トラウデン直美さん「環境にも自分にも嬉しい選択を」。サステナブルも気負わずに
●サステナブルバトン4-8
伝え方の難しさに直面も
――2020年から環境省のプラごみゼロアンバサダー、2021年からはサステナビリティ広報大使を務めていらっしゃいますね。
トラウデン直美さん(以下、トラウデン): 2012年からモデルとして出演している「東京ガールズコレクション」の代表の方が、「SDGsについていろいろ発信している子がいる」と、当時の環境大臣だった小泉進次郎さんにご紹介くださったのがきっかけでした。「プラごみゼロアンバサダー」としてCMに出演させていただいたり、肩書ができたことでこうして取材を受けたりする機会も増えました。
ちょうど、そのころからSDGsが盛り上がってきたので、そうした話を求められるようになったのかなと感じますね。ただ、私自身が口にすることや実践していることは、それ以前とあまり変わりはないんです。もともと面倒くさがりなので、そんな私でも日々できることを広めて欲しいという期待を込めた肩書なのかなと受け止めています。
――2020年12月、首相官邸で行われた「2050年カーボンニュートラル・全国フォーラム」での発言が注目を集めましたね。
トラウデン: ニュースなどで取り上げられ、SNSでちょっとした物議をかもしたことに正直驚きました。そのフォーラムには、菅首相ほかノーベル賞受賞者の吉野彰さんや、経団連の杉森務副会長らも出席していて、私は若い世代のひとりとして、「好きな洋服や少し値の張るお買い物をするときに、環境に配慮した商品かどうかを尋ねてほしい」という趣旨の発言をしました。日ごろから思っていたことを口にしただけでしたが、批判の声も多く寄せられました。
ニュース映像を見て、「これでは誤解を生んでも仕方がない。もう少し伝え方を考えるべきだったかも」と思いましたね。ニュースではスーパーの映像とともに、「買い物をする際、店員さんに『環境に配慮した商品ですか』と尋ねることで、店側の意識も変わっていく」といった、私の発言が画面に映しだされていたんです。私だって、忙しいスーパーやコンビニの店員さんに、いちいち確かめたりはしません。テレビでは、切り取られ方でうまく伝わらない難しさを実感しました。でも、あの発言が良くも悪くも注目されたことで、ひとりでも多くの方が環境に対して考えるきっかけになったのであれば、結果的にはよかったのかなと今は思っています。
「主語を大きくしない」を意識
――TBS「news23」やBSテレ東「日経ニュース プラス9」など、多くの報道番組や情報番組に出演しています。テレビで発言する際に大切にしていることは?
トラウデン: どの番組でも、「主語を大きくしない」ことを意識しています。例えば、「日本人は~」とか「女性が~」ではなく、「私は」とか「私の周りでは」など、自分に引き寄せて発言します。ただでさえ、エシカルやSDGsを語ると“意識が高い”とか言われがちですし、主語が大きくなると何となく偉そうに聞こえてしまうんですよね。見た目的にも「なぜあなたが日本人を語るの」って誤解を招きやすい……。それに関しては思うところもありますが、私は大きな主語で語るのが得意ではないと経験を積むうちにわかってきました。
世代が近い人の中には、SNSで自分の考えを上手に伝えている人もたくさんいます。Instagramを見て、「私もこんなふうに発信してみたい」と憧れ、実際に試した時期もありました。でも、それが自分でびっくりするほどストレスになってしまったんです。テレビは複数の出演者からいろんな意見が聞けるので、「私はこう思う」とか「私だったらそうしたい」と気づきも生まれます。生放送は時間が限られ、思いを伝えるのは難しいですが、前後の打ち合わせを含めて私にとって力をいただく大切な時間ですね。
――今回この連載「サステナブルバトン」のバトンを繋いでくださった高橋あず美さんとは、どんなきっかけで知り合ったのですか?
トラウデン: 高橋あず美さんは4年ほど前、脳科学者の茂木健一郎さんと私がMCを務める「クリエイターとその愉快な仲間たち」(ディスカバリーチャンネル「IMAGINEZ大学」内コンテンツ)に、ゲストとして出演してくださったんです。以来、一緒にお食事したり、彼女のライブを拝見したりと親しくさせていただいています。大好きな友人なので、声をかけてもらえてとても嬉しかったです。
――今では、SDGsを9割以上の人が認知しているという調査結果も発表されました。トラウデンさんは高校生のころ、すでに環境問題に対して強い関心があったそうですね?
トラウデン: 私が通う高校で、環境問題を取り上げる授業があり、いろんな映像を見たり、研修旅行でドイツに行ったりしたため、自然と関心が持てたんです。最初、環境を破壊するような衝撃的な映像を見たときは、かなり絶望的な気持ちになりました。私はずっと「いつか子どもを持ちたい」と強く思っており、自分の子どもにこうしたことを残したくないとすごく思いましたね。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが15歳で始めた「Fridays for Future」に賛同する10代がたくさんいたのも、私と似た危機感があったからではないでしょうか。
その後、研修旅行でドイツに行き、少し明るい気持ちになれました。ヨーロッパの環境配慮の取り組みって、クールでかっこいいんですよ。私が一番驚いたのは、おしゃれな黄色い壁の家を見たときです。青黒いパネルがついていて、「かっこいいデザインだな」と思って近づいたら、なんと太陽光パネルでした。かっこよく環境へ良いアクションができると知って、ワクワクしましたね。
本当に欲しいものを厳選
――ファッション業界は世界で2番目に温室効果ガスを出す産業と言われています。モデルとして活動する中で、葛藤はありませんでしたか?
トラウデン: それを知ったときはすごく悲しかったし、自分のしていることが罪に思えてしまい途方にくれました。でも、好きだから続けたいと悩んだ末、私なりにできることをしていこうと思いました。大学生になって親元を離れたことで、「私1人が生きるだけで、こんなにごみが出るのか」と実感したのも、大きなきっかけでしたね。
当時、学業と仕事の両立でとても忙しく、環境に配慮したいと思いながら、アクション出来ないことも。たとえば、使い捨てのプラスチックがたくさん出てしまうお弁当を食べながら、「ゴミがたくさん出るなあ」「このまま続けていたらすごい量になってしまうなあ」って考えていましたね。その時の記憶があるから、自分が気分よく過ごせるエシカルなものを選ぶようになったのかもしれません。
この連載の第1回に登場した、末吉里花さんがよくおっしゃっているように「買い物は投票」だと思うんです。たとえば、今日持参したマイボトルは数年使っているお気に入りです。その日の気分に合わせたお茶を持ち歩けるし、たっぷり入るサイズでドリンクを買い足さなくても済むため、お財布にも優しいんです(笑)。素材はプラスチックですが、プラスチック=悪ではなく、使い捨てが良くないと思うんですね。
どんなに環境に配慮した素材の服も、すぐに廃棄してしまったらごみになりますよね。なので、モデルですがファッションの展示会にほとんど行きません。その代わり、インターネットで購入することが増えました。気になったものを「欲しいものリスト」に入れ、何カ月か経ってからまた見直すんです。それでも欲しいものだけを厳選して買うようになった結果、無駄遣いも減りました。そんなふうに、環境に加えて自分にも嬉しい選択をしていますね。
――モデルを続けていることと、こうした活動は相互にいい影響を及ぼしているのでは?
トラウデン: そうですね。雑誌「CanCam」で2020年からスタートした連載「トラウデン直美と考える私たちと『SDGs』」は、その最たるものだと思っています。ファッション誌の中で、エシカルに関する発言の場が持てたことで、「これまでの両方の活動を評価していただけたのかな」と自信にもなりました。担当編集者の方と相談しながら、例えばフェムテックとか、政治、貧困、アートなど、私がいま気になっている多岐にわたるテーマを積極的に提案しています。
例えば、最近は「インティマシー・コーディネーター」という存在について学びました。映画やドラマで性描写を撮影するときに、演じる方が心身に負担のないようにサポートするお仕事だそうです。近年、そうした取り組みが始まったばかりということに驚きました。SDGsは生き方に大きくかかわる考え方なので、さまざまな知識が吸収できることも私には大きな魅力だと感じます。
その連載ではエシカルな企業の服を選んで身に着けているのですが、「好きなものを厳選し、安易にすぐ買わない方がいい」という考え方は、ファッションブランドに嫌がられるかもと不安もありました。でも、実際にお話を伺うと私の考えに賛同してくださる企業さんも多く、とても嬉しくなりました。今日の服もその連載で着用した古着です。とても素敵だったので、購入させていただき大事に着ています。
子どもたちが困らない未来のために
――今後、より深く取り組みたいことや挑戦したいことは?
トラウデン: 人と話すことが好きなので、取材や対話を通じて気になる事柄を掘り下げたいですね。朝日新聞社のウェブサイト「&」では「Morinnov.」という特集を担当していて、王子ホールディングスさんの所有する森を訪れ、生物多様性や再生可能なものづくりについて見たり、感じたりできたことはとても楽しかったです。また、今年10月の「朝日地球会議2023」では、さまざまな分野の方からお話を聞き、最先端の情報を得られたこともよい刺激になりました。現場に足を運び、人の話を伺いながら、それらがこの先どうなっていくかを考えることが、まさに私がやってみたいことなんです。なかには消えるものもあるでしょうし、残るものもあります。その違いを見極められる目を養いたいですね。
また、子どもたちがのびのびと生きられる社会についても考えたいと思っています。そもそも、環境問題やSDGsに関心を持ったのは「未来の子どもたちに負の遺産を残したくない」という気持ちから。私自身、小学生のころ学校に居場所がないと感じていて、そんな私には馬と触れ合えるポニーキャンプが心地よい場所でした。子どもたちにとって居心地が良いと感じられる場所が学校以外にもあると安心できるし、未来に希望を持てるようになるのかなって。まだ具体的なイメージはありませんが、そうした居場所を作りたいという思いはずっと持っています。
――では、最後にトラウデンさんにとって、サステナブルとは?
トラウデン: ずっと言い続けていることですが、「自分と自分が大事な人たちが幸せでい続けられる空間を作ること」だと思います。そうした思いやりの輪がつながり、世界中に広がっていくといいなと夢見ています。だって、たとえ国同士がいがみ合っていても、人としては隣人だったり、友達だったりすることも多いと思うんです。
また、一人一人が自分の大事な人と幸せに過ごし、寿命を全うするには、地球温暖化や環境破壊が進んで地球が壊れてしまってはだめですよね。人が持つ想像力を働かせて、隣の人が困らないためにはどうすべきかを考えていくと、世の中がいい方へ変わっていけるんじゃないかなと思っています。
実はそれって、そんなに難しいことではないと思うんです。私だったら「小さな子どもならどう考えるかな」って想像するようにしています。たとえ戦争や紛争をする理屈をたくさん並べられたとしても、子どもならすぐに「人を殺すのは絶対にいけないことだよ」って答えると思うんです。難しかったり分かりにくかったりする問題ほど、子どものようにシンプルに考える。そこに、持続可能な未来へのヒントがあるのかなって思うんです。
●トラウデン直美(とらうでん・なおみ)さんのプロフィール
1999年生まれ、京都府出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。ドイツ人で哲学博士の父と帰国子女の母のもと、夕飯時に夜7時のニュース番組を見ながら家族でディスカッションするなかで社会問題への関心が育まれた。2013年度ミス・ティーン・ジャパンでグランプリを受賞、同年より13歳という最年少でファッション誌「CanCam」専属モデルに。現在、多数のテレビ番組でMCやコメンテーターとして活躍。弟はモデルで俳優のトラウデン都仁。
- ■サステナブルバトン4
#01 毎日のごはんから感じるしあわせ 菅野のなさんが伝える素朴だからこそ奥深い料理
#02 長く愛せて顔が見える服づくり 会津木綿で受注生産を続ける山崎ナナさん
#03 郷土料理の魅力を残したい。料理家・写真家minokamoさんが伝える食文化の奥深さ
#04 一番身近なものは、心地よさにこだわりたい。デザイナー荒川祐美さんの考える豊かなくらし
#05 環境にも体にも優しく美しく。YOKO KOIKEさんの手掛けるヴィーガン料理。
#06 美しさとサステナブルが両立するデザインに挑戦 空間演出家・稲数麻子さん
#07 乗鞍高原の自然をいつまでも。シンガーソングライター高橋あず美さんが主催する「自然にやさしいフェスティバル」
#08 トラウデン直美さん「環境にも自分にも嬉しい選択を」。サステナブルも気負わずに
- ■サステナブルバトン3
#01「”賞味期限”から解放されよう」食品ロス問題ジャーナリスト井出留美さん
#02 アフリカのバナナペーパーで環境と貧困対策を実践 エクベリ聡子さん
#03「AFRIKA ROSE」萩生田愛さん ケニアのバラが紡ぐフェアトレードの絆
#04 「10着のうち1着はサステイナブルに」。スローファッションを提案する「Enter the E」植月友美さん
#05ソーシャルオーディター・青沼愛さん 「ラナ・プラザの悲劇」を繰り返さないために
#06 350年続く老舗酒蔵に生まれ、酒の飲めない寺田聡美さん 酒粕で発酵食品作り
#07 てぬぐいカフェから盆踊りまで 瀬能笛里子さんが鎌倉で実践する”和の豊かな暮らし”
#08古着物を「野良着」にアップサイクル 日常生活に採り入れ、魅力を発信 鈴木早織さん
#09ハンドメイドマルシェで、女性たちと地域の輪をつなぐ齋藤直美さん
#10光の演出で包み込む デザイナー迫田悠さんが手掛ける映像空間の魅力
#11子ども向けバイリンガル劇団を主宰する草野七瀬さん。国籍も言語も越え自由で平和な表現空間を
#12柔軟な働き方を選べる社会を目指すPolaris市川望美さん。「シゴト軸のコミュニティ」も構築
- ■サステナブルバトン2
#01留学で気づいた「ファッションを通した社会貢献」。徳島県上勝町でゼロ・ウェイストに取り組む、大塚桃奈さんの新たな挑戦とは
#02「“エシカル”という言葉を使うことで、抜け落ちてしまう何かがある」コミュニティ・コーディネーター松丸里歩さんが考えるエシカルのかたち
#03「サトウキビストローを販売するだけでなく、回収し堆肥化までが本質」4Nature代表・平間亮太さんが取り組む、人と人とのエシカルなつながり
#04「エシカルを押し出すのではなく、コーヒーショップとしてできることを考えたい」オニバスコーヒー坂尾篤史さんが考える、エシカルの本質
#05 旅する料理人・三上奈緒さん「旅する理由は自然の中に。答えは自然が教えてくれる」
#06「自然はとても複雑で答えはひとつではない」アーティスト勅使河原香苗さんが自然から学んだこと
#07「サーキュラエコノミーとは心地よさ」fog代表・大山貴子さんが考える、循環型社会とは
#08「関わるものに、誠実に素直に対応できているか」株式会社起点代表・酒井悠太さんが福島県でオーガニックコットンを栽培する理由
#09 英国発のコスメティクス「LUSH」バイヤー・黒澤千絵実さんが魅了された「美しい原材料」の考え方
#10「心地よい空間は、他者を思いやることから」。ダウン症の人の感性を発信し、居場所作りを進める佐藤よし子さん
#11森を豊かに、自分も心地よく。森林ディレクター奥田 悠史さんが描く森の未来図
#12 ハチドリ電力の小野悠希さん「一人が出来ることは決して小さくない」地球温暖化を止めるため「最も大きなこと」に挑戦
- ■サステナブルバトン1
#01 「消えゆく氷河を前に、未来のために今日の私にできることを考えた」エシカル協会代表・末吉里花さん
#02 「ファストファッションは悪者? そうじゃないと知って、見える世界が広がった」エシカルファッションプランナー・鎌田安里紗さん
#03 「薬剤やシャンプーはすべて自然由来。体を壊して気づいた、自然体な生き方」ヴィーガンビューティーサロン美容師・中島潮里さん
#04「“地球に優しい”は、自分に優しいということ」エシカルコーディネーター・エバンズ亜莉沙さん
#05「花屋で捨てられていく花たちを、どうにかして救いたかった」フラワーサイクリスト・河島春佳さん
#06「花の命を着る下着。素肌で感じるサステナブルの新しいかたち」草木染めランジェリーデザイナー小森優美さん
#07「家庭科で学ぶエシカル。サステナブルな未来は“やってみる”から始まる」高校教諭・葭内ありささん
#08「ふぞろい野菜、瓶に詰めたらごちそうに。自然とつながる“おいしい”の作り方」ファームキャニング代表・西村千恵さん
#09「世界を9周して気づいた、子どもを育てる地域コミュニティーの大切さ」一般社団法人「そっか」共同代表・小野寺愛さん
#10「エシカルとは“つながっていること”。人生の先輩たちの生活の知恵を残していきたい」一般社団法人はっぷ代表・大橋マキさん
#11「庭で見つけた“発見”を作品に」変化し続けるアーティストasatte羽田麻子さん
#12「自分で自分を幸せにしてほしい」TOKOさんが考えるヨガとエシカルの関係
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第85回乗鞍高原の魅力をいつまでも。高橋あず美さんが主催する「自然にやさしいフェ
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第86回コーヒーの出し殻がビールに! 「VERVE COFFEE ROASTER
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第87回トラウデン直美さん「環境にも自分にも嬉しい選択を」。サステナブルも気負わ
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第88回地域課題の解決と循環に挑むセレクトショップ「フリークス ストア」
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第89回古着で表現する自分らしさ。「DEPT」オーナー・eriさん、使い捨て生活