アフリカのバナナペーパーで環境と貧困対策を実践 エクベリ聡子さん
●サステナブルバトン3-2
サステナビリティを具体的に伝えたい
――エクベリさんが代表を務める「One Planet Café」は、どのような会社なのですか?
エクベリ聡子さん(以下、エクベリ): 環境、サステナビリティをテーマとしたコンサルティングなどを行う会社で、2012年に起業しました。事業の柱は「Talk」「Show」「Do」の3つ。サステナビリティをできるだけ具体的に伝えるため、各地で行っている講演が「Talk」。サステナビリティが社会に浸透している現場を見ていただきたいという思いから、先進国スウェーデンへ1週間程度の視察ツアーを手がけており、それが「Show」です。
今回、この連載「サステナブルバトン2」のバトンをつないでくださった井出留美さんとも、2019年にスウェーデンへの食品ロスの取材旅行をアレンジさせていただいたのがご縁です。食品ロスを解決したいという情熱とともに、社会的弱者の声もしっかり拾う姿勢が素晴らしいと感じました。
――3つ目の柱、「Do」は何を指しますか?
エクベリ: 弊社のバナナペーパー「ワンプラネット・ペーパー」を作ること、それが「Do」です。バナナペーパーは、バナナの茎を繊維状にほぐし、それを原料として和紙の技術ですいたものです。一般的な紙に使われている木と違って、バナナは1年で成長します。オーガニック(有機)栽培のみを使っているため、環境にやさしい紙でもあります。かれこれ環境系の仕事を20年近く続けてきており、講演などでお話する度に、自分たちも率先してものづくりに取り組まなければという課題意識をずっと持っていました。いろんなご縁から、バナナペーパーを作る「Do」へとたどり着いたのです。
――バナナペーパーは、どんなきっかけで始めたのですか?
エクベリ: 2006年に、当時勤務していた環境系のコンサルティング会社の休暇を利用して、大好きな野生動物を見にアフリカのザンビアへ行くことにしました。休暇が終わろうとしたころ、サファリガイドの方が「村も見ませんか」と誘ってくださいました。村の子供たちはぼろぼろの洋服で靴を履いていない子も多く、深刻な貧困を目の当たりにしました。同時に、貧困が原因で密猟や違法な森林伐採が起きていることを知りました。「いま解決に動かなかったら、そもそも私たちの言うことが現実味のないものになってしまう」と思いました。直接雇用を生み出せる仕組みを探った先に、バナナペーパー作りがあったのです。
――思い立って、それを実行に移すのは大変ですよね。
エクベリ: 最初から知っていたらやらなかったかもしれないと思うほど(笑)、それはもう大変でした。知らなかったがゆえにできたと思いますね。実はバナナペーパーは世界各地で作られていて、インドでは長い歴史があるそうです。調べてみると、和紙工場で作ってもらえることが分かり、私たちは現地の環境などに配慮したものづくりにこだわりました。たとえば、オーガニックのバナナを使うことや、働き手をきちんと教育できる環境づくりをするなど、フェアトレードの基準をふまえたものです。
――村の方々は、すぐに理解して取り組んでくれたのですか?
エクベリ: 実は、村のバナナ農家はもともと、ほとんどがオーガニック栽培だったのです。というのも、小規模で皆貧しく、農薬を買えなかったからです。村の方に初めてお話をうかがうと「すみません、農薬は使っていません」と、まるで農薬を使わないことが悪いことのようにおっしゃるのにとても驚きました。無農薬に高い価値があることを、村の皆さんに伝えたいと思いました。地元の方が気づいていない良さを引き出すのが、わたしたちの役目でもあると思っています。
“パルプ・イン・アフリカ”
――新たに動き出しているプロジェクトはありますか?
エクベリ: JICA(国際協力機構)の支援などを受けながら、和紙の技術をアフリカのいろんな国に広めるモデル作りに動き始めています。また、サステナビリティに関心の高いヨーロッパを中心に、非木材パルプの需要が高まっているので、そちらもチャレンジしたいです。パルプ生産に欠かせない原料の高騰が悩みですが、研究所などと組んで良い方法を見つけて行けたらと思っています。
いま、脱プラからの流れで紙の利用が増えている一方で、コロナの影響などから木材価格の高騰「ウッドショック」が起きています。その点、バナナは成長が早くサステナブルですし、ポテンシャルも高い。ウッドショックの影響もあり、かつては10倍ほど差があった一般的なコピー用紙とバナナペーパーの価格差が約5倍に縮みました。フェアトレードの観点から安易に価格は下げませんが、汎用性の高いパルプ化が実現すれば、一般的な紙として1つの選択肢になれるのではないかと願っています。“パルプ・イン・アフリカ”は、再びスタート地点に立つような感じもあり、サステナブルな事業としてぜひ軌道に乗せたいですね。
――「One Planet Café」は会社としても、フェアトレード認証を受けているそうですね。SDGsとフェアトレードの関係性について教えていただけますか?
エクベリ: サステナビリティには、環境、社会、経済の3つの柱があります。サステナビリティ=環境ではありません。3つの柱をバランスよく維持することが重要です。例えば経済だけに偏ると、環境や社会がないがしろにされ、結果的に経済も立ち行かなくなってしまいますからね。
それには取引をする際、生産者が健康的で長く取引できるほうが、結局は取引する側もリスクが減らせます。つまり、生産者をパートナーとして尊重し、見合った対価を支払いましょう、そのためにルールも作りましょうというのが、フェアトレードです。主に先進国と途上国の間のこととして語られますが、国内であっても状況は同じです。
――私たち消費者は、どんなことを意識すればいいですか?
エクベリ: サステナビリティは、とても幅広く、そこがユニークで楽しいところです。たとえば森に興味がある、動物が好き、人や文化に関心があるなど、自分の“好き”からサステナビリティに入るといいかと思います。ものにはそれぞれ必ず物語、そして課題がありますから、それを知る視点がとても大切だと感じます。私たちはよく、「外側から内側へ」を意味する「Outside-in」という表現を使うのですが、問題を外側から知ることで「私には何ができるかな」と考えられるようになり、ご自分の具体的な選択肢も広がると思います。
例えば、「世界の食料問題を知った」ことがきっかけで、自らの食にも関心を寄せた結果「小さな畑をやりたい」から、「コンポストを始めよう」というように、実践に移す方が増えてきていると感じます。コロナ禍で、暮らし方について立ち止まって考えるようになった方も増えました。弊社にも「私には、なにができますか?」というご質問を多くいただくようになりました。
――パートナーのペオ・エクベリさんと、長年“ゼロ・ウェイスト”、つまりゴミゼロな暮らしを実践されています。
エクベリ: やっていてよかったなと思うベスト3に入るのが「コンポスト」です。生ごみはニオイも気になりますし、ゴミの日に出すのも面倒ですよね。コンポストがあると、そのわずらわしさから解放されます。みみずコンポストを利用しているのですが、あるとき、間違って軸がプラスチックの綿棒を入れてしまったら、そこだけがきれいに残っていました。プラスチックは循環しないため海洋ゴミなどで問題にもなっていますよね。「聡子、これは自然に還らないんだよ」と、みみずが教えてくれた気がしました。地球の大きな循環を、小さなコンポストの中でも感じられるのは楽しいですね。
野生動物好きが原点に
――サステナビリティへの関心や環境意識は幼いころからあったのですか?
エクベリ: きっと、野生動物が大好きだったことが根底にあるのだと思います。パートナーのペオとの出会いも大きいですね。彼は、長年環境ジャーナリストとして活動していて、記事をリリースする前に日本語のチェックをする人を探していました。そこで、日本語教師の資格を持っていた私を知人が紹介したのです。彼の書く環境に関する記事を目にするうちに、自然と興味を持つようになりました。
さらに、リサーチも兼ねて出かけた世界一周旅行も大きな原動力になっています。世界中で日本製品を見ましたし、文化の浸透も感じました。日本の影響力の大きさを肌で感じ、「日本が変われば世界が変わる」と。日本の知恵や技術に、環境のエッセンスを入れると可能性が広がると感じ、それを伝えたいと思ったのが今の活動の原点です。
――最後に、エクベリ聡子さんにとって、サステナブルとは?
エクベリ: 生きる根底にあるもの。暮らしを支えるものですね。SDGsは17の大きな目標を細かく見ると、169のターゲットに分かれています。たとえば目標5の「ジェンダー平等」を見ると、「世帯・家族内で家事労働の責任分担」、「無報酬の育児・介護や家事労働の認識・評価」などのターゲットがあります。とても身近な課題だと思いますし、「夫婦げんかを減らすヒントだね」と話したりしています。大きな目標から取り掛かろうとすると堅苦しく感じることも、細かなターゲットには共感できるのではないでしょうか。
――サステナビリティは、身近なものなのですね?
エクベリ: はい。サステナビリティが、食卓の会話でのぼるようになるといいなと思っています。それが叶ったら大事なステップを1つクリアできたようなものです。そのためにも、私たちは「ワンプラネット・ペーパー」を社会的にインパクトのあるもの、持続可能な紙産業の選択肢の1つとして定着させたいと考えています。お陰様で昨年、日本の紙では初めて、CO2を排出よりも多く吸収し気候変動防止に貢献する「クライメート・ポジティブ」を達成しました。つまり、使えば使うほどCO2が減らせる仕組みです。でも、これで終わりではありません。サステナビリティは終わりのない旅。学びの視点を持ち続けながら、継続していきたいです。
エクベリ聡子(えくべり・さとこ)さんのプロフィール:
株式会社ワンプラネット・カフェ代表取締役
日本企業のサステナブル経営・事業開発支援、人材育成支援の分野に20年以上携わる。2020年、経済産業省が選ぶSDGsに取り組む良い事例15社の1つに選出された。花王やサントリー、ライオンなどと生活密着型企業ネットワーク「サステナブル・ライフスタイル研究会」を展開。企業や教育現場で広く使われている「SDGsターゲット・ファインダー日本語版」の開発も手掛けた。著書に「うちエコ入門 温暖化をふせぐために私たちができること」(共著、宝島社)、「地球が教える奇跡の技術」(執筆協力、祥伝社)など。
- ■サステナブルバトン2
#01留学で気づいた「ファッションを通した社会貢献」。徳島県上勝町でゼロ・ウェイストに取り組む、大塚桃奈さんの新たな挑戦とは
#02「“エシカル”という言葉を使うことで、抜け落ちてしまう何かがある」コミュニティ・コーディネーター松丸里歩さんが考えるエシカルのかたち
#03「サトウキビストローを販売するだけでなく、回収し堆肥化までが本質」4Nature代表・平間亮太さんが取り組む、人と人とのエシカルなつながり
#04「エシカルを押し出すのではなく、コーヒーショップとしてできることを考えたい」オニバスコーヒー坂尾篤史さんが考える、エシカルの本質
#05 旅する料理人・三上奈緒さん「旅する理由は自然の中に。答えは自然が教えてくれる」
#06「自然はとても複雑で答えはひとつではない」アーティスト勅使河原香苗さんが自然から学んだこと
#07「サーキュラエコノミーとは心地よさ」fog代表・大山貴子さんが考える、循環型社会とは
#08「関わるものに、誠実に素直に対応できているか」株式会社起点代表・酒井悠太さんが福島県でオーガニックコットンを栽培する理由
#09 英国発のコスメティクス「LUSH」バイヤー・黒澤千絵実さんが魅了された「美しい原材料」の考え方
#10「心地よい空間は、他者を思いやることから」。ダウン症の人の感性を発信し、居場所作りを進める佐藤よし子さん
#11森を豊かに、自分も心地よく。森林ディレクター奥田 悠史さんが描く森の未来図
#12 ハチドリ電力の小野悠希さん「一人が出来ることは決して小さくない」地球温暖化を止めるため「最も大きなこと」に挑戦 - ■サステナブルバトン1
#01 「消えゆく氷河を前に、未来のために今日の私にできることを考えた」エシカル協会代表・末吉里花さん
#02 「ファストファッションは悪者? そうじゃないと知って、見える世界が広がった」エシカルファッションプランナー・鎌田安里紗さん
#03 「薬剤やシャンプーはすべて自然由来。体を壊して気づいた、自然体な生き方」ヴィーガンビューティーサロン美容師・中島潮里さん
#04「“地球に優しい”は、自分に優しいということ」エシカルコーディネーター・エバンズ亜莉沙さん
#05「花屋で捨てられていく花たちを、どうにかして救いたかった」フラワーサイクリスト・河島春佳さん
#06「花の命を着る下着。素肌で感じるサステナブルの新しいかたち」草木染めランジェリーデザイナー小森優美さん
#07「家庭科で学ぶエシカル。サステナブルな未来は“やってみる”から始まる」高校教諭・葭内ありささん
#08「ふぞろい野菜、瓶に詰めたらごちそうに。自然とつながる“おいしい”の作り方」ファームキャニング代表・西村千恵さん
#09「世界を9周して気づいた、子どもを育てる地域コミュニティーの大切さ」一般社団法人「そっか」共同代表・小野寺愛さん
#10「エシカルとは“つながっていること”。人生の先輩たちの生活の知恵を残していきたい」一般社団法人はっぷ代表・大橋マキさん
#11「庭で見つけた“発見”を作品に」変化し続けるアーティストasatte羽田麻子さん
#12「自分で自分を幸せにしてほしい」TOKOさんが考えるヨガとエシカルの関係
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第50回「”賞味期限”から解放されよう」食品ロス問題ジャーナリスト井出留美さん
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第51回近視対策から地域共生まで。「JINS」が提案する豊かな暮らし
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第52回アフリカのバナナペーパーで環境と貧困対策を実践 エクベリ聡子さん
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第53回アーティスト鈴木掌さんが、ルワンダの子どもたちの自立を支援する理由
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第54回「AFRIKA ROSE」萩生田愛さん ケニアのバラが紡ぐフェアトレード