で、花を仕事に

ニュウマン新宿の2階を歩いていると、カラフルでセンスのいい花たちがパッと目に飛び込んでくるエリアがある。近づいてみると珍しい形の花や、あまり見かけない花もあって、見れば見るほど楽しい! こちらは2021年3月にオープンしたフラワーショップ「ew.note」。小売りから店内装飾、雑誌やブランドとのコラボまで、さまざまな形で花にまつわる創作を行うチーム「edenworks」が手がけている。

名前を聞いて、ピンときた方もいるかもしれない。そう、彼らは知る人ぞ知る人気集団。週末だけオープンする東京・代々木上原のフラワーショップ「edenworks bedroom(エデンワークス ベッドルーム)」、富ヶ谷のドライフラワーショップ「EW.Pharmacy(イーダブリュー.ファーマシー)」など、いくつかのショップやアトリエを運営している。

代表の篠崎恵美さんが花を仕事にするようになったのは、服飾の専門学校でアパレルを学び、そのままアパレル会社に入社して半年が経ったころ。たまたま立ち寄った花屋の雰囲気がどこか懐かしく感じ、その場でそのショップへの転職を決意した……というとずいぶん行き当たりばったりのようにも聞こえるが、実はその背景にはある思いがあったと篠崎さんは振り返る。

「私は地方のさほど裕福でもない家の出身なのですが、母は花が好きで、庭で摘んだ花を家中に飾っていたんです。だから私にとっても、日常に花があるのは当たり前だった。東京で一人暮らしを始めてからずっと、どこか心寂しくて、家がからっぽのような感覚を味わっていたのも、たぶんそこに花がなかったから。あの日、立ち寄った花屋の空気感は実家のムードにどこか似ていて、『ここにいたい』と強く感じたんですよね」

代表の篠崎恵美さん。生花やドライフラワーでさまざまなクリエーションを行うほか、近年はペーパーフラワー制作にも注力。「温かみのある手作りのアイテムを通して、ものを大切にすることの尊さを伝えたい」と語る

売れない花を廃棄するのは、人間のエゴ

花屋で6年半ほど働きながら経験を積んでいくなかで、ひとつだけ、どうしても慣れない仕事があった。それは、傷んだ花や売れ残った花を捨てること。

「これも母の影響なのですが、彼女はいただきものの花や記念の花をドライフラワーにしていつまでも飾っておくタイプ。おかげで私にも、花を大切にするという感覚が染みついていて。花を売る側にとっては花を処分するのも仕事のうち、とわかってはいましたが、『自分の都合で仕入れた花という生き物を、売れないから捨てるのは人間のエゴ』という抵抗感は拭い去れませんでした」

その葛藤から、09年に独立。必要な分だけを仕入れ、花を使い切ることをモットーに、「edenworks」として店舗やイベントなどの装飾の仕事や、週末のみオープンするフラワーショップ「edenworks bedroom」を手がけるようになる。そんななかであらためて感じたのが、消費者側にも花を捨てることに罪悪感を持っている人は多いということ。

「ドライフラワーにして、長く飾りたいとおっしゃる方もたくさんいらして。ならば、より美しいドライフラワーを作れないものかと考えるようになりました」

季節のドライフラワーを詰めてフレグランスで香りづけしたボックス、切手を貼ってこのまま投函できる再生プラスチック入りのドライフラワー、押し花を装飾したミラーなど、生花を再利用したアイテムも並ぶ

捨てられるものを喜びへと変える新技術

やがて、花を特殊な機械で急速乾燥させる技術にたどり着き、まるで生花のように鮮やかな色を保つドライフラワーを作ることに成功。ガーベラやチューリップなど、水分量が多く通常はドライフラワーに向かない花も、このやり方なら見事なドライフラワーにできる。さらに、湿気や虫から守るために、パッケージに入れて密封する新たな販売方法も考案。17年には、好きなドライフラワーを選び、オリジナルのパッケージを作れるドライフラワー専門店「EW.Pharmacy」をオープンした。

「この技術があれば、ちぎれた花びらや折れた葉っぱといった、捨てるしかなかったものも美しい押し花に加工できます。それらを装飾にあしらったコンパクトミラーなどを新商品として開発することで、『フラワーロス』をさらに減らせるようになりました」

これまでは余った花を捨てるのが嫌で、生花の販売に関しては週末限定でできるだけ売り切るスタイルを貫いていたが、毎日オープンする「ew.note」を立ち上げられることになったのは、この技術のおかげだという。仮に花が売り切れずに余ったとしても、無駄にしないで済むからだ。

「普段は捨てられてしまうものや余っているものを、喜びに変える。そのアイデアを捻出するのが私たちプロの仕事だと思っています」

ニュウマン新宿2階の女性用トイレには、篠崎さんが手がけたペーパーフラワーアートが。ペーパーフラワーは「ew.note」でも購入可能。日本原産の紙を用いた日本人の手作りならではの繊細な風合いは、海外でも人気

こんなときだからこそ、日常に花を

「edenworks」のこれまでの店舗が営業形態や立地の関係で、限られた人しか触れる機会がなかったのに対し、「ew.note」は新宿駅を出て目の前という利便性の高い場所。「コロナ禍で不安を抱えながら生きる人々の心に、花を通してそっと寄り添いたい。少しでも鮮やかな日々を過ごしてほしい」という願いのもとに誕生したこのショップは、幅広い世代が立ち寄り、スタッフとの会話を楽しみながら、日常の花や少し特別な日のための花を買っていく、そんなちょっとしたコミュニティーのようなスポットになっている。

最後に篠崎さんに、私たち消費者が購入した花をどうしたら長く大切に扱えるか、コツを教えてもらった。

「生花は毎日水替えをし、そのつど茎の先を少し切ると長持ちするのはよく知られていますが、その他としては、水の深さに注意すること。枝ものは吸い上げが弱いので深水、茎が太いものは水中部分が弱りやすいので浅水にするのがポイントです。また、暗くて涼しいところのほうが長持ちするので、出かけるときは暗い場所に移動させるのがベスト。ドライフラワーは日差しと湿気を避けて、カビや退色を予防しましょう」

店内は開かれたスペースで入りやすい雰囲気。「ew.note」という店名には、ノートに気ままに絵を描くように、訪れた人とスタッフとが一緒に自由に色を重ねていってほしい、という思いが込められている

Text: Kaori Shimura Photograph: Ittetsu Matsuoka Edit: Sayuri Kobayashi

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